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sweet temptation like a box of chocolate<甘い誘惑>
出会い
俺には忘れられない味がある。

それは母さんの作る味噌汁でも、ばあちゃんの得意な筑前煮でもない。


オレンジとチョコレートのケーキ。
誰が作ったのか?
それが思い出せないから困ってるんだよね。


そのケーキ、もとい作ったお兄さんと出会ったのは8年前に遡る。

俺が11歳、小学校六年生の時だ。従兄弟のまゆちゃんが結婚する事になって、結婚式を挙げるホテルに泊まった時のこと。

あ、ちなみに俺の初恋はまゆちゃんだ。こんな美人は他にいないと思っていたから、結婚を知った時はショックで三日ほど熱を出した。
今思うと失礼ながらまゆちゃんは中の上くらいだと思われる。小学校の時とか年上に憧れるだろ?まぁそんなもんだ。


俺の住む田舎から結婚式場となるホテルまで電車だと二時間ほどかかる。日帰りはきついだろう、じゃあホテルに泊まっちゃおうか。何なら有給使って二日泊まっちゃえ。
という感じで、結婚式の当日と翌日に連泊する事に決定した。

結婚式は昼間に行われて、披露宴でわんわん泣いた。そんな俺は完全に浮いていた。
だって俺のお嫁さんになってくれるって正月に言ってくれたのに、隣は10歳も歳上のおっさんだったんだ。年上が好きだったなんて裏切りだと思う。そりゃ涙も出るよね。


披露宴も終わり、親戚達で食事に行こうという事になっていたようだが、傷心の俺は一人ホテルに残ることを決めた。

帰りにご飯を買ってくるね、とジュース代だけ握らせて両親と弟とは出掛けた。

部屋にいるのも退屈だなと思い、シワになると怒られるのでスーツからジーパンとTシャツに着替えてホテルの探検に繰り出した。


方向音痴の俺はもちろん迷子になった。ホテルって広いのな。

ぐるぐる歩き回っていると従業員たちが休憩するような部屋に辿り着いてしまった。
やばいかなと元来た道を帰ろうとしたら、
「なにやってんだ坊主」と呼び止められた。


振り向くとなんだか男前なお兄さんが疲れた顔をしていた。

「傷ついた心を癒すための旅をしていたら、迷子になりまして...」

「なにそれ。ギャグ?」

「いや、本当に迷ってるんです」

「ホテルの宿泊客か?」

「そう。今日と明日泊まるの」

「じゃあフロントまで連れてってやるよ」

「ありがたいんですが、まだ家族は誰も部屋に戻ってないから」

「ふーん、じゃあとりあえず座れば?」



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