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short story
この世の果てに
リン×ルネ
小さな幸福の種のつづき


デート、と言われたけれど行き先は告げられることなくただただ先輩の車に乗せられた。
そして現在、海沿いをドライブしている。
スピーカーから流れている音楽は少し前に流行った洋楽で、変わらない青い景色とよく合っていた。
「先輩、どこに行くんですか?」
いつもはこちらが喋る暇もなく話しかけてくるというのに、口数は極端に少なくてそれがルネを不安に駆らせる。
先輩はこちらをちらっと横目で見て、微笑んだ。
「この世の果てに、行ってみようと思って」
表情はいつもと変わらないけれど、この世の果てとはどこを指しているのか検討もつかなかった。
車のカーナビを見ると、どうやら北に向かっているらしい。
「眠くなったら寝るといいぜぇ」
わかったのは長旅になるということだった。




お昼になったら、近くのカフェでパスタを食べた。
先輩は私の三倍の量をペロリと平らげて、それに加えてソフトクリームやらたいやきやら目につくおいしそうなものは全て買って食べていた。
私は見ているだけでお腹が膨れるようだった。
このようにゆっくりと時間が流れていくのは随分久しぶりだと感じたのは、どれもこれも先輩のせいだと思ったけれど熱すぎる太陽にそんなことはどうでもよくなった。
それからもどんどん北へと進み、大きな夕日が沈んでいくのをいつの間に洋楽から変わっていた若者に流行りの失恋ソングを聴きながら見た。



「ルネちゃん、着いたよ」
頬を撫でられて初めて自分が寝ていたことに気づいた。
辺りはすっかり暗くて、寝起きの私には何も見えなかった。
車から降りると、潮の薫りを乗せた生ぬるい風に包まれた。
「ルネちゃん、おいで」
手首を捕まれて暗闇へと連れていかれる。
「きゃっ」
アスファルトとは明らかに違う細かい砂の感覚がして、思ったより海に近いことに驚いて思わず声が出た。
だんだん波の音へと近づいていく。
もしや、と思った頃にはもう遅かった。
ワンピースの裾が濡れるくらいまで浸かってしまっていた。
猛暑日が続いているとはいえ、体温とは違いすぎるそれに足元から鳥肌がたっていった。
「冷たい…!」
「ルネちゃん鳥肌がたってるぜぇ。やっぱり夜の海は寒いなぁ」
どこか嬉しそうな彼が憎たらしい。
「びしょびしょじゃないですか!」
「そりゃあ海に浸かれば濡れるだろぅ?」
「何で海に浸かるんですか!」
「あ、ルネちゃん満月だよ」
「無視しないで下さい!!」
いつもだけれど今日の彼はさっぱり何を考えているのかわからない。
寒いと訴えたのに海から出るつもりはないらしく、腕を掴む力は強いままだった。
「ルネ」
視線が絡み合った。
そのまま距離は縮まって、私はそれを甘受した。
一瞬触れただけなのに波のざわめきよりも自分の心臓の方が大きくなって、そして金色の満月のような瞳に捕えられたら今度は張り裂けそうになった。
「ルネ、俺と心中して」
二回目のキスは海の味がした。



2010/09/26 もちーも

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あきゅろす。
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