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*tales of…*
学園ヴェスペリア12〜confess〜
【confess】


 少し大きい通りに出ると、すぐに飲食店街になっている。そこの、手頃なファミリーレストランにとりあえずは入ってみたものの、一緒にいる少女はきょろきょろと頭を巡らせ落ち着かない。始めは、先ほど無理矢理車に乗せられそうになっていた事からの警戒かとも思っていたのだが、様子を見るにどうやらそうでもないらしい。どちらかというと、興味津々で辺りを見回している。例えるなら、アミューズメントパークに初めて来た子供。確かにこういう所の似合いそうな少女ではないが、この歳でファミリーレストランに来たことさえ無いとは。一体どれほどの箱入りだというのか。小さな子供でさえ使いこなしているドリンクバーでおろおろとしている所を少女の分までジュースを入れてやり、ようやく話の本題に手を付ける事が出来た。
「……で。さっきの車の奴ら、あんたの知り合いなんだろ?」
 そう確信を持って訊くと、ジュースのストローをくわえたままの少女の肩がびくりと跳ね上がった。つくづく分かりやすい少女である。エメラルドブルーの瞳をさまよわせながらしどろもどろになっているのを、ユーリはホットココアをすすりながら眺めていた。
 見たところ、箱入りのお嬢様なのは明らか。しかしそこは大した問題ではない。要は、何故知り合いの筈の車への乗車をあれほどまでに拒否したのか。校庭の柵を乗り越えてまで何処へ行こうとしたのか。そこだった。
「えっと、その……。あのですね」
「……言いたくねえんなら無理に聞かねーけど」
「あ……」
「けど、あんな事続けてたらあんたいつか、本当に怪我じゃ済まなくなるぜ?」
「………」
「ま、何しようとしてるのかは知らねえけど、もうやめるこった」
 この有名人のお嬢様が一体何をしようとしていたのかは分からない。それに、この箱入りが自分のする事に責任を持てるとも思わない。だから、何か事が起こる前にやめさせることが少女の為だと思った。なのに。
「……っ」
 少女の――エステリーゼ・ヒュラッセインの沈痛そうな面持ちが、ユーリの心を掻き立てる。
「それ飲んだらもう帰りな。それ分は支払っといてやるよ」
 鞄を掴んで席を立つ。出来るだけ顔を見ないようにして去ろうとした。変な気が起きないように。
「あの……っ、ユーリ先輩っ!!」
 その背中を、必死な声が引き留めた。
「どうか、付き合ってください……!!」
「!!?」
 悲痛な懇願の声。少女の声に周りがざわつく。自分達(というかほとんど彼女)の醸し出す極めて誤解を招く状況にぎくりとなり、慌ててユーリは席についた。そうだ。この問題だ。これを忘れていた。
「なぁ、それって何なんだ?まさか、本当に、そういう事じゃないんだろ?」
「あの……、“そういう事”とは、どういう事……です?」
「…………まぁ、いいけどな。で、一体“何に”付き合って欲しいんだ?」
 エステリーゼの顔がぱっと華やぐ。それを見た瞬間に、もう戻れないのだと悟った。一体どこに戻れないのかも、どうして戻りたいのかも、分からないのに。



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あきゅろす。
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