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*the others*
beginning(リュウジ)「特命戦隊ゴーバスターズ」

「うわあぁぁあ!!!」
 ついにリュウジは叫び声をあげた。抑えきれない破壊衝動に反比例して、リュウジの意識はどんどん薄れていく。
 分厚いガラスの向こうで興味深げにデータを記録している職員が見えた。リュウジは反射的に強化ガラスの方へと向かった。瞬間、別の職員がリュウジを羽交い締めにした。リュウジは力任せに引き剥がしにかかる。すぐさままた職員がやってきて、リュウジに取り付く。
「くっ!! なんて力だ!!」
「本当に十五歳か! こいつ!!」
 三人、五人と職員に押さえつけられ、リュウジは拘束されてしまう。
「ああっ!! がああっっ!!!」
 四肢の自由を完全に奪われたリュウジの、獣のような叫び声がトレーニングルームに轟く。自分の周りに存在する全てを破壊したかった。
 意識が完全に途絶える寸前。
 リュウジの頬を涙が伝った。


【 beginning 】


 転送研究センターが亜空間に転送されてからというもの、リュウジの生活はがらりと変わってしまった。
 近い将来のヴァグラスの襲来に備えて、戦士として迎撃、戦う為の訓練が始まったのだ。
 始める前に、自分に施されたワクチンプログラムの影響により、腕力が異常増強する代わりに“熱暴走”を起こしてしまうことを知らされた。
 リュウジの訓練は、基本的な戦闘知識と技術の習得、そして、熱暴走に陥るまでの時間を出来得る限り伸ばしていくこと。主にその二点だった。
 生活の拠点はエネルギー管理局に移り、ここがリュウジの“家”になった。基礎体力向上の為のトレーニング、座学、戦闘訓練、熱暴走対策、一日一日がそれらで終わっていった。通っていた中学も途中中退した。勉強は空いている時間に自分で進めざるを得なくなった。大好きだったマシンエンジニアの勉強も、行う余裕がなくなった。
 そうしてそれが岩崎リュウジの日常になっていった。

 意識が戻り、うっすらと目を開けるとまず、無機質な天井が見えた。メディカルルームだった。ベッドに寝かされている。誰もいない。リュウジ一人だ。バイタルチェックとデータ採取の為、腕や腹から何本もの線が伸びている。リュウジはそれらを全て取り除いた。途端、部屋に通信が入った。
『リュウジ君。ベッド横のテーブルに置いてある本を、明日までに全部目を通しておくよう、伝言を預かっています』
 リュウジはそちらに目を向けた。百科辞典ほどの分厚さの本が三冊、積まれている。
『明日からバスターマシン操縦に向けた訓練を行うとのことです。それらの本は、操縦に関するマニュアルです。こちらからは以上です』
「………了解」
 溜め息のような声で了承を返すと、それきり部屋は苦しいくらいの静寂に包まれた。

