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蒼の傷痕 赤い爪跡(左之新:左之独白)

俺の愛は熱を灯したまま、同時に終わりを迎えている。

もうどうしようもなくほぼ確定した事柄に俺は絶望していた。巡察が終わって足早に自室への廊下を歩き、ふと彼奴の部屋の前を通る。永倉新八、それが俺の想う相手。
俺は新八のくるくる変わる表情や大雑把ながらの優しさに心底惚れている。女との経験も多くこなしてきたけれど、こうも魅力を感じた相手は今まで居なかった。

(新八、寝てんのかなあ…)

俺は襖越しに見えない姿を想って眼を細める。本当は今すぐにでも手を伸ばしてしまいそうな位に彼奴が愛しい。だが、此方も彼方も男であって、愛してくれることはないだろうと俺は理解している。そもそも、俺達は悪友で親友なのだから。

(腹出したまま寝て、風邪引かなきゃいいけど、)

俺はぼんやりと考えながらある日の事を思い出していた。先日抱いた、女のことだ。
俺に絡み付く腕、欲に濡れた瞳、途切れ途切れに言ノ葉を紡ぐ唇。背中に立てられた爪がギュウと突き刺さって線を引いていた。
中々にいい女だった。だが、俺は女の向こうに彼奴を見ていたのだ。彼奴の蒼色をした相貌が、明るい茶の柔らかな髪が、肌の焼けた逞しい腕が、俺を欲情させる。

ふと、俺は背中に残る跡をなぞるように指を這わせた。そうしてこの間新八と交わした言葉を思い出す。最近彼奴は妙に怪我をしやがるから、見かねた俺が問うたのだ。

「あんまり無茶するんじゃ無えぞ。こんだけ青くして、痛いだろうに…」
「こんくらいの怪我、もうとうに慣れてるっての。だから気にすんな!」
「気にすんなって、お前なあ。」
「左之こそ、どうしたんだその顔」
「は?俺の顔に傷なんか無いぜ?」
「いや、そうじゃなくて…」
「?」
「…お前、俺より痛そうな顔してる」



ズキリ、

(…嗚呼…俺は、最低だな)

痛みを感じた背中に眉を潜め、思い出すのを止めた俺は振り切るように再び静かに歩き出す。

「本当は痛くて痛くて仕方が無え、なんてよ…」

赤い陽の光が射し込む廊下には、夕方特有の冷たい風が吹き初めていた。






の傷痕 い爪跡
新八を想って女を抱く佐之助と佐之助を想っているがゆえに忘れようとしたくてがむしゃらに闘う為、生傷が増える新八=実は両想い的なお話でした。
タイトルはあえて漢字を変えてあります。

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あきゅろす。
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