「じゃあ授業を始めるぞー」
「クマセンセー、棚牡丹さんがいませーん」
午後の授業、の少し前、香奈ちゃんはふらふら〜って教室から出て行った。そのまま帰って来ないんだけど、なにかあったのかな。
「じゃあ誰か探してきてくれー、出席は付けといてやるからー」
「あ、はいっ。じゃあ僕行きます」
「頼んだぞー」
香奈ちゃん以外のクラスメイトは僕が香奈ちゃんに片思いしてる事を知ってるらしくて、生暖かい視線を感じながら教室の外へ出た。
かなちゃん、どこにいるのかな。
とりあえず、こないだ香奈ちゃんの新しい一面を見た中庭付近を捜してみる。
「……いない」
サボってるんだったらこんな見つかりやすいところにいるわけないか。
……もし、サボってるわけじゃなかったら?――お腹が痛くてトイレに籠もってたり、具合が悪くて保健室に行ってたり……もしかしたら保健室までたどり着けなくて行き倒れてたり――サァっと僕の顔から血が引いていった、気がする。でも、確実に顔色は悪いと思う。
どうしよう。香奈ちゃん大丈夫かな、物凄く心配になってきた……。よし、次は保健室を見に行こう。
「きーりしーまくーん」
どこからか香奈ちゃんの声が……。キョロキョロと辺りを見渡すけど見当たらない。コレはもしかしてどこかで倒れてる香奈ちゃんからのテレパシー!?
「霧島くん上だよ上っ」
「かっ香奈ちゃん! そんな乗り出したら危ないよっ!」
「おいでー」
「わかったからフェンスから離れてっ!」
香奈ちゃんが居たのは屋上で、しかも思い切り身を乗り出して手を振ってた。
息を切らせながら屋上の扉を開ける。文化部な僕が走って階段を上がるなんてしたもんだから息がゼェゼェ言っててぶっちゃけカッコ悪い。
「おっ、霧島くん速かったねー」
「かなちゃん……」
一瞬だけ振り返ったけど、また僕に背を向けて、こっちこっち、だなんて自分の隣のアスファルトをポンポンと叩きながら香奈ちゃんは僕を呼ぶ。
「かなちゃん、先生が連れて来いって」
かなちゃんの隣に腰を掛けながら此処に来た最初の目的を伝える。香奈ちゃんは僕をチラリとも見ずに応える。視線の先には……空?
「あー、クマちゃんの授業かぁ……。馬刺って美味しいのかなぁ」
「か、香奈ちゃん?」
「空が青いなぁ」
「どうしたの? 具合悪いの?」
「あー、霧島くんだなぁ」
「え、え? 本格的にどうしたの?」
「霧島くん……」
今までピクリとも動かなかった香奈ちゃんが、隣に座る僕の肩に頭を置いた。……ってえぇっ!? もしかしてもんのすんごっく落ち込んでるのかな。香奈ちゃんが落ち込んでるのにこんなドキドキして、少しでも嬉しいって思う僕って最悪。不謹慎だよね。でも……だって僕は香奈ちゃんの事が好きなんだから、仕方ないよ。
「香奈ちゃん、何かあったの? ぼ、俺っ、で、良ければ話とか、聞くし、だから、そのっ……」
「…………」
「香奈ちゃん? ってアレ? 寝てる?」
「スー……」
香奈ちゃんの頭が落ちないように気を使いながら顔を覗くと、やっぱり寝てる。可愛い……。さっきのは寝ぼけてたって事……? ならよかった。って、この状況どうしよう…………。ここで肩に手を回すとか出来たらカッコイイんだけど、そんな馴れ馴れしい事なんて出来ないし、てゆーか今僕好きな人と二人きり……。ど、どうしよう、考え出したらドキドキしてきた。なんかいい匂いするし、いつもよりも近いし、顔とかもっ……。
彼女の寝顔は、天下一品でした。
(香奈ちゃんの顔がっ、ち、近い――!)