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ガーネット・3/前編(竹久々)



(確か、この辺に古寺があったはず…!)


倒れた兵助を背負いながら、走る。走る。
背中にもたれる彼は熱いはずなのに妙に冷たい気がする。

(急がなくちゃ…!!)

長い石段をかけ上がり、広く開けた本堂にたどり着いた。人がいなくなってかなり経つのだろう、草木はあちらこちらで成長を見せ、自然が自然を呼んでいる。だがどうしたことだろう、建物は荒れずにそこに佇んでいた。

(……奇妙だな。)

少し警戒してみるが人の気配は無い。俺はとにかく兵助を休ませるべく、本堂に転がりこんだ。












ぺたり。彼の額に水筒の水で絞った手拭いを置いてやる。


「兵助、」
「………」


先程から何度も名を呼びかけるが兵助は固く目を瞑ったままだ。赤く蒸気した頬は熱く見えるのだが白い手を取るとやはり変わらずに冷たい。

「どうしよう…」

何の病だろうか。
俺は詳しい医療知識を持ち合わせていない(基本的なものか、生物関係とかしかわからないんだ!俺の役立たず!!)から対処のしようがわからない。

「学園に戻れはしないし…」

今はもう夕方だ。戻ったとしてもすぐに夜になってしまう。何より、兵助を残しては出て行けなかった。

「なあ…兵助、起きてくれ。お前の声を聞かせてくれよ……」

白い手を握りしめ、祈るように横たわる兵助を見つめた。

橙色の太陽が藍色の空に消え行く。











シャ―――――ッ ン



「…ん?」



シャンッ、――――シャン



「何だ?」



シャランッ、シャン



何処からか鈴のような美しい音色が響いてきた。
俺は顔を上げて音の位置を探す。


シャランッ

「外…?」

兵助の手を静かに床に置いて、俺は外への扉をゆっくりと開いた。



生暖かい風が肌をかすめる。
目の前に広がる大地の上には背を向けた女が1人、立っていた。

(おかしい、こんな所に着飾った女がいるはずがない。)

俺は警戒を強め、体を半歩後ろに引いた。
そんな俺に気付いたのだろうか。女が此方をくるりと向いた。

「なんや、人がおるやないの。ややわあ」

白い白粉を薄く塗り、紅を引いた若いようで大人びた、女だ。さした簪には鈴が付いている。

俺を見るなり、ニコリと笑んだ。

「お前、誰だ。」
「何やいきなり。不躾な男やね」
「いいから答えろ」
「……『お菊』言います。」

お菊と名乗る女は笑みを崩さずに答えた。

「何でこんな所にいる」
「うちがお参りに来たらあかん?」
「こんな時刻に着飾った女が来るはずがないだろ。」
「ええやない、急に行きたなったんやもん」
「…………」
「それよかあんた、名前何て言いはりますのん?」

挑戦的な強い眼差し。華やかな色がなんとも艶めかしかった。

「俺は竹谷。」
「ふーん。」


お菊は俺を観察するように見るなり、笑みを深くした。








ガーネット・3/前編

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あきゅろす。
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