届かない言ノ葉(竹→久々)
初めて彼奴を見た時、俺は目を奪われた。目だけじゃない、眼も心も俺の魂までも彼奴は持っていってしまったんだ。
あの瞬間、俺は生まれて初めて恋に泣いたのだった。
同時にそれこそが蕀の道で俺はそれからというもの悩む日々を送ることになる。
絶望的だった。絶望の毎日だった。
だって彼奴の追いかける先には俺なんかいるはずがないんだから。賢い彼と愚かな俺はどうあっても釣り合わない。そもそもの所、本来これは男の俺が男の友人に対して持つ感情ではないはずで過ちでしかない。非生産的行為が生むのは自己満足のみであるし、彼奴が態々選び取る道とは到底考えにくかった。
そんな不毛な恋心は行き場を無くして鉛よりも重く俺の精神を蝕んでゆく。
手を伸ばせば触れられる距離がもどかしい。いっそ触れてしまって突き放されればどんなにか楽なのに、それは世界の終わりと同じ事で俺には恐ろしくて行えず。意気地の無い、宙ぶらりんな男。そんな自分が憎くて仕方が無い。
(嗚呼、兵助、俺は、お前が)
この続きを伝えたいのに。愛しい彼奴は尚も遠く。
「好きだ、」
一人小さく紡いだ言の葉だけが、ただ空しく空気に溶けていった。
届かない言ノ葉(届けることの不可能な言葉)
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