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*the others*
a flower garden(アリソン(×ヴィル)/「アリソン」…また一年をあなたたちと過ごせる。ありがとう。
 私たち三人を見守っていてね。


【a flower garden】


 ──どうしよう……!!
 家路へと急ぐ足取りが自然と軽くなり、知らず知らずスキップになる。
 アリソン・ウィッティングトンは興奮していた。内からとめどなく溢れ出す、嬉しさで。
 数日前から感じていた様々な異変で何と無く予感はしていた。やはり、自分の体は自分が一番知っているという事か。
「……っとと」
 その分野の知識が全く無いアリソンでも、自分の意志とは関係無く暴れ出す足を落着かせ、ゆっくりと歩く。
 こういうのは最初が肝心だ。多分。
 規則的に彫られた溝にブーツの爪先を取られない様に注意する。転んだりしたら、“コト”だ。
 ふと、好きで好きで仕方が無い、大切な青年の顔が脳裏によぎった。
 彼は何て言うだろうか。
『本当かい?アリソン!』『夢じゃないんだね!ありがとう!!』
 きっと満面の笑顔で自分を抱きしめてくれるだろう。そんな彼の様子があまりにたやすく想像出来てしまい、アリソンはつい笑ってしまった。
 くるりと後ろを振り返る。まだ見える。これから幾度となくお世話になる建物が。
 人の良さそうな、恰幅の良い女医のおばさんは、安定期だと言っていた。これから気を付けなければならない事、後何か月かを経てば、軍を休む様要請する事、それからやがて来る時の為に入院しなければならない事、たくさんの事を教えてくれた。
 そして、“この子”が今どんな状態なのかという事も。
 冬は空気が澄んでいて、遠くの音も容易に拾う事が出来る。ましてや、この時間ともなると、人通りなど全く無く、静かな物だ。
 耳を澄ませて胸に手を当ててみる。ドクン…ドクン……と、まず自分の心臓の音が分かる。下腹部に触れると、その音が二重に重なっている様に感じてくる。
 いる。確かにここに。もう一つの生命が。
 暗い夜道を、家路へと急ぐ。
 普通なら真っ直ぐに行かなければならない所を、アリソンはあえて右に曲がる。こっちの道は彼の待つ家への近道であって、アリソンにとっての順路だった。
 ただし、こちらの道は裏通りに当たる為、表通りにある様な、街灯が無い。頼れる光は、民家の生活灯のみだった。
 だから、不審者の恰好の通り道にもなる。しかし、アリソンは軍仕込みの護身術も身に付けているし、何より抜群の運動神経で、不審者などに捕まらない絶対の自信があった。
 とは言っても、今は一人ではない。“二人”だ。自分だけの命じゃないと考えると、ほんのわずかに緊張する物がある。
「…ふう、おかしいわね」
 通りを歩く足がやたらと焦っている様に感じる。動悸もいつもより早い様だ。怯えているのだろうか?まさか!
 その時、まだそんな事などある筈が無いのに、下腹部に衝撃を受けた気がした。まるで、励まされているかの様な。
 そうだ。今、自分の中に小さな生命がいる。その生命が、自分だけを頼りにして動いている。
 そう思うと、なんだか気持ちが強くなった。守らなくては。この子を。
「来るなら来なさい!木っ端微塵にしてやるから…!」
 足取りも力強く、裏通りをどんどん進んでゆく。
 守らなければならない命に、何故か護られているかの様な錯覚を覚えながら。
 裏通りを抜けると、もう彼の待つ家が見える。家に灯る明かりを確認すると、アリソンの気持ちがまた、高揚した。
 ふいに、優しく風が吹き、ある香りがアリソンの鼻腔をくすぐった。
 この時期になると漂う、嗅ぎ慣れた匂い。
 また、この季節が来たのだ。
 見ると、月夜に照らされて白い光りを放つ菜の花たちが、ゆらゆらと揺れていた。
 花は好きではないが、嫌いでもない。平たく言うと、興味が無い。花を、“まぁ、可愛い!”などと言って愛でられる程、アリソン・ウィッティングトンは“女の子”では決して無かった。
 だけど、アリソンはこの匂いが好きだった。
 また今年がやってくる。彼と過ごせる一年が。ありがとう、と。そんな気持ちにこの花はさせてくれるのだ。
 優しく揺れる菜の花を横目に、アリソンは下腹部に触れる。
 ふと、この子の名前が浮かんだ気がした。まだ男の子か、女の子かも判らないというのに。
 浮かんだ名前を、頭の中で彼の姓(今は自分のでもある)につなげてみる。
 ──うん、いい名前!ぴったりね。
 横を通り過ぎてもまだ、ゆらゆらと揺れている。まるで花たちが“おかえり”と言っている様な感覚がしたが、すぐにそんな事を思っている自分が恥ずかしく思えてきて、頭を二、三度振って前を向く。
 少しだけ頬を赤く染めながら、もう一度だけ、振り返った。
 相変わらず優しい、菜の花畑を臨む。
 ──来年も、私たち“三人”を見守っていてね──。
 それ以降、菜の花の事は頭から追い出した。
「まずはお祝いね!確か開けてないワインが一本残ってたはず」
 アパートの階段を一気に駈け登り、ドアノブを掴むと、満面に笑みを湛えて開け放った。

「ただいまっ、ヴィル!!」


【END】
【後書き】

 ここまで読んで下さってありがとうございます。
 最後駆け上がってるじゃねーか!や、多分嬉し過ぎてお腹の事なんて忘れちゃってるんですよ。(逝ってこーい)てか、無理やり菜の花畑、出しちゃいましたが、首都(ですよね?←聞くな)にそんな畑の近くに建つアパートなんて絶対無いと思います。(オイ)
 ところで、お察しの通り、この話はあの曲に沿って出来ています。あの曲を聞くと、すっごく幸せな気分になるんです。
 もうあれは、アリソンとヴィルの歌にしか聞こえません。
 この報せを聞いた時の、二人の反応が気になります…!






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