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*tales of…*
best bust(ユーリ×エステル)
【best bust】


 戦闘中はあまり余計なことは考えないようにしている。というか、考えられない。
 己の技を駆使して、相手に一撃を叩き込む事への楽しさはどうしても気分が高揚するし、それこそ魔物との戦闘となると闘技場でのそれとは違って命の安全など約束されたものではない。殺すか殺されるかの世界。命のやりとり。腰椎から心臓を抜けて脳に達するぞくぞくとした緊張感。そしてやはり精神は興奮状態へと陥る。そんな中で戦闘以外(仲間の安否の確認は別として)の余計なことなど考えていられない。
 ――と、言うのはもしかしたら嘘なのかも知れない。否。戦闘中というのはほとんどがそんな状態だ。嘘ではない。
 だけど、そこに例えばジュディスが艶めかしい肢体を振り乱して闘っていたりした時、それがちらりと視界に入った瞬間は普段意識していなくても思わずどきりとしてしまうことだってある。
 要するに“男の性”というヤツなのだろう。特にレイヴンなんかはそれを全開で表している。
 しかしどうやら彼女の身体は男だけでなく女の視線まで集めてしまうらしい。当然その意味合いは男と女では全く異なるようだが。
「……揺れてます……」
「どこ見てるの?」
「わたしももう少しあれば……」
 いつだったか、戦闘後にエステルとジュディスがそんなやり取りをしているのを聞いたことがある。その時は聞かないフリをしたが。
 だから、ユーリはエステルがその事で悩んでいるのを知っている。とは言っても――。
 ――何でオレなんだ?
 健全な青年、ユーリ・ローウェルは、真剣な瞳で見上げる思春期の少女を、かなり困惑気味に見下ろしていた。
「教えてください、ユーリ。男の方はやっぱりジュディスみたいに胸の大きな女性が好きなんです?」
 同じ質問を二回繰り返すのは、それに対する答えを早く知りたいからだろう。
「いや……、っていうか――」
 城育ちのお姫様に世間の常識を教える人間は本当にいなかったのだろうか。女が男に易々と“こんな質問”をすることは、それこそ“お城の言葉”で言う“はしたない”というやつではないのだろうか。それとも、それを忘れてしまうほど、この少女が切羽詰まっている、ということなのだろうか。
「ジュディに直接訊いてみたらどうだ?それで嫌な思いをしたのか、それとも良い思いをしたのか、ってさ」
「そんな……!とてもはしたなくて訊けません!」
 エステルの白い顔がたちまち真っ赤に染まった。どうやら後者であったらしい。しかし、何故ジュディスにははしたなくてユーリに対してはそうでないのか。疑問に思うところだが、エステルはなおもユーリにすがりつく勢いで顔を近付けてくる。
「お願いです、ユーリ!教えてください!」
 ――ったく、何なんだ、この状況は?
 興味がない訳ではない。ただ、こういう話を――ましてや少女相手にすることには些か抵抗がある。ユーリの脳はさらに混乱を深めた。
 どこかにうまく抜け出せる糸口はないか。切実そうな端正な顔から目を背け、色んな所へ泳がせてみるが、それらしいものは見当たらない。いつもなら思い付くその場しのぎの言葉も、エメラルドブルーの瞳の前では脳の中で言葉と成る前に霧散してしまう。
 何故か鼓動が早くなる。
「それなら……、それなら、もう一つ訊いてもいいです……?」
「まだあんの……?」
「レイヴンが言ってたんですけど――」
 その時点で良い予感はしなかった。
「おま……、もしかしておっさんにもおんなじ事訊いたのか……?」
「はい、そしたら“胸の大きくなる方法”を教えてくれて」
 予感は聞かずとも決定的だった。
 白い顔がまたもや真っ赤になる。エステルは、言いにくそうにたどたどしく言葉を紡いだ。
「その……男の方に揉んでいただくと大きくなる、と」
「エステル。ちょっとおっさんのとこ行ってくるわ。無垢な姫さんに変な事吹き込む悪いヤツにはお仕置きしてやんねえと……」
「ま、待ってくださいユーリ!」
「おまえ、それでおっさんに――」
