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ガーネット・3/後編(竹久々)



「竹谷はん、お堂の中から出て来はったみたいやけど…何で?」
「ああ。友人が暑さ負けしたようでな、ちょっと場所借りて休んでたんだ」
「友人……ふふっ」

お菊は手を口元に寄せてまた微笑んだ。

「何だ、何故笑う」
「あんね、竹谷はん」

シャンッ

「うち、竹谷はんの事、気に入ってしもてん」

シャンッ シャンッ

(また、鈴の音…!)

「せやからな、あの人邪魔なんよ。竹谷はんにあんなに大事されて、」


シャランッ!


「めっさ、憎い。」


ぶわっ!!!!


刹那、またあの生暖かい風が吹き抜けた。俺は思わず腕で顔をおおい、目を瞑る。

「っ…!!!」
「ちゃんと見とかなあかんよ。」

一瞬のうちに移動したのか、お菊が目の前にいた。
腕を伸ばし、絡み付けて俺に顔を近づけていく。
どうしたことか、身体が石になったかのように動かない。


「っく…そ!!や…止めろ……!!」
「ふふっ。口が聞けるだなんて、強いお人やねえ。ますます欲しゅうなる。」
「兵助に…手を、だ…すな…!」

口にした恋人の名に、お菊は隠しもせず顔を歪める。

「こないな状況でまだそんなこと言いはりますのん?」

ギリ、お菊の細く見える手が肉に食い込んだ。びくりっ、反射的に肩が鳴る。

「つっ…!」
「痛がる顔もええですねえ。やっぱり、神経は残しとくに限りますわ。…そうや!」

お菊は嬉しそうに続ける。

「竹谷はんがうちを『愛してる』って言うてくれるなら…あの男、生かして返したる!」

嬉々とした表情のお菊。俺は眉を寄せてそれを睨み付けた。引き結んだ唇の端から血の味がする。

「やん。そない怖い顔、せんといて」

(この女、楽しんでやがる。)

俺がお菊に従い、縛られれば兵助は助かる。
兵助は、助かるのだ。

例え己は屈辱を味わおうとも。

兵助は、助かるのだ

(…兵助……、)

「…………わかっ…た」
「!」
「お…前の、言う。通りに、」
「ほんま!?じゃっじゃあ、言うて!早よお早よお言うて!!」

急かすようにお菊は俺の顔から視線を離さない。
その瞳はぎらりと赤かった。






さあ、






だ。








「………『愛してる』」






ガーネット・3/後編

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あきゅろす。
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