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sweet temptation like a box of chocolate<甘い誘惑>
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緒方尊のデモンストレーションが始まった。

無駄に疲れた一限目を終え、休憩する暇もなく実習室に移動した。今はメモを取るべく皆が我先にと緒方が立つ周りを囲んでいる。

彼が今日作るのは“デセール”である。つまり皿盛りデザートね。patisserie takelu OGATAのカフェで人気のメニューをアレンジしたものらしい。ピスタチオのアイスと旬のイチゴと彼が最も得意とするチョコレートのケーキをなんとも芸術的に盛り付けていく。神の手とはこういうのを言うんだろうなと感動してしまう。

丸い皿の中央に、濃厚なチョコレートで表面をコーティングされた小ぶりのズコット。中はビターチョコとフランボワーズのムースだ。右側の少し後ろにキャラメリゼされたヘーゼルナッツがトッピングされたアイス。そして左側手前にはイチゴのジュレとフロマージュブランが二層になったグラスが置かれる。

ものすごく美味しそうだ。でも綺麗すぎて食べるのがもったいないな、と相反する考えが頭をよぎる。

最後にアイスに羽の形をしたラングドシャを飾って仕上げを終えた緒方。
「さて、これはうちで出しているものを少しアレンジした物なんですが、ほぼ店と同じレシピです。次の時間はそのレシピを参考に皆さんがそれぞれ作ってみましょう。では今からレシピを配ります。そして細かい作業をもう一度詳しく説明しますので、今度はレシピを見ながらメモをとってくださいね」
と笑顔で言うた、女子は顔が真っ赤になった。

「今作ったものはアイスが溶けてしまうので、そうだな...田中先生に食べて頂きましょう」どうぞ、と隣に立つ田中に勧める。
「えぇ?いいんですか?いやーみんなすまんなぁ」ははは、と田中先生は頭を掻く。

もう少し申し訳なさそうな顔をしろ田中。と心の中だけで突っ込み、視線を緒方に戻す。するとまた視線が絡んだ。

「.....」
「.....」

なにこれ。
なんで見てるの?怖いからほんと勘弁してほしい。

他の生徒は田中羨ましいだの、緒方様かっこいいだのと騒いでいて、まるで俺たちの時間だけが止まっているみたいだ。

耐えられん!

逃げるように視線を逸らし、その先にいた田中に思わず「田中ちゃん一口お恵みをっ」と駆け寄った。
「やだ、お前は後で食べられるだろうが」
「お願い一口でいいからー」もはや食欲など恐怖で感じてもいないが、そこは問題ではない。取り敢えず絡んでみる。
「ちっ、俺はジャイ◯ンじゃあないからなぁ。仕方ない」とズコットをフォークで掬って「あ〜ん」をしてくる。
クソ。あ〜んの「〜」がやたら腹立たしいがここは甘んじて受けよう。そもそもあんたはジャイ◯ンではなくの◯太だよ田中。

口を開けた瞬間、口の中に広がったのは何故かオレンジとチョコレートの味だった。
あれ?確かフランボワーズだったはずだよな?
視線を辿ると、そこにいたのは緒方だった...。
トンネルを抜けるとそこは雪国だったっぽく言ってみたのは混乱しているからに他ならない。たぶん。

緒方の向こうに見える田中はフォーク片手に固まっている。
そりゃそうだ。何故か間に割り込んだ緒方が俺に「あ〜ん」しているんだから。

取り敢えず飲み込むべく口を動かした。
...するとなぜか懐かしい味がした。
記憶にある、あの忘れられない味が。
はっ、と目の前の緒方を見ると、これまた理由がわからないが不機嫌そうだった。

.....なんで?

もう頭の中はハテナだらけだ。
記憶にある味と似ているような、微妙に違うような...。もう一口食べさせて欲しい。そう思い至った時、「さて始めましょうか」と緒方の声が部屋に響いた。
ざわついていたのが一瞬で静まった。
俺から離れていく緒方からは表情はもう読み取れなかった。

「翔、口にチョコついてるぞ」水無瀬が親指で俺の口を拭ってそれをペロッと舐めとった。
「...おぅ」
「なんだ?いつもなら『みーたんのエッチ!恥ずかしいからやめてよ〜でもちょっと嬉しい...テヘッ』くらいの返しをするのに」と失礼な事を言っている(まぁだいたい合ってるので反論はできない)が、おれはそれに突っ込む余裕もないほど動揺していた。






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