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*the others*
appeared(ロン×リココ)
【appeard】


 最近では雨もめったに降ることがなく、今日も晴れ渡った空が海にその青を照らし出している。空を何の気兼ねなくのびのびと行く鳥の細い鳴き声と、機械の低い駆動音が彼女の長い耳へと吸い込まれてゆく。
 飛空挺の出航時間が刻々と迫っていた。
「やっぱりジュノの形って何かに似てるんだよな」
 そう言って隣りに立つ少年は、吹き付ける風に髪をなびかせながら何かを思い出すような顔つきになり、眉間に皺を作っていた。
 初めての二人旅。
 これからリココは、隣りに立つ少年と共に他大陸へと渡るのだ。
 出航を間近に控えた飛空挺の幾つもの大小のプロペラが待ちきれないとばかりに回り、吹き付ける風は容赦なくリココの髪をも揺らした。
「なぁリッコ、あれ何の形だっけ?」
「え……と、わかんないです」
 ヒュームで戦士の少年に尋ねられ、タルタルで白魔導師兼盗賊のリココは曖昧にそう返した。少年――ロンは、“そっか”と呟いてから視線を元に戻してまた凝視し始めた。
 リココはそんなロンに気付かれないようにこっそりとため息を吐く。リココの胸中は、清々しいくらいの青空とは対照的に、どんよりとした暗雲が垂れ込めていた。その理由というのも――。
「お!何だありゃ?」
「??何ですか?」
 ――見えない……っ。
 飛空挺甲板の船縁に立つ二人だが、リココの足の下には空き箱が置いてある。それにもかかわらず、まだ高さが足りずにロンが見ているものがリココには見えない。結局あきらめて、自分の見える範囲で飛空挺からの景色を楽しむことにする。
 ロンはと言うと、まだ何か言いながらリココには見えない何かを見ているらしい。何だかだんだんと悲しくなってきて、リココは空き箱から飛び降りてしまった。
「リッコ、どうした?」
「……良かったんでしょうか」
「良かったって、何がだよ?」
「ロンさんは、本当にあたしなんかで良かったんでしょうか……?」
「……は?」
 キョトンと丸くなるロンの瞳。少ししてから合点がいったかのように、ああ、と呟く。
「何言ってんだよ。白魔導師で盗賊なんて心強過ぎるぜ!」
「その……職業のことじゃ、ない……です」
 そう言うとロンは訳が分からない、とでも言うように眉をひそめた。首を傾げて一生懸命に考えている。考えてくれている。それを見ていると、何だかリココの方が恥ずかしくなってしまう。
 すると、赤面したリココを見てロンは何かに気付いたように、丸く開いた口から“あ……”と声を洩らすとみるみる内にその顔が赤く染まっていった。
「お、“おまえなんかで”じゃない。おれは、リッコが良いんだ」
「でもでも、あたしタルタルだし……」
 タルタルに生まれたことで今までに疎ましさを感じたことはない。それはずっとウインダスに居たからだということもあるし、ロンと出会ってからは、何かと無茶しがちな彼の作る傷を癒やす為の魔力がタルタルだからこそ豊富であることを、喜ばしいと思った。
 ――だけど。
 今はそれすらもくすんで見える。彼はヒュームであり、自分はタルタルなのだ。違う種族の二人は、見ているものも見えるものもまるで違う。
「えと……小さいし……」
「おまえが小さいのなんて知ってるよ」
「足とかキャルみたいに長くないし、ス、スタイルもヒュームに比べたら……」
「おい、何でそこでキャルが出てくるんだよ?」
「こうして立って並んでても、ロンさんと一緒のものが見えな……――きゃっ!?」
 突如として襲いくる浮遊感。強制的に上昇する視界。
 すぐ目の前にロンの顔があった。二つの目がリココの目を真正面から真っ直ぐに見つめている。
 ロンの両手が、リココの両脇の下から差し込まれ、ロンの目線の高さまで抱え上げられていた。
「あ、あ、あののの……!?」
 ぶらりと揺れる足。まるで人形のように持ち上げられている。何だか少し虚しくなってきた。
「こうすりゃおまえもおれも、一緒のものが見える」
「え……?」
「おまえ、何か勘違いしてないか?ヒュームだとか、タルタルだとか関係ない。おれは、リッコだから良いんだ」
「ロン、さん……」
「おまえ、ちゃんと可愛いんだからさ、自信もてよ!」
 そう言って、持ち上げられたままの状態から、抱っこされてしまった。恥ずかしさはかなりのものだが、それ以上に嬉しくて、このヒュームの少年のことが愛しくて、たまらなかった。
「ロンさん」
「ん?」
「……名前……」
「あ!ごめん!何か癖になっちまっててさ……」
 無理もない。初めにそう間違えて名乗ったのは自分なのだから。でも。
 ――ロンさんだけには本当の名前で呼んで欲しいのにな……。
 そう思うのはやはりわがままなのだろうか。
「気をつけるよ。“リココ”」
 依然として抱っこされたまま、すぐ目の前にある顔がそう言って微笑んだのを見ると、ぶつかるような勢いで少年の頬に唇を当てた。
 恥ずかしかったけど、とても恥ずかしくてもう顔も見られなかったけど、後悔はしなかった。
 飛空挺が、いつの間にか出航していたことに、大空が迫ってくるのを見て今頃になって気付いた。




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