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*tales of…*
about him(うっかりガール&一途な少女&天然剣士)
【about him】


「え!そうだったのか?!」
 少女の、酷く驚いた声が辺りに響いた。その、わん、わんという様な反響音からして、狭く、奥へ長く続く空間にいるのだという事が判る。
「ま、ね。あたしも初めは満更でもなかった訳よ」
「少し、ショックだ……」
「………」
 しゃべり方はふてぶてしいのに、どこか幼そうな声が続く。
 細く長い通路の出口に、少女が三人、車座になって座っていた。
 一人は、初めに驚いた声を上げ、今は考え込む様な表情で、床を凝視している黒い髪の少女。折り畳まれたすらりとした足の脇に細身の片手剣を横たえている。
 一人は、先ほどのふてぶてしいしゃべり方の少女。明るい茶色の髪に、ぴったりとした黄色のトレジャーハンタースーツを纏っている。投げ出された両足の間に置かれた手が、装飾のついた大きめのストローを弄んでいる。
 もう一人はしゃべらなかった。花のカチューシャを頂いた薄い金の髪に、海の底の様な澄んだ碧い目。一見すると儚げで大人しそうな雰囲気のこの少女は、二枚重ねのスカートから伸びる足を両手で抱え、二人のやり取りをじっと見ていた。
「じゃあ、あれはその、やっぱり、本気……だったのか……?」
「まー、ちっとはからかってた部分もあったんだけど、半分本気だったかなー」
 言いにくそうにぼそぼそと上目遣いで尋ねる黒い髪の少女に、茶色の髪の少女はあっさりと告げる。
「“だった”、という事、は……」
「ああ!今は全然そんな事ないってば。安心してよね!」
 そうか、とほっと胸をなで下ろした黒髪の少女は、数秒後、何かに気付いた顔つきになり、更にその顔を真っ赤にして、「安心するって何をだ!」と叫んだ。
 金髪の少女は、分かりやすいなぁ、と思いながらも、口には出さない。
「でもね、ああ見えて結構筋肉付いてるんだよ。カチカチ」
「うん、まぁ……」
「あれあれ?なぁんか知ってる様な口振りじゃん。抱き付いた事あったっけ?」
「ば……っ、なっ!?」
「ばなな?」
「違うっ!!」
 やっぱり分かりやすいなぁ、と思いながらも、金髪の少女は口には出さない。
 それに、そんな事はとっくに知っている。自分と彼が長く離れていた時に、この少女達と彼の間にどんな事があって、どんな会話が交わされていたのかが全く分からない事は酷くもどかしいが、それ以上に長い時を自分と彼は過ごしてきた。だから、彼の事は自分が一番よく知っているつもりだった。
「でもさ、黙ってたら普通に格好いいじゃん?」
「黙ってたらというか、元からそんなにしゃべる方ではないと思うが……」
「あー、そういう意味じゃなくて。ほら、口開いたら憎まれ口じゃん」
 ああ、という風に黒髪の少女は納得する。彼の憎まれ口で口喧嘩になった事は少なくはない。まぁ、売り言葉に買い言葉でいちいち反応して言い返す自分もアレだが。
「そんでもって、あのシスコンぶりがなかったらいんだけどねー」
「そうか?別にそんな事は──」
「お兄ちゃんはシスコンなんかじゃないと思う!!」
 自分の言葉を途中でかきけされた黒髪の少女も、何やら問題発言をしてしまったらしい茶髪の少女も、今まで大人しかったのに急