恋して、愛して、焦がされて。(竹久々)
「ね、八。」
「んー?」
「幸せって、何かな」
俺は八の腕枕に頭を預けながら。ふと、聞いてみる。先程までの行為で身体は少々ダルいがまだ起きていたい気分だったのだ。
八も同じなのだろうか、さっきから俺の髪を弄び絡めて遊んでいる。
「そうだなあ、・・・平凡でいられるのが幸せなんじゃないか?」
「平凡?八にしては欲が無いな」
「どういう意味だよ、それ」
最中は獣のように迫ってくる男がそんなことを口にするとは。少しちぐはぐで笑えるけど、流石にそれは飲み込んでおいた(下手をすると何をされるかわかったもんじゃあないからな。)
「でも、八らしいね。飾り気がなくって。俺は反対に欲だらけだよ。」
「兵助?」
「駄目なやつなんだ、俺は」
俺の言葉に少しの動揺を見せた八の胸にすりよって、心臓の音を聴く。一定のリズムが心地好く、汗ばんだ肌同士が吸い付く様に重なっていた。
「俺は八みたいに、何かを沢山愛したり出来ないから、とてもまわりを傷付ける。それを回避する為に枠から外れれば、平凡は遠くなるばかりさ。」
俺は、知っている。平凡が如何に幸せで、如何に難しいことかを。特に俺達忍には、夢とも思える。
忍の日常が平凡と化せば、それはヒトの平凡ではない。後戻りは、出来ない。
「八が羨ましいよ。」
けれども、彼は違う。忍のくせにヒトを愛する男、それが八だ。俺達はほとんど同じだけ忍務をこなしているはずだが、八の瞳は純粋無垢なあの頃の輝きを今も持ち合わせている。
ヒトを愛し、獣を愛し、生きるモノに安らぎと絶望をくれる八。彼の流した涙はきっと、大地に染み込んで花を咲かせるのだろう。ああ、俺は、その花になりたい。
「なあ、兵助。」
「ん、」
「そんな悲しいこと言うなよ。」
「八、?」
俺がぼんやり浸っていた間に、八の顔は切なそうに歪められていた。その表情にじくりと胸の奥が痛んだ。
「兵助は賢いだけだ。それも、枠から外れてなんかない。お前は新しい繋がりを作っただけだろう。」
八は俺の身体を一層引き寄せて、真っ直ぐな眼を向けてくる。八の瞳の中の俺は、何だか泣いているみたいに見えた。
「今は俺も、三郎も雷蔵も勘右衛門だっている。だから、そう寂しそうな顔をせんでくれ。」
「は、ち、」
「お前が愛せないなら俺がその分愛してやる。傷付けるなら俺が全部負ってやる。」
八の声がビリビリと身体中に響いた。俺の視界はもう随分とぼやけていてよく見えない。それでも、やっぱり、八の瞳はきらきらしていた。
そのせいだろうか、俺の口からはするすると欲が紡がれる。ずっと秘めていた八への欲が。
「八、お願いだ。俺を愛していて・・・。」
本当はずっと、隠していくつもりでいた。俺は、いつか来る最後を、恐れていたのだ。
「俺は八が恋しくて、気が狂いそうなんだ。お前が流す優しい涙で咲く花に、俺が成れたらどれだけ幸せだろう!」
もう、堪らなくなって。俺は心の内を吐きながらみっともなくボロボロ泣き、懇願した。その間、八は優しい眼差しで俺の身体を抱き締めてくれる。
「八、俺、八が好き。愛してる・・・」
「俺もお前を愛しているよ。ずっと、ずっとだ。・・・だから心配しなくていい。」
ゆっくりとなだめるように這う掌が心地好く、愛しい。ふともう一度八を見れば柔らかく笑んだ後、困ったように言う。
「でも花になるのは止めてくれ。」
「何故・・・?」
「花に口付けてもだんまりだろうからさ」
、と。徐に俺の顔に影がかかり重なる唇。暖かな温もりは、当然の様に俺を包み込んでくれた。
「な、俺からもお願いだ。ヒトのままの、兵助でいてくれ。そうしてくれたら俺はいつでも側に居られる。」
恋して、愛して、焦がされて。(俺が大きく頷けば、今度は深く深く唇を塞がれた。)
フリリク企画、木葉様リクエストの竹久々SSでした!甘々200%でも裏突入でも!というリクを頂いたので奮闘してみたのですが如何でしたでしょうか^^;一応普段より台詞が甘さ倍増の気持ちで書いてみました。裏は仄かにちらちらしてますが、きっとこのあともっかいにゃんにゃんです^ω^←
木葉様、リクエスト有難う御座いました!
お持ち帰りは木葉様のみOKです。
2010.10/19 椙竹さと
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