「いいえ。その前にリタが魔術を……それでわたし、ユーリにも訊いてみようと思って……」
 大きく深い溜め息がユーリとエステルの間へと落ちた。くだらないというか、馬鹿馬鹿しいというか、なんというか。とりあえずレイヴンを沈黙させてくれたリタには胸の内で感謝し、代わりにエステルには呆れた目を向けた。
 一体何が大事なのか。どうしてもっと自身を大事に出来ないのか。それとも大事に思うが故の切羽詰まった行動なのか。何にせよ、愚かしい。そもそもどうしてそこまで胸の大きさにこだわるのか。
 それがユーリには全く分からない。
「エステルはジュディみたいになりたいのか?」
「それは……でもわたし、小さい……ですから」
 そう言うと桃色の頭が俯いた。伏せ気味の目は、白い法衣の胸元を見ていた。
「別に小さいなんて思わねえけど」
「そんなこと、ないです……。ジュディスに比べたらわたしなんて……」
「ま、人それぞれってことなんじゃねえのか?」
「そうです?」
「そうだよ」
 ――何言ってんだか、オレは。
 何だか自分が物凄く馬鹿馬鹿しいことをしているような、そんな気さえしてきた。
「ユーリは大きい方がお好きです?」
「……それも人それぞれだと思うけど」
「“ユーリは”どうなんです?」
 思いもよらないところでまた初めの質問に戻ってしまった。今日のエステルはどうあっても逃がしてくれる気はないらしい。
 ――勘弁してくれ、本当に……。
「どうなんです?」
「……嫌いじゃねえけど、エステルはそのぐらいの方が可愛いんじゃねえのか?」
「え……?」
「別に今のままで十分だと思うけどな、オレは」
 恥ずかし過ぎてついに顔そのものを背けてしまった。自分は一体何を言っているのだろう。どうしてこんな話をよりにもよってエステルにしているのだろう。どうしてこんなに恥ずかしい目をしているのだろう。
 だからユーリは嫌なのだ。こういった話も、これに関した話も。
 なんだかこの場所にこうして居るのが辛くて、立ち去ろうと思った、その時までユーリはエステルの表情の変化に気付かないでいた。
 その、何かを我慢しているような顔を。それがついに弾けようとしていたことにも。
「あははっ!」
「うわッ?!」
 エステルが思いっきり、抱きついてきたのだ。
 何がなんだか分からない。困惑した目でエステルを見れば、何とも嬉しそうな満面の笑み。それが今、すごく近い。
 さらに、ユーリの背中にしがみつく華奢な両手が力を込めてきたせいで、件の胸がユーリの体に押し付けられる。
「……っ!」
 ユーリの腕が、体が、足が、ぎくしゃくと強張り自分の意志では動かせなくなってしまった。
 ユーリは知らない。
 どうして女というものは胸の大きさにこだわるのかを。それが、一体誰の為であるのかを。リタの魔術で沈黙させられたレイヴンにどうして治癒術をかけて質問の続きをしなかったのかを。どうしてユーリに対してはあれほどまでにしつこく問いすがったのかを。
 そして、ユーリの答えを聞いたエステルが、どうしてこんなに嬉しそうなのかを。全て、知る由もなく、されるがままになっていた。
 ただ、押し付けられた柔らかなものは、ユーリが思っていた以上だった。
「ありがとうございます!人それぞれですよね、なんだかわたし、自信が持てました!」
「……だろうな……」
 油断すればすぐにでも失いそうになる理性を必死につなぎ止めながら、ユーリは精一杯の冷めた返事を返してみせた。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

これ、完全にむっつりですよね。兄貴はむっつりだと疑わないです。エステルとの仲をレイヴンに茶化された時もさらりと流してた兄貴をスキットで見て、流させてもらえない兄貴を書いてみたらこんなことに……!

黒兄貴もかっこいいけど、ザウデ後みたいなオロオロ兄貴も新鮮で好きです^^



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あきゅろす。
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