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*tales of…*
crystal christmas
「ジュディスちゃん、こんなとこにいたの。風邪ひくよ?」
「ええ、もう戻るわ」
「一体何見てたのよ」
「……星を、ね」
「ふぅん、どれどれ……ってあらま!こりゃあすごいわね」
「暗いところにいけば、きっともっと綺麗ね。ここは明る過ぎるもの」
「……暗いところ……っていやいや!駄目だっつの!……で、もちっと見てる?」
「いいえ、戻るわ。せっかくのパーティーなんだし楽しまなくちゃ、ね」
「そおこなくっちゃ!ね、ね、踊ろジュディスちゃん!この紳士な俺さまと!シャルウィーダンス?」
「お腹空いちゃったの。ご飯食べてからね」
「とほ……」
「……あら?」
「どったの?」
「今、空に何か……きっと気のせいね」


【crystal christmas】


 その時、強い風が吹いてきて、帽子を飛ばしそうになってしまい、エステルは慌てて両手で押さえました。けれども、速度を落とす、なんてことは出来ません。それは、一分一秒を争うのです。
「カロル、急いでください……!」
 祈るような気持ちでソリを引くトナカイに呼びかけました。彼は必死に両脚を動かしながら、振り向くこともせず、答えました。
「もうこれ以上早く走れないよぉ!!」
 それはとても切実で、泣き出しそうな声でした。エステルにも彼がすでに限界の力で走ってくれていることを知っていましたが、焦る気持ちが彼女を平静ではいさせてくれません。
 大きな時計台の横を通りました。その針が刺す時刻に思わず見たものを疑ってしまいます。日付が変わってしまうまで、残り一時間もありませんでした。
 握りしめた白い袋の中を何度となく確認します。
 残り一つ。ある少女へのプレゼント。あと一時間で少女の眠る枕元へ届けることは出来るのでしょうか。いいえ、届けなければならないのです。なんとしてでも。それが、エステルの仕事なのですから。
「急ぎましょう、カロル!」
「脚がちぎれそうだよぉ〜!」
 それでも彼には頑張ってもらわねば。
 ――カロル、頑張ってください……!
 エステルはソリの上で祈るように両手を組んで、相棒のトナカイを辛そうに見つめました。
「エステル!」
 その時、耳に聞き慣れた声が聴こえて、声のした方向を振り仰ぎました。
 見れば、犬ゾリが一つ、こちらに近付いてくるではありませんか。そのソリに立つ人物を認めるや否や、エステルは身を乗り出していました。
「ユーリ!!」
「エステル、こっちは終わったぜ。そっちはどうだ?」
 それは、エステルと同じ、夜空に映える鮮やかな赤い服をまとった青年でした。彼も、エステルと同じ生業をする者。“配達人”です。
「あと一つだけ……アスピオで終わりです!」
「よし、んじゃあ急ごうぜ。カロル、いけるか?」
「はぁ、はぁ、な……何言ってるの。ボクの脚にかかればアスピオなんて十秒で着いちゃうよ!」
「……頼りにしてるぜ、カロル先生」
 そう意気込んでいたトナカイでしたが、その脚がすでにフラフラなのは、エステルにもユーリにもお見通しでした。程なくして、トナカイのカロルも犬ゾリの世話になる時がくるのでした。

「……!見てください、ユーリ!!」
 エステルが指したのは進行方向の白い塊。アスピオへと続く唯一の道は、信じられないことに壁の様な大量の積雪で遮られていたのです。
「……どうしよう……。急がないといけないのに……」
 カロルの悲しげな声が雪の壁にぶつかって、跳ね返ってきました。その様子が一層事態の深刻さを醸し出しています。
「オレが剣で吹き飛ばすか?」
「駄目です。それだと雪崩が起きてわたし達みんな流されてしまいます」
「そんなぁ……ここまで来たのに……」
 ここへ来てまさかの立ち往生。日の変わり目は刻一刻と迫っていました。重いため息が一同を包みます。と、その時――。
「何をそんなに落ち込んどるのじゃ?」
「何を……って、見れば分かるでしょ!この雪!」
 カロルの不機嫌な声に、エステルはハッとしました。
「……カロル、誰と話しているんです……?」
「え?あ、誰だろ……まさか、オ、オバ……」
「子どもよ!そんなに落ち込むでない!!」
 ここにいる一同のものではない声が轟いたかと思うと、目も開けていられない程の光が辺りを包み、次に目を開けた時にそこに居たのは――。
「ゆ、雪だるま……?」
「雪だるまなんてデリカシーの無い呼び方をするでない。雪だるまではなく、“白いアイツ”じゃ」
「“白いアイツ”……です?」
「うむ!愛着を込めてパティと読んでも構わんぞ」
 白いアイツのパティは、そう言うと恐らく胸だと思われる部分を得意げにそらしました。
「パティ。オレら急いでんだ。悪りいがこれ以上つきあってる暇は――」
「む、この雪じゃな!なぁに、うちに任せとくといいのじゃ」
 パティは怪訝そうなエステル達の視線を尻目に雪の壁の前に立つと、何やらブツブツと何かを呟き始めました。するとどうでしょう。パティの足下に奇妙な光の模様が浮かび上がったのです。
「クリティカルモーメント!!」
 そう彼女が叫ぶと、雪の壁の上に現れた光の球が、そのまま落下し、激しい光を撒き散らして破裂しました。
「ぅわあっ!?」
 雪の壁は見事なまでに破壊され、それは瞬く間に白い奔流となりました。
「雪崩です!?」
「さあ!この流れに乗って、一気に行くのじゃあっ!!」
 犬ゾリに乗った三人も、ソリを引くラピードにも、もはやどうすることも出来ません。ただただ振り落とされないように縁に捕まっているだけでした。
 幸い流れはアスピオの方向を向いていましたが、
「結局こうなるんじゃないかぁあ!!」
 カロルの叫び声が、細く長く響き渡りました。

