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*the others*
nobody never know
【nobody never know】

 ようやく全てが終わった。ようやっと、終わってくれた。
 少女はその場に崩れ落ちた。着いた膝に僅かの痛みを感じる。砂利や小石、欠けた石の破片が容赦なく皮膚に突き刺さっていた。
 そう、荒廃していた。少女の守りたかった街は、荒廃しきっていた。
 地面は割れ、アスファルトは地中深くまで裂け、水道管やらケーブルやらが剥き出しになっている。電柱や信号機などは無残にもその中ほどで折れ、触れると間違いなく感電することをほとばしる火花が知らしめている。窓の割れていない建物など一つもなかった。倒壊していない建物がごく僅か。残りはただの瓦礫と化していた。粉塵は立ち込める雲を呼び、今にも雨が降り出しそうだった。
 人の気配など微塵も感じられなかった。非難したか、それとももう死んでしまって死体になっているか。どちらにしても、生きている人間はまるで世界にこの少女一人だけかというくらい、閑散としていた。
「……は、あは……、あはは……」
 少女の口から笑いが零れた。しかしその目は何も映してはいない。虚空を見つめていた。少女はもう、視力すらもうしなっていた。
 皮膚感覚は、あった。少女の剥き出しの腕にうっすらと鳥肌が立つ。砂利と破片だらけのアスファルトに座り込んだまま、きゅっと自分自身を抱きしめた。寒さなど、今更ながらに思い出す。
「あはは……っ、はは……」
 尚も少女は声だけで笑う。果たしてそれは、何の為だろうか。この世界を脅かす脅威を退けることが出来たという達成感のためか。それとも、今のみすぼらしい自分を思った嘲笑か。
「……アキラくん、ユイ……、コウノスケくん、リク、タケオさん、ヒナコ……、ワカナ……」
 皆、死んでしまった。この街を守る為に散っていった。
 今は少女ただ一人。少女が最後のただ一人。
「わたし、守ったよ……、守れたよ」
 寒さが一際肌に染みる。
「みんなが守りたかった街、守れたんだよ?」
 痛覚はもはや、ない。
「みんなの気持ちがあったから、わたし頑張れたんだよ?」
 少女の頭がゆっくりと傾いでいく。
 僅かな砂煙を上げて、少女が横倒しに倒れた。
 もう、少女には起き上がれる気力も体力も、残されてはいなかった。ただ、寒さだけが今の少女にとって煩わしかった。
「わたし、これでよかったのかなぁ……。わたし、本当にこの街を守りたかったのかなぁ……」
 倒れたまま、一度ぶるりと震えた。
「あぁ……。寒いなぁ……」
 ゆっくりと閉じられた少女の瞳が再び開かれることは、その後一切なかった。



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