*the others*
nightmare
トレが捕まった。セッテは対岸を逃げている時に、親しい友人が引きずられていくその様子を、しっかりと見ていた。
高々と持ち上げられるトレの姿が見えた。そのまま重力と腕力を足した力でアスファルトへと叩き付けられた。頭が落ちた反動で、足はぶらんと宙を舞った。
友人の断末魔が聴こえた。こんな声を出すのかと、思わず信じたくなくなるほどの、切り裂くような声だった。
心臓を握り潰されているかの様な感覚が、セッテを襲った。口の中がからからで、肺が冷たく痛い。それでもセッテは止まれなかった。走り続けた。
自分の後ろに、二つの足音が続いていた。ドゥエとオットだ。セッテはちらりと二人を省みた。二人の弟はちゃんと付いて来ている。
吐く息に安堵の吐息が混じる前に、彼らの後ろから肉薄する黒いものに気付いた。それが次なる絶望だと悟った時には、ドゥエの首はもうすでに奴等の手に繋がれていた。
「ドゥ──」
名前を言い終わらない内に、オットの細い首には黒い大きな手が絡み付いていた。その後ろでドゥエが後ろ向きに倒れていくのが見えた。
「ぅぐう……っ!」
──ドゥエ!
──オット!!
喉の奥から奇妙な声が洩れたが、叫びにはならなかった。その場に充満する押し潰されそうな程の殺気から脱け出そうとするかのように縺れる足を動かすと、曲がり角に差し掛かった。
何を思ったか、セッテの足が止まった。このまま行くべきか、戻るべきか、迷ったのだ。
戻るというのは、わざわざ殺されに戻るというつもりではない。二人を連れ戻すために、という事だ。戻れば十中八九待っているのは死なのに、何故こんな事を考えたのか分からない。
意を決して角を曲がった。そこにいたのは、青の制服に身を包んだ男だった。
涙がこみ上げた。
「助けてくださいっ!弟が、僕の弟と友達が……っ、あいつらにぃ!!」
セッテへと伸ばされた大きな手に阻まれ、視界は闇に染められた。
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