「おじゃまします」
 聞こえるか聞こえないかの声で、エステルは慎重に足を運びました。そこに辿り着いた瞬間、今までプレゼントを置く時はそうだったように、エステルはとても優しい気持ちになるのです。
 女の子は、ぐっすりと眠っているようでした。それでも、配達人が来るまで起きていようとしたのか、ベッドには女の子の読んでいただろう難しい本が三冊ほど、無造作に放られていました。
 その肩に、エステルは優しく毛布をかけ直してあげました。犬のパジャマを着た、可愛い女の子でした。
 枕元にプレゼントを置いて、静かに去ろうとした時、女の子の声が聞こえた気がして、一度振り返りましたが、相変わらずすやすやと眠る女の子の寝顔に安心し、そのまま部屋を後にしました。

「終わったのか?」
「ええ」
 “絶対入るな!配達人だけ可。モルディオ”という貼り紙のされたドアを静かに閉めて、エステルはにっこりと微笑みました。
「やったぁ!これで達成だね!!」
「んむんむ。一件落着なのじゃ!」
「……っていうかパティ、何でいるの……?」
「む、細かいことは気にしなくていいのじゃ!」
 そんなやり取りを見守っていると、どこからか鐘の音が聴こえてきました。ついに、日が変わったのです。
「よし。んじゃあ戻るか!」
 ユーリの声を皮切りに、ラピードとカロルがソリを引こうとした瞬間、パティの声が響き渡りました。
「クリティカルモーメント!」
「う、う、うわぁぁあっ!?」
 その瞬間、一同はとんでもない場所にいました。頭上には満天の星空、足下には人々の生活の灯。そう。なんとエステル達は、パティの奇妙な術によって空中へと飛ばされてしまったのです。
「う、浮いてる……?エステル、ボク浮いてるよ!?」
「すごいです、カロル!!」
「いや……っていうか、全員浮いてんだけどな。大丈夫か?ラピード」
「ワウッ!!」
 どうやら足の下に微細な光の粒子がまとわりついていて、それが浮いていることと何か関係があるようです。
 カロルがキラキラした目でパティを振り返りました。
「すごいよ、パティ!空を飛べる術技なんてすごい!」
「うむ!うちのクリティカルモーメントは何が起こるのか分からん所が、竿を引き上げる瞬間のようにワクワクするのじゃ!」
「………え?」
 冷たい風がエステル達の間を吹き抜けていったのは、高い床にいる為だけというわけではなさそうでした。

「見えますか、ヨーデル様?」
「ああ、見えるよ。あれは何だろうね、フレン」

「おっさんついに幻覚でも見えちゃった……?」
「ふふ。だとしたら私もそうなのかしら。……でも、悪くない幻覚ね」

 夜空を駆ける配達人の姿。それは目撃した全ての人の心に焼きつけられたでしょう光景でした。
 そして、そのただ中にいるエステル自身でさえも、何とも言えない気持ちで胸が満たされるのを感じていました。
 空には世界に煌めきを投げかける星たち。地上には懸命にまたたく星たち。それはまるで――。
「わたし達へのプレゼントみたいです」
 誰にともなく呟いた声は、やはり彼女の仲間の誰の耳にも届くことはありませんでしたが、こんなにも素敵な気持ちになれたことに、そっと感謝するのでした。
「で、これどうやって降りるの?」
「それは、うちにも分からん!」

「えぇぇええ!?」
 彼らを色んな眼差しで見上げる人々に届くことのない、あまりにも悲痛な叫びは、やはり細く長く冬の夜空に響き渡っていきました。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

クリスマスネタです。ボーダーラピード称号のパーティーメンバー全員の絡んだ話が書きたくて、こんなことに…。配達人って一体何なんですかね。そもそも何であの配役なんですかね。

とりあえず、あんなサンタさんが来たら鼻血がすごいことになってプレゼント血まみれですね(は。



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あきゅろす。
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