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*tales of…*
sincere smile(セネル×クロエ)
お前はいつもそうだよな。
何もかも自分の中に押込んでしまうんだ。
痛みも、苦しみも、
その悲しそうな笑顔の中に。

【sincere smile】

 ズキズキと左足首が痛む。どうやら先の戦闘で捻ってしまったようだ。自分に情け無さを感じながら、クロエ・ヴァレンスはパーティの最後尾を歩く。
 “痛い”などと言える訳が無い。泣き言を言いたくない、というのもあるが、言ってもどうしようもないのだ。
 パーティはたった今、ダンジョンをようやく抜け、街へ帰るところなのだから。薬の類いはとうに使い果たし、ブレス系爪術使いの4人に限らず、皆、爪術を使えるだけの体力が残ってはいなかった。
「さぁ、一人ずつ順番にダクトに入るんだ」
 ウィルが促すと、
「やぁっと街に帰れるよ〜」
 そう言いながらノーマが真っ先にダクトへと飛び込んだ。ウィルは慌ててダクトを除き込み、叫ぶ。
「ノーマ!!街に着いたら俺の家に集まるんだぞ!」
 多分聞こえていない。溜め息を一つ吐き、頭を掻くと、次にウィルがダクトへと足を踏み入れた。
「解っているだろうが、街に着いたら俺の家に集合だ。いいな。」 それだけ言うと、ダクトへと消えていった。
「腹ぁ、減ったのぅ」
「早くして下さいよ、モーゼスさん。後がつかえてるんですから」
「二人共とぉ〜っても仲良しさんねぇ」
 次々と仲間達がダクトの中へと消えてゆく。
「先行くね、お兄ちゃん」
 シャーリィが次にダクトへ歩み寄る。あぁ、とセネルが返すと、
「じゃあ、ウィルさんのお家でね」
 そう言い残し、ダクトへと消えた。
 座り込んだまま立ち上がろうとしないクロエを不審に思い、セネルは声をかける。
「クロエ?」
「え?あぁ!私もすぐに行く」
 弾かれた様にクロエが答える。腰は上げないまま。
「わかった」
 セネルがダクトへと消えた。
「くっ…」
 皆ダクトへと入り、自分一人になると、クロエは苦痛に顔を歪ませる。ブーツを脱ぎ捨てた。
 足首の痛みが悪化している。患部はタイツに隠れて見えないが右足と比べ、大きさが違うのが見てとれる。すごい腫れ方だ。
 クロエは座ったまま空を見上げる。今日もいい天気だ。心地良い風がクロエの前髪を揺らす。
「…いつまでも、こうしてはいられないな」
 ブーツを履き、激痛に絶えながらも立ち上がる。
「この分だとかなり遅れそうだ。クーリッジに言伝を頼めば良かったな…」
 ダクトへと足を踏み入れる。そしてクロエは平原から姿を消した。

 足が地面を捕えた。ダクト特有の浮遊感が体から抜け切ると、ゆっくりと目を開ける。そこに広がっていたのは見慣れたウェルテスの街だった。
「遅かったな。やっぱりどうかしたのか?」
 掛けられた声にどきりとする。ウェルテスのダクトの前で、セネルが腰を下ろしていた。
──待っていて、くれたのか?
「先に…行ったんじゃ、なかったのか…」
「お前、変だったろ?少し気になってな。どこか怪我したんじゃないのか?」
 心配そうに見上げる。
 セネルが自分を心配してくれるのは嬉しい。しかし、それに素直に甘えられない自分がいる。クロエはセネルを心配させない様に笑って応えた。
「済まない、大丈夫だ。さぁ、行こう。レイナードが待っている」
 腑に落ちない表情でセネルが立ち上がる。二人はウェルテスまでのわずかな距離を歩き始めた。

 ウェルテスに帰る為のダクトというくらいなのだから、ダクトから町まではほんの数歩で十分だった。
 しかし、痛みの所為だろう。歩いても歩いても町が近付かないという錯覚に襲われる。歩く速さは確実にセネルよりも遅れていた。
「足。やっぱりどうかしてるな。」
 セネルが振り返り、疑問というより確信めいた言い方で問うた。
「私なら大丈夫だ。クーリッジは先に帰っててくれないか?出来ればレイナードに少し遅れると、伝えて欲しい」
 額の玉の様な汗にも気にせず、少し微笑んでそう告げる。
「…まただ」
 セネルが納得のいかない表情で呟いた。
「え…?」
「足、痛いんだろ。引きずってる」
 ぎくりと背をすくませる。言い逃れるかの様に笑って取繕った。
「少し…な。でも大丈夫だから…」
──何でっ…!
「何でお前はいつも、自分の中に溜込むんだよっ…。頼れよ、俺達に!」
 やり切れない思いがセネルの中で行き場を無くし、溢れ出す。
「あ…」
 クロエはどうしたら良いかも解らず、ただただ立ち尽くす。すると、セネルがクロエの前でしゃがみ込んだ。
「乗れよ。」
 ぶっきらぼうにそれだけ言った。
「えっ…」
 思わず後ずさってしまった。
「い、いぃっ!断わる!!」
 手を振りながら懸命に拒否する。
「わ、悪いしっ。それに、お…、重い…し……」
「俺なら平気だ。それに、ウィル達も待ってる。」
 その言葉を聞いて、何故だか胸がちくりと痛んだ。
「乗れよ」
 再度の誘いに、クロエはおずおずとセネルの肩に手を乗せる。
「…っ」
 セネルはクロエの膝裏を腕にかけ、ひょいと背負うと、そのまま無言で歩き出した。
「……」
 セネルの広い背中に身を預けながらクロエは遠ざかってゆく景色を眺める。いつもなら嬉しいことなのだろうが、今は複雑だった。
──『それにウィル達も待ってる。』──
 罪悪感で胸が苦しい。
「…クーリッジ」
「ん…?」
「済まない…。」
 謝らずにはいられなかった。
──私が足を捻ったりなんてしなければ、貴方に迷惑をかけることもなかったのに。やり切れない思いで目を瞑った。
「クロエ、謝るな」
「え…?」
「あんまり無理するなよ…。辛い時まで笑わなくて、いい。」
 黙ってセネルの言葉を聞く。
「辛い時は辛いと言っていいんだ。…せめて、俺の前だけでも…」
 何も言えなかった。胸が苦しかった。苦しくて、苦しくて、たまらなかった。内から止めどなく溢れ出る、
──“嬉しさ”で。─
 綺麗な銀髪からちらりと見える彼の耳は、心なしか少し赤い様に感じた。
 セネルの肩に額を預け、
「ありがとう…。」
 礼を述べる。その表情は、いつもの悲しい笑顔ではなくて、心から安らいだ“笑顔”だった。

【END】



【後書き】
ここまで読んで下さってありがとうございます。
わぁ、何だこれ。
てか、ダクトから町までどんだけ距離あるんだ!!そして肩を貸す程度でも良かったのではないか?とも思われますが、それでは話になりませんから駄目です。
セネルは内心ばくばくです。背中に直にクロエのむ…(強制終了






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