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第四話
―NBL885(図書室)―


カツ、カツ、カツ


足音が静寂に呑み込まれる。僕は扉の前で一本の鍵を使った。


ガチャ、バタン。


古びた扉の向こうは小さな小部屋。此処には重要とされる書類がいくつも保管されている(しかしながら僕も総てを把握しきれている訳ではない。資料はあまりに膨大だったからだ)

「立花先輩、お探しなのはどの辺りの物ですか?」
「、…ちょっと待っていてくれ」

立花先輩はポケットから折り畳まれた小さな紙を取り出して確認している。
少しの間、沈黙が走った。

「うん。やはり間違いない。…悪いが不破、521-bの資料の場所を教えてもらいたい。」
「わかりました。」

僕は早速言われたモノの箇所を探していく。(えーと。521-b、521-b………ん?)
ふと、違和感に行き当たって添えていた指を止める。立花先輩は腕を組んだ格好でゆるやかに笑んだ。

「どうかしたか。」
「あ、いえ。」

僕はあわてて元に戻り、再度目的のモノを見つけにかかる。(確か、この辺に…あった)

「立花先輩、此処です。」
「そうか、有難う」

僕の目の前を先輩の黒く艶やかな髪が通り抜ける。先輩はいくつかのファイルを手にして何やら模索し始めたようだ。

「ふむ…」

手持ち無沙汰になった僕はぼんやりと先輩を見てみた。僕のひとつ上のこの人は、正に戦場に咲く華と呼ばれるヒトで、仕官学校時代もこの天性の風貌はとてもよく目立っていたものだった。(それにしても、どうして今更521-bの資料を調べているんだろう?)

「…あの、先輩」
「ん?」
「確か中在家先輩は今、」
「ああ、この場所にいるぞ」

トントンと先輩は真っ黒なファイルを指差しながら目線を上げる。

「確か彼処は五年前に封鎖されたままでしょう。それをわざわざ調べるとは…何か意味でもあるんですか?」
「ふふ、よく気が付くものだな。」

小さく笑ってから先輩は僕にキチンと向き直った。

「お前も知っての通り、五年前に我々はあの惨劇を目にした」
「………『見えない敵』、ですね。」
「そうだ。だがな、これには少しおかしな部分が多くある」
「おかしな部分…?」
「気付いたのは長治だ。だけれど私も彼の考えに賛成意見でね、随分筋が通るのだよ…まあ。まだ確実かどうかは私にもわからないが」

スッと立花先輩は立ち上がって扉に歩いて行く。

「ただな、不破。これだけは言っておく」
「…?」
「惑わされるな。」

カツ、カツ、と音を立てて。艶やかな黒髪のその人は図書室を後にした。
最後に聞こえたのは助かったぞ、という礼の言葉だけだった。




(第四話 了)

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あきゅろす。
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