 重い本を両手に抱え自室へと戻ると、ドアの前に小さな女の子が倒れているのが見えた。慌てて駆け寄り膝まずく。
「ヨーコ、ちゃん!」
 黄色いワンピース。同じ色のリボンで結んだ黒い髪。閉じられた瞼は開かない。脱力しきった体。恐らくこれが、聞いていた彼女のウィークポイント“充電切れ”というやつなのだろう。近くに彼女のバディロイドの居そうな気配はない。別行動中の出来事。この子に限っては滅多にないケースだが、タイミングが悪かったのだろう。
 リュウジは抱えていたマニュアルを放り出し女の子を抱き上げると、そのまま自室へと入る。メディカルルームに連れていくことは避けたかった。先ほどの自分のように彼女をケーブルだらけにされるのが嫌だった。
 とりあえず自分のベッドにヨーコの体を横たえる。こうして見てみると、本当にただ眠っているようにしか見えない。しかし、これからこの子が意識を取り戻しても、自分の意思で自らの体を動かすことが彼女には出来ない。この、まだ三歳にしか満たない女の子は、そんなウィークポイントを背負っている。
 リュウジはヨーコのポシェットを開け、中からチョコレート菓子を取り出した。充電が切れたのならば充電する必要がある。しかし彼女の場合補充するのはエネトロンではなく、カロリーだ。リュウジはチョコレート菓子を小さく割ってヨーコの口に含ませた。ヨーコの口は動かないが、唾液によって溶かされたチョコレートは胃袋へと流れ、その消化によってカロリーは補給されるだろう。
 リュウジはベッド脇の冷蔵庫を開け、冷湿布を取り出すと、自身の二の腕や肩に張り付けていく。自分のウィークポイントは熱暴走だ。冷やし続けていなければならない。
「……まったく、不便な体だな……」
 自嘲気味に呟いて、ベッドに腰を降ろした。
 そばに横たわる小さな女の子を見下ろす。ヨーコはまだ目を覚まさない。
 うさみヨーコちゃん。
 メガゾードのテストパイロットの女の人の子供さん。転送研究センターで何回か会ったことのある女の子。そして、将来ヴァグラスが襲来する際に一緒に戦うことになる、女の子。
「こんな……小さな子が……」
 リュウジの指先が伸びて、ヨーコの頬に触れる。柔らかくて、温かい。髪を撫でる。さらさらと心地好い。愛しい、守らなければならない存在。守られなければならない、平和な中で生きるべきである、子供。
 それなのに、エネルギー管理局は、戦えと言う。母親を亜空間に転送され、ひとりぼっちになってしまった、まだほんの三歳の女の子を、第一線に送り出して戦わせることを決定している。
 自分だけで良いと思う。
 ウィークポイントに苦しむことも、辛い戦闘訓練も、この先命を失うような危険な目に遭うのも、自分一人だけで良いと思う。こんな小さな女の子に、そんなこと、させてはいけないと思う。
「……!」
 ヨーコの口が動いた。チョコレート菓子を咀嚼し、飲み込んだ。そして、ゆっくりと目を開いた。ぼんやりとしている彼女の目の焦点が合い、リュウジと目が合った。
「あ……」
 こんな小さな女の子とまともに関わったことがなく、リュウジは戸惑った。何を言っていいのか分からない。とりあえず、ひきつった笑みを浮かべると、ヨーコの顔がくしゃりと歪んだ。
 泣くーー。
 そう直感して、リュウジは慌てて声をかけた。
「ヨーコちゃん……!」
 ヨーコはリュウジを見ていない。見たことのない部屋に戸惑い、不安そうにしている。
 リュウジはヨーコの正面に回り込み、ヨーコと目線を合わせた。
「うさみヨーコちゃん。俺、リュウジ。ヨーコちゃんと、ウサダと、ゴリサキと、俺。仲間、だよ」
 ヨーコはリュウジをじっと見た。
「リュ、ウ、ジ」
「りゅ、う、じ」
 リュウジは穏やかに微笑んだ。ヨーコの表情から不安が消えた。
「リュウジ兄ちゃん、って呼んでよ」
「りゅうちゃん」
「……それで良いよ」
 リュウジは苦笑した。

 ヨーコの手を引き、エネルギー管理局の廊下を歩く。ヨーコの手は、ぷくぷくとして柔らかく、そして温かかった。この手に武器の固さや冷たさなんて、無用だと思う。
 ーー俺が守らなきゃ。
 熱暴走も、訓練も、この子が居れば耐えられる。
 視線を感じて隣を見下ろすと、ヨーコがリュウジを見上げている。リュウジがにっこりと笑ってみせると、ヨーコも少しだけ、微笑んだ。
 体の芯に熱を感じた。
 ウィークポイントによる熱でなく、決意によるものだと、今のリュウジにははっきりと分かっていた。



ここまで読んでくださってありがとうございます。

リュウジが戦士になるための訓練を始めたばかりの頃の捏造小話。リュウちゃんからゆくゆくはリュウさんになれば良い。


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