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*tales of…*
following(ジュード×ミラ)

 裂帛の気合いを発し、魔物を剣で刺し貫きながら空へと駆け昇っていくその姿を、ジュードは呆然と見上げた。“ハイアーザンスカイ――空よりも高く”。その武身技は付けられた名の如く、まるで空中の見えない階段を昇っていくように高く、高くミラの身体は空に舞い上がり、躍る。その姿は凛々しい、というよりいっそ神々しくさえあった。
 ――凄いけど、でも……。
 困ったような顔でジュードは構えを崩すこともせず、地上からミラの様子を見守っている。
「僕、どうすればいいんだろう」
 溜め息混じりにポツリと呟く。魔物が空で爆散し、その最期を遂げたのが確認出来た。

【following】


 リリアルオーブというものは凄いもので、装着者の成長に合わせて、それ自らも成長する。魔物との戦闘を重ねるにつれて、自分の能力が成長していくのは、とても心地よかった。以前出来なかったことが出来るようになる。自分に出来ることが増えていく。その瞬間を味わう度に自分の中の力が確かに高まっているのを実感出来た。
 そしてそれは、自分の成長だけでなく、他者の成長も感じることが出来る。
「決めるぞ、ジュード!」
 不意にミラに呼び掛けられたが、“リンク”という形でミラと心を繋げた状態である今、彼女の思考が手に取るように分かっていた。挟撃した魔物に止めの一撃を放とうというのだ。ジュードは短く“分かった”と告げ、ミラとの共鳴術技への準備に入る。ミラが無詠唱で魔技を放つ。その動きはウインドランス。風の精霊術。それに合わせるはジュードの得意技の一つ。風を纏った拳。彼女の力を感じる。自分の力が彼女に流れる。交わる。合わさる。ぞくりと神経が昂る。
 “絶風刃!!”
 刃の如き豪風に切り刻まれて魔物が弾けた。
 ふう、と短く息を吐くジュードの視線は、既に他の魔物を各々葬っていた仲間達の間を縫ってミラへと注がれる。彼女はほとんど疲れたような表情を見せずに、剣の切っ先を払ってこびりついた魔物の血や肉辺を落としている。その様子を眺めながら、ジュードはぼんやりと考える。
 ミラと共鳴術技で魔物を倒すのは、これでもう何度目だろうか。始めはぎこちなかった動きも、回数を重ねるにしたがって滑らかな一連の動作となり、最近ではミラの動きたい方向、放ちたい技、彼女の考えや願望までも手に取るように分かるようになってきた。
 思ってからジュードの顔がわずかに赤くなる。それってよくよく考えてみれば恥ずかしくないことではない。
「どうしたジュード。私の顔になにか付いているか」
「え、あ、ううん」
 あまりにも不躾にじろじろと見すぎていたらしい。慌てて詫びると、そうかと言って彼女は踵を返し仲間達の元へと戻っていった。
 ふと、なにかの反応を感じた。
 リリアルオーブが光っている。身体能力の向上。その一区切り。
「壁を越えたようだな……」
 ミラが拳を握ったり開いたりしている。どうやら彼女もリリアルオーブが反応したらしかった。戦闘はもう終わっているのに、昂るミラの静かな闘気が伝わってくるようだった。それがジュードには嬉しく心地よい瞬間だった。

 ミラとの共鳴していられる時間が好きだった。繋がっているのが好きだった。自分の能力が成長していく。戦い方の幅が広がる。ミラへのフォローも、もっと巧くなる。彼女も成長していく。彼女と出来ることが増えていく。
 そう考えるだけで心が弾むのが分かった。

「…………」
 ジュードはやはり呆然としていた。彼の視線は遥か上空。その視界の中心でしなやかに躍動する肢体。
「貫け!!」
 このまま止めになる。心が繋がっていなくとも、分かる。やはり、魔物が惨たらしく肉片を宙で撒き散らした。
 ミラが宙にいる以上、ジュードに出来ることは何もない。落ちてくる魔物を警戒して待機しているか、でなければ馬鹿みたいに口を開けて、彼女の事を見ているしか――。
「!!!」
 その時、飛び込んできた光景が、ジュードの両の網膜を通して脳内のスクリーンにしかと焼き付けられた。
 彼女は空中戦を得意とする。
「ハイアーザンスカイ!!」
 会得する技も、成長に応じてとる戦い方も、空中でのダイナミックな動作が多い。
「ラウンドエッジ!!」
 その布の短い大胆な服で空で大暴れしている女性に、地上から見守っていた少年は何を見たのか――。
 想像に堅くない。
 あまりの衝撃的映像に、構えをとったままぴくりとも動けず、脳内はばっちり焼き付いた黒色に沸騰して何も考えられず。鼻腔の奥から妙にさらさらとした何かが流れてくる不快な感触を感じた。それが何なのか、理解したと同時に咄嗟に鼻を押さえて踞る。
「僕は、なに、やってるんだ、本当に……」
 ミラとの連繋攻撃も出来ず、呆然と地上に立ち竦み、挙げ句の果てに、ミラの下着を目撃して鼻血を出すなんて。情けないにも程がある。
「どうした、ジュード。怪我でもしたか」
「……したかも」
「顔をやられたのか? なら、治してもらうと良い。エリーゼ!」
 慌てて鼻を片手で押さえたまま、もう片方の手をぶんぶんと振った。
「わあ! してない! してないから! 僕なら大丈夫、全然平気だから!!」
「む、だが、血がついているぞ」
「か、掠り傷、だよ」
 咄嗟にそう言った。ミラは怪訝そうな表情をしていたが、やがて納得したのか、踵を返して去ろうとする。
「ミラ」
 その背に声を投げていた。
 豊かに波打つ金髪が振り向く。
「僕は、君の、役に立っているのかな」
 くぐもった声はミラに届いたのか、彼女の顔は無表情でその胸中は計り知れない。
 魔物に限らずすべての戦闘で、彼女と共鳴していられる時間が好きだった。繋がっているのが好きだった。しかしもう、自分はこんな状態で、空中戦での彼女には何もなす術もない。
 ――君にしてあげられることが、ない……。
 ジュードはぎゅっと目を瞑った。拒絶の言葉が容易に予想出来た。馬鹿な質問をするのではなかったと後悔した。
「ジュード」
 ミラの目を見ることが出来ない。
「君はよくやっている」
 気休め、かとも思えたが、そのようなことを言うような彼女ではない。恐る恐る、顔を上げる。
「君が私の為に尽力しようと気を配っていることは知っている。いや、君はいつでも皆の事を気にかけている。その配慮は君にしか出来ないことだ」
「ミラ……」
 たちまち胸の中に立ち込めていた暗雲が晴れていくのが分かる。つくづくその単純さが情けない。だけどそれでも、嬉しいことに変わりはない。
「なるほど。鼻血か。殴られたような痕は無い様子だが。だとしたら、何にそれほど興奮したんだ、ジュード?」
 かけられた言葉の嬉しさあまり、思わず手を下ろしてしまっていたことに気付いても時すでに遅く。その原因の分析に入ろうとするミラの思考をなんとか押しとどまらせようと、自分自身へのフォローの為に、ジュードはあたふたとなるしかなかった。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

あまりにもジュード君が健気にリンクを繋げてくるので、そうだったらいいのになー、な小話。



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あきゅろす。
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