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縁起説より経験論(久々竹)


八は、カタカタと肌を震わせながら怯えた目で俺を見ていた。


「……あ、ぅ」


雷蔵は八をソッと離してから音もたてずに鉢屋と教室から消えた。残された俺は先程からジットリと彼を見つめるばかりである(どうして八はこんなに顔を青くしているんだろう)

「………八、」

ビクッ!!!!!

八に触れようと腕を伸ばしたら彼は大袈裟なまでに跳ね上がった。

「?」
「…あ、その…」

ソロソロと後退りながら八は辛そうに顔を歪める。何か言おうとしていたようだが、それ以上に声は聞こえなくなった。
暫くの、沈黙が訪れる。

「………。」
「………」
「………。」
「…っ…ふぇっ」

八は耐えきれなくなったのかボロリと大粒の雫を溢し初めた。…しかし俺はなにも言わない。(八からの言葉を聞きたかったからだ)

「っめ…ごめ…んなさ…」
「八左ヱ門?」
「も、ッ、駄目…なん、だっッ俺、俺は…っ」

彼は力が入らないのか、ゆるゆると床に崩れていく。尚も涙を溢す八は自らの身体をかき抱いて、言った。

「、汚れ…っちゃ…った、から…っ兵助、俺のことっ、嫌いになっちゃっ……っ」


堰を切ったように泣きじゃくりながら八は何度も『ごめんなさい』を繰り返す。


「っや、だ、お願いっ…へ、すけ…嫌わ…ない…で」


ゾクゾクゾクッ!!!!俺の背に冷たいようななまあたたかいようなカイカンが一気に昇りつめてきた。きっと俺の今の顔はほうほうとしているだろう。しかし八は俺に嫌われたものだと思い込んでいるようで、気付いてはいなかったようだ。


「八、八…」
「っひく、…めっ、ごめん、ごめんなさっい!」

俺は、己を酷く恥じりながら罪を謝り続ける八に欲情を感じる。(俺はこうもオカシく成り下がっていたのだなあ)八に触れたくて堪らない。その為にはまず甘い言葉を吐こう。



「謝らないで、八。汚れてなんかないよ。汚くなんてないよ。八は綺麗なままだ」
「…ぇくっ、うっう」
「例えね、八が汚れていても汚れてしまったとしていても、俺はかわらず八が好き。大好き。…だから怖がらないで?」
「へ、すけ…」

ゆっくりと腰を屈めて八の頬に指を這わせる。彼はしゃくりをあげながらも、今度は逃げなかった。
落ち着かせるように何度か撫でてやると、すりり、となついてきた。

「ふふ、いい子。」

御褒美とばかりに額に唇を寄せれば、八は困ったように眉を寄せながらはにかんだ。

「ありがと…」

彼はこんなにも俺に溺れてくれている。
俺はもうすでに溺死している。

クラリと目眩を覚えた俺はすかさず八を抱き締めて、耳元で囁く。


「八、可愛い」
「んっ…そんなこと無…」
「ね、抱いていい?」
「…あっ」

八は真っ赤にした顔を恥ずかしそうに焦らしたあと、小さく小さく頷いた。











縁起説より経験論
(君の華はボクノモノ)

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