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手繰り寄せた、紅き糸/後編(竹久々)


ガサガサ、ガサリ


「見つからねーなあ…ジュンコ…」
「竹谷センパーイ」
「お?綾部君?」

例によって、何時もの如く脱走した毒虫を追いかけていた俺に、綾部君が声をかけてきた。
彼方から話しかけてくるなんて何とも珍しい。(どうも彼は他人に興味が無いようだった。)

「俺に何か用か?」
「彼処のタコ壺の中身、センパイにお任せします。」
「タコ壺…?」

綾部君が指差した先を見れば確かにタコ壺が。
しかし何を俺に任せると言うのだろう。
彼は少し笑みながら更に続ける。

「この間のお礼です。遠慮なくどーぞ。」

俺の返答すら待たずに、それだけ告げると綾部君はスタコラと行ってしまった。わけもわからず俺は立ち尽くしたまま、彼の背中を見送る。

(『この間のお礼』…?)

ふと、竹谷は先日の事を思い出した。

(ああ、確か綾部君の置き忘れたスコップを長屋に届けてやったっけ。)

きっとその事だ。…しかし、タコ壺が何でお礼になるのだろう。

(………まあ、とりあえず…行ってみようか。)

俺は虫探しを中断し、歩を進めた。








たいした距離でもないので、直ぐにたどり着く。
とにかく覗いてみた。

「さてさてっと……お?」

薄暗くて見えにくかったけれど、そこには自分と同じ群青色の制服を着た、久々知がいた。

「久々知!どうしたんだこんな所で!」
「た……竹谷…」

此方を見つめる瞳が妙に潤んでいるのは気のせいだろうか。(きっと心細かったんだろう。)

「今、引き上げてやるからな」

俺は持っていた虫籠を床に置いて、捕獲用に利用するはずだった縄を取り出すと近くの木にくくりつける。片方を久々知に投げて寄越した。

「よしっ。いいぞー久々知、これで上がって来い!」
「あっああ…」

久々知が縄をつたい、穴から少しずつ出てくる。
俺はゆっくりと上からそれを見ていた。
彼の黒髪が揺れ、段々受ける光が多くなってくるのを見て、鼓動が高鳴った。

(あー、やっぱ…うん。俺はコイツが好きなんだな…)

久々知は俺の気持ちに気付いていないのだ。(と思う。)…何と無く態度でわかる。
だが、俺の事を嫌っている訳でもないし、何より俺達は長年の親友。少し胸が痛むが、仕方ないのだろう。

(…………本当は、触れたくてたまらない、のに、…?)

そうこう考えているうちに、久々知はヒョコリと頭を地面から出してきていた。あともう少しで出られる。

(お前に、触れたい…よ…)

…俺はスッと手を差し出し、久々知の腕を掴む。

(こんな風に想ってしまっている俺を、お前はどう見るんだろうか。)

「竹谷?」

理解しきれていない久々知をそのままに、

「大人しく、してろよ?」
「え。」

俺はグイと一気に彼を引き上げた。

「わあっ!」

驚いた久々知は声を上げ、引き上げた勢いで俺達は土の上に倒れ込んだ。

ドスンッ!

俺は受け身を取りつつ(それでも少しだけ、背中を打ってしまった…痛え)
久々知を抱き込むようにして庇う。

「大丈夫か、久々知。」
「……なっ何とか…」
「なら良かった」

俺は微笑を浮かべ、ゆるゆると黒髪を撫で付ける。

「でも竹谷、ちょっと乱暴すぎ。最後、いきなり引っ張り上げようだなんて…驚いたぞ」
「悪い悪い、…無償にお前に触れたくなってなあ」

久々知の表情は俺の腕の中にあって見えない。

(さて、どう反応するだろう。……怒って殴られるかな。)

少しして、状況を理解したのか、ガバッと顔を向けてきた。

「何、だよ…それ。わけわかんねえ!」
「そのままの意味だ。」
「だっだって!……竹谷、お前、…」

ゆらり、先程穴の中からみた潤んだ瞳が確かに目の前に見える。(見間違えじゃ、なかったみたいだ)
そして、あからさまに桃色に染められた頬。
つまりは、そういうコト、なのだろう。
俺は嬉しくなって久々知をさらに抱き締める。

「うん。俺は、お前が…久々知が好きなんだ。」
「!」

ビクリ、一度久々知の体が大きく揺れる。だけれど、逃げる様子は…全く無い。かわりにゆっくりと俺の背中に腕を伸ばしてくる。

「俺も………竹谷が、好き。」

小さいけれど確かに返ってきた声に、笑みが溢れた。




腕一杯に、熱い君の熱を抱き締めたまま―――――





手繰り寄せた、紅き糸/後編
(離しはしない。ずっと、触れていたい。)
兵助君が穴に落ちる回数が多かった原因⇒最近、何故か竹谷のことを考えていたから足元に注意を払うのを怠ってしまっていた。からです。
因みに兵助君は、穴の中で自分の気持ちに気付きました(え)

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あきゅろす。
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