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貴方という存在・3(鉢雷+久々)




「失礼しました。」

静かに医務室の扉を閉めて廊下に足を踏み入れる。
あのあと伊賀崎が応援を頼んだ数人の先生によって八は学園に運ばれた。

「あっ、三郎!」
「雷蔵。」

角を曲がった所で同じ顔にぱったり出くわす。そこには息を切らせた雷蔵がいた。

「八は…どうなの?」
「ああ、命に別状はないらしい」
「良かった…!」
「だが、………どうにも目を覚まさないようなんだ。」
「え…?」

新野先生が見た所、頭を強く打ち付けたわけでもないようで、原因がよくわからないらしい。
そもそも私は八を見つけたあの時に、一度言葉を交わしているのだ。どうかんがえても、おかしい。


「今は、見守ることしか出来ないそうだ…」
「そんな!もっもし、八がこのまま目を覚まさないなんてことになったら…っ!」
「…それは、」

涙を隠そうともせずに雷蔵が私を見つめる。『大丈夫だ』と。答えられれば良かったがしかし、私には、それが…出来ない。まして、この者には特に。



「死を、意味するだろうな。」
「…三郎ッ!」
「私だって!…私だってこんなこと言いたくはないさ。」
「………」
「でも、だからって。…目を背けたらそれこそ八を………」

裏切る形になってしまうのではないだろうか。
八は確かに、あの瞬間。


自らの意思で大切な人を護ったのだから。


「なあ、雷蔵」
「何…」
「もし、もしも私があの状況になっていたなら。雷蔵が危険にさらされていたのなら。…間違いなく私は私を八と同じようにしただろう。」
「そんなのっ…僕はっ!」
「『望まない』かもしれないな。だけど、…止めらんないんだよ。」

正直な所。私には八の気持ちがわかったようで、少しだけ。わからなかった。(それはきっと、私が結局『鉢屋三郎』でしかないからなんだろう)

「兎に角。一刻も早く兵助に知らせてやろう」
「…………わかった、」

私達は二人、足早に五年長屋へと向かうのだった。























俺は三郎と雷蔵の報せを聞きつけ、真っ直ぐに医務室に飛び込んだ。


「八、」
「…………」


あれから、5日。新野先生の治療を受け、部屋に戻ってきた八。だけれど彼は今だ目を覚ましていなかった。

「今日はいい天気だぞ。ほらっ、お前みたいな太陽が燦々としている。」

俺は八の側を離れなかった。例え授業があったって。何が起きたって。…八の側を離れたくなかった。

俺は八の横にぴったりと寄り添い、ジッと彼を見つめる。

(……………どうして、)

先生の話によれば、心臓は穏やかに打たれ、傷口も少しずつではあるが回復を見せているらしい。
だけれど変わらぬ、死んだように眠っている状態。

(………どうして…)

ギュッと自らの胸が締め付けられた。痛くて痛くてたまらない。
この5日の間ずっと八を見つめながら思っていた。
どうして八はあんなことをしたのだろうか、と。

「本当は、俺であったはずなんだ。…『こうなる』はずだったのは、俺であったはずなんだ…!」

俯いたまま服の裾を乱暴に握りしめる。ジワリと滲んだ視界が歪みを増した。

「俺がっ…俺が悪かったんだ。俺が変な嫉妬したから。足元に気を付けなかったから。俺…俺がっ…」

たまらなくなって八の小さく上下する胸にすがりつく。そこはほんの少し、温かい気がした。

「ゴメン…八っゴメン…!いくらだってっ謝るっから…!ひっ…く…だからっ…このまま目を覚まさないなんて…俺っ…嫌だよぉっ…」

ボロボロとひっきりなしに涙が溢れる。止まらない。止まらない。

「起きてくれよっ…八左ヱ門っ…!!!!」









そうして、君の笑顔を俺に見せて欲しい―――――――









貴方という存在・3

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