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*the others*
nightmare~heap of victim~
【nightmare~heap of victim~】


 彼らの行動は世界の為。
 彼らの理想は我らの為。
 彼らが傷付くのは我らも同じ。その理想を、行動をとめることなど出来ない。とめることなど許されない。とめる理由もまた、ない。
 彼らは戦う。彼らは傷付く。それでも彼らは戦う。何故そうするかなど、彼らの中にそれぞれの並々ならぬ理由はあるのだろうが、共通して言えることは一つ。
 力があるから。だから、戦う。
 我らにはない。我らには、抵抗する意志はあれど、対抗する力はなかった。確かに悔やまれるが、出来ることはある。微力ながらも、我らにしか出来ないことがある。
 阻む障害を抑える若者。声の潰れてもなお叫び勇気を与え続ける子供。涙を流して懇願し使命を思い出させる女性。
 さて、自分は何が出来るのか。
「来るよ!!そこ開けてぇ!!!」
 アイナは異変に気がついていた。戦う力はないが、前線に立ち、彼らの道を作る。今ここにいる力なき若者達と同じ気持ちだ。そうして彼らの道を阻むもの全てを排除し、彼らを前に進ませる。
 自分も戦っている。気持ちは彼らと共にある。
 その彼らの悲鳴が聞こえた。猛虎のように駆け抜けていた足が止まった。彼らを襲う熱、爆風。障害があった。
 それでも彼らは立ち上がる。彼らにしか出来ないことがある。彼らが進まねば、誰が行くというのか。それを彼らは重々承知しているのだ。だから立ち上がる。足を前に出す。走る。どれだけ傷付こうとも。
「駄目だ。あれ、どうにかしないと……!」
 アイナは踵を返すと、地上に向かって走り出した。

「やっぱりこれだよなぁ……」
「これ、だね。これしかないよ」
 一同の中央には彼らを苦しめているものらしき爆薬の山があった。その時、その中の一つが突然爆発し、アイナ達はその場に伏せて、衝撃に耐えた。どうやらこれが爆発するたびに地下空洞へ爆音と熱と衝撃がいくようになっているらしい。どういう仕組みなのかは分からないが。
「……これ、どかさなきゃ……」
 アイナはぽつりと呟いた。それに周りの一同もハッとした表情を浮かべる。気付いてはいたが、口に出すことを躊躇われる決断。もちろん、力なきアイナらの代わりに今も傷付きながらも戦っている彼らを先へ進ませるにはそうするしかないことは、ここにいる全員が分かっていた。
「やらなきゃ……あたしらが、やらなきゃ!」
 その声に感化されるようにどよめきが波紋のように広がる。アイナから滲み出た、勇気も。
「そう……だな。アイナの言うとおりだ。やろう!あの人達の為……いや、世界の為に!」
 その決断がどれほどの勇気と覚悟を要したのか知れない。だけどもう、決めた自分のこころの為に、アイナは目の前の爆薬を睨み付けた。
 アイナがここに辿り着いてから第二波の爆発。
「うく……っ!!」
 目を開けると、先ほども引っかかっていたものが浮上してきた。爆薬の山の中の一つが爆発したというのに、全ては爆発しない。まだ山は残っている。そして少しずつ、少しずつ減っていっている状況。確信に変わった。
「やろう!火、持ってる?」
「ああ、ちょっと待ってろ……よし!このぐらいでいいか?」
「充分」
「しかし、誰がやる?」
 一同顔を見合わせる。取るべき手段はきまった。
 即ち、誘爆。この爆薬の山を今までのようにちまちまと爆発させるのではなく、全て一気に爆発させ、終わらせてしまおうというのだ。しかしその為には、誰かがそこに居なければならない。小爆発の際に火を投げ込み、爆発の規模を広げる為に。そして、そこに居た者を待つのは確実に――。
「あたしがやるよ」
「ア――、」
「貸して」
 そういって松明を奪い取る。
「次の爆発で全部誘爆させる。あの人達にそう伝えて」
 アイナの有無を言わさぬ言葉に、そのに居た一人の少女が首肯して走っていく。
 戸惑い。そしてどよめき。ここにいる者達とて、アイナと同じ思いに違いない。だけど、何かを成すには誰かがやらなければならない。アイナの決意は揺るぎなかった。
「……俺も、やる!」
「え……?」
 瞬き、その男を見やる。顔など恐怖で引きつっているのに、必死に押し隠そうとしている。
「最初の爆発でおまえが吹っ飛びなんかしたら台無しだろう。俺が支えてやるよ」
「………ありがとう」
 待つのは確実に死なのに。わざわざ来るなんて愚かしいのに。何を考えているのか分からない。だけど、感謝せざるを得なかった。
 助かる望みなどひとかけらもない、爆発の衝撃に身体を千切られ、熱と炎に焼かれ、溶かされ、意識も吹き飛ばされ、死ぬだけなのに。
 周りを取り囲む仲間をアイナは恨んだりしない。彼らだってアイナと同じ気持ちなのだ。もし自分が失敗したら、今度は彼らがやるだろう。もとより、失敗させるつもりなどないが。
「生き残ろうぜ」
「そうだね……」
 気休めだと分かっているが、そう返した。
 中にいる彼らは無事だろうか?自分達がこうすることでちゃんと進めるだろうか?彼らは、この世界の驚異を退けてくれるだろうか?
 いや、きっとそう成る。だから、彼らを進ませる。
 だけど、自分はいない。その未来にはいない。覚悟は決めたはずなのに。決意をしたはずなのに。悔しくて口惜しくて、涙が出る。それを誰にも見られないよう、アイナはこっそりと泣いた。
 願わくば、我らの屍を越えて悠久の平和を勝ち取らんことを。そして彼らと思いを同じにする我らが居たということを覚えていてほしいと、そう思った瞬間についに爆発がきて、アイナらはそれを何倍にも膨らませて、意識を寸断させられた。



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