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青の傷痕 紅い爪跡(左之新:新八独白)

俺はいつか誰かを愛することが出来るだろうか

そんなことをぼんやり思っていたあの頃は、どれだけ良かっただろう。俺は青い空を見上げながら大きく溜め息を吐いた。先程から頭の中を支配し続けているのは紅い髪の彼奴…俺の悪友で親友の原田左之助のことだ。しかし当の本人は今現在ここにいない。俺は珍しく1日非番で、左之は巡回に行っているのだから。

(あーあ、)

俺はごろりと自室の床に寝転んで、ここぞとばかりに彼の事を考えた。実の所、どうやら俺は左之に惚れているらしい。
ここ最近、それが特に酷い。彼奴の事を考えると頭が熱くなって変になりそうになる。俺だって、色恋に弱いと言っても、これが何なのか位わかっていた。

(嫌になるぜ、全く…)

それと同時に俺は理解もしていた。この気持ちは決して伝えてはならないということを。
左之という男は上手い気配りの出来るやつで、かつ容姿も良く大抵の女ならイチコロだろう。土方さんも同じ様なものだが、あれとはちと違う。
まあ、俺にしてみたら愛想よく微笑まれたり甘く口説く言葉なんかより、彼奴が持つまるのままに惹かれるんだから益々質が悪い。

(もう、どうしようもねえなあ。)

俺はゆっくりと瞼を閉じてある月夜の晩を思い出す。
普段は陽に照らされて紅々とした髪も俺より少し薄い肌の色もとっぷりと闇に呑まれているのに、金色に輝く鋭い相貌はギラリとしていて、果ての無い強さを纏うその姿が美しかった。

ジクリ、

(……痛てえ、)

俺は痛みを感じた片腕をゆっくりと上げて、そこらにある痣を一度押さえてからじっと見やる。この間、左之はこの痣を見て眉間に皺を寄せていた。
あの整った顔が歪むのは好きではないが、俺の為にそうされたのは正直嬉しかった。

「おい、新八。お前その痣どうしたんだ?」
「どうした、っていつものことだろ。稽古とか、巡察でやらかしたんだよ」
「そうじゃねえ、」
「あ?」
「前に比べて、跡が増える頻度が増してるだろう。」


左之はよく気の付く男だ。俺の心配も勿論してくれる。だけど俺はもう、そうした『当たり前』に浸れるほど馬鹿ではない。

(この痛み、彼奴には知られちゃいけない…)

まだ鈍い痛みを持つ腕を抱え込み、自らを落ち着かせようと再び瞼を降ろした。せめてもと見えぬ姿を夢に視る。きっと彼はもう少ししたら帰ってくるだろう。

(さあこうして、またこうして…)

それまでの間に、俺はこの閉じ込めた気持ちにゆっくりと鍵を掛け直すのだった。





の傷痕 い爪跡

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あきゅろす。
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