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*tales of…*
various position(ワルター&シャーリィ)/ネタバレ有。
 どうして
 どうしてこんなことになってしまったの
 どうしてあなたは…
 どうしてわたしは──

【various position】

 だいぶ、人間としての感情は無くなってきた。今彼女を支配しているのは、“メルネス”としての義務感だけ。
 王だけが坐ることを許される玉座に坐し、シャーリィ・フェンネス──いや、メルネスは虚ろな瞳で前方だけをみつめていた。その視線は掴み所が無く、ここに居るのにどこか別の次元に彼女が居る様な感じを受ける。
 玉座の傍らで、一人の老人がほくそ笑んだ。水の民の村長──マウリッツ。水の民特有の青と白のローブを纏い、黄金の髪を戴いている。
「ふふ…もうすぐ…。もうすぐで我ら水の民は……」
 マウリッツの口から低く声が漏れる。
「くく…っ」
 やがて低い呟きは笑いに変わり
「ふっ…、ははははっ!ふはははははっ!!!!」
 堪え切れない様にマウリッツは笑い出した。
 その声には、まるで前から欲しかった物がやっと手に入るかの様な、長年の夢がやっと叶うかの様な、達成感の様なものが滲み出ていた。

 遺跡船艦橋内を、ワルター・デルクエスは動揺しながら“翔んで”いた。
──!!
 視界にようやく探していた者を見つけ、舞い降りる。彼の背中の漆黒の翼が折り畳まれた。
「メルネスッ!こんなところで一体何をしている?!」
 玉座から消えた彼女をようやく見つけ、叱り付けた。
「………。」
 反応が無い。顔を除き込んでも、その目には何も映さない。
──お前はメルネスか?
──それとも、シャーリィなのか…?

〈そうか…。そういう事だったんだね…〉
〈“メルネス”になるということは……〉
〈お兄ちゃんを…殺すということ…!!〉
 自分が“メルネス”になった日のことが、もうずっと昔の様に感じる。前程ではないが、メルネスになったとはいえ、彼女は時折“シャーリィ”を取り戻すことがあった。
 シャーリィである彼女が憂うのは、愛しい愛しい兄のこと。兄への感情は、普通の妹が兄に抱く感情では無かった。
 何度も悔やんだ。何度も呪った。
 どうして貴方は陸の民で。どうして自分は水の民なのか。
 今はもう“メルネス”で、これから陸の民を殺すという時に、胸の奥から兄の存在がちらついた。愛しさと、自制心と、義務感の狭間で“メルネス”である“シャーリィ”は苦痛に絶え切れず、玉座から姿を消したのだった。
 メルネスの仕事を放り出した訳では無い。ただ、苦しくてどうすればいいのか解らなかったのだ。

 何も言わない彼女を抱き抱え、ワルターは玉座へと戻る。背中の漆黒の翼を広げた。
 やり切れない思いが彼の中で渦巻く。
──ようやくあいつからお前を取り戻したというのに…
 彼は幾度となく、彼女を守る為に闘ってきた。
 そこには、親衛隊長としての義務感だけではなく、彼女に対する別の感情があることに、彼は気付かないふりをしていた。
─『ワルターさん…』─
 優しく、それでいて哀しげに自分を呼ぶあの頃の彼女が脳裏をよぎる。しかし今はもう、二度とあの頃の様な声で自分を呼んではくれない。
──…っ!
 たまらなくなり、ワルターは腕の中の少女を抱き寄せた。
「ワル…ター」
 か細く、彼女が自分を呼んだ。やり切れない思いが駆け巡る。
「…今は、それだけで、いい……!」
 絞り出す様にそう呟くと、彼は玉座へと急いだ。


【END】






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