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*treasures*
Garden(ハヤナツ)/浅葱ゆいさま
部活の練習は午後からなのにお昼のための弁当を作っている理由は実に簡単だ,自分の学校で午前中から幼なじみである彼女が練習試合に来ているからだった。本人の希望もあって昼食は一緒に食べようと約束してしまったのでいつもより早めに自宅を出る用意をして
いつもより多めに作った弁当を愛用のリュックの中に入れて勇人は家を出た。


*Garden*


予定した時間よりも早めに学校に着いた勇人は今まさに試合中であろう第一体育館へと向かう。部室は練習試合をしているバレー部の使用する第一体育館とバスケ部の使用する第二体育館の間にある通路の場所にある為,どうしても足止めされてしまうのだ。
そんな第一体育館の入り口には試合が気になって見に来ている他の部活の部員がちらほらと見えたのでその中に勇人も加わり二面に分かれたコートの奥で繰り広げられている自校と彼女の学校との試合を見ていた。得点からみても試合の優勢は歴然としていて中でも他校のアタックを決めているのは紛れもなく勇人の幼なじみである夏美だった。

「…あいつ,容赦ないな」

明らかに自分の学校側が負けているのに,苦笑いしつつもアタックを決めた時の夏美の爽快な笑顔を勇人は嬉しく思っていた。
試合終了の笛が鳴り終わるとお互いに礼をして健闘をたたえるように握手をすると自校の1年生であろう部員達がコートにモップをかけ始める。どうやら最後の試合だったのだろう夏美達の他校生は去る準備をしているようだった。夏美の話によれば午後は男子達の練習試合もあるらしい。入り口に集っていた観客も各々の部活に戻ったり,今の内に部室棟に入る者もいた。勇人もまさしくその一人なのだが,お昼のこともありどうしようかと正直迷っていた。声をかけようにも他校の女子部員だ,自校の生徒から変に思われてしまうかもしれないし,何よりも自分の知らない仲間に囲まれている夏美に正直とまどった。
考えた末に勇人は一度部室に行って携帯で連絡しようと決めて部室へと向かおうとしていた時だった

「あっ,勇人!」

ちょうど反対の方向から聞こえてきたその声は勇人にも聞こえるほどの大きさで,勇人を知る何人かの生徒の視線はまさに彼を見ていて無視はできない状態だった

「…よう」

気まずさのなかでようやく振り絞った返答とそぶりに夏美は自分のバックを担いで他の部員達に「それじゃ」と軽い挨拶をしてこちらに向かって走ってくる。こんな時,彼女の無邪気さは少々困りものだ。

「早かったね,もしかして試合見てた?!」
「ああ,ボコボコにしてたな」
「勇人の学校だからって手は抜かないよ」

いつもの自宅での会話と変わらないのに次々といろんな目線が刺さる。夏美達の学校とは違い電車で通う遠出の勇人の学校には同じ中学時代の生徒はほとんどいない。ゆえに二人の関係を知るものは無二に等しかった。

「他の部員とかいいのか?」
「うん,みんな午後の男子の応援するからその時までね。お弁当持ってきた?」
「そっか。弁当は今部室いって荷物おいてくるから…少し待ってろ」
「はーい」

そういって勇人は無意識に早歩きになって部室へと入った。幸いにも他の部員はいなかったのでさっさと荷物に中からいつもより大きめのランチボックスを持って部室を出て夏美の元へと向かった。

部室棟の入り口で待っていた夏美は勇人が帰って来るなり行きたい場所があるといって,その腕をとってぐいぐいと引っ張っていった。

「急かすなって,一人で歩けるから」
「だってあたし勇人の学校初めてだし,いろいろ教えて欲しいもん」

キラキラと好奇心に満ちたその目に一瞬不覚にもドキリとしてしまったが,休日であっても意外と多い在校生の目がチクチクと刺さってはっきり言って気まずかった。

「…で?どこに行きたいんだよ」
「じゃあ,勇人のクラス!」

相変わらずの突飛な返答にあきれながらも勇人は自分のクラスのある棟へと案内する。この地域では多様な各科の勇人の学校はクラスは棟は複雑で勇人の通う普通科の棟に行くまで少々時間がかかった。

「勇人の学校広いよね〜」
「各科が多い分多目的な教室が多いだけだって」
「あたしの学校は普通科だけだしな…あ!勇人のクラス発見!」

そういって指さすクラスは間違いなく教えた勇人の教室で夏美はドアを開けると勇人には見慣れた場所に感歎をあげていた。

「勇人って席どこ?」
「窓際から四列目の後ろから二番…っておい!」

勇人の言った席に夏美はストンっと座って辺りを一通り見回した後,勇人の隣の席の机を自分の机と合わせて勇人をその席へと促した。

「ここで食べよう」

そうニコニコと笑う夏美に勇人は持っていたランチボックスを合わせた机において持ってきた小皿と箸を夏美に渡す。

「なんか中学校の時みたいだよね」
「高校じゃこんなのすんの女子だけだしな」
「でも今はここが勇人の『場所』だもんね…」

ぽつり…といった夏美の言葉に勇人は何も言わなかった。
中学を卒業して進学を別にしてからできたお互いの知らない『場所』。それを今日夏美は少しだけだけど体験できたのだ。そんな彼女が今どんな気持ちなのかは勇人には分からないけど…

「ね,勇人は今日部活何時に終わる?」

持っていたスポーツドリンクを片手に夏美はどこか楽しそうな声で勇人に聞いた

「そうだな,三時半頃には終わるけど」
「じゃあ今日一緒に帰ろ!男子の応援終わったら現地解散なんだ」
「…別にいいけど」

部活の友達とかはいいのか?と聞こうと思えば止まらない夏美が言った

「駅前にミスドあったよね?祝勝祝いってことで寄っていこ」
「…俺の学校は負けたんだぞ」

そんな勇人の声はお構いなしに夏美は「決まりね」といって手元にあったエビフライをぱくりと食べる。その表情はやはり嬉しそうに笑っていた。

「仕方ねぇな」

そういっていても勇人はまんざらではないように思った。

久しぶりに一緒に『下校』するのも悪くない

「もち勇人のおごりね」
「…お前な」




ときの都の浅葱ゆいさまが15万打記念に書いてくださいました!嬉しすぎです…!夏美が無邪気可愛い^^勇人が振り回され可愛い^^そんなハヤナツが超絶可愛い……!!幼馴染だからこそ知りすぎてる男の子の知らない部分はきっと夏美にとって新鮮で不安で悔しい部分なんでしょうね。

浅葱ゆいさま、素敵過ぎる小説、ありがとうございました!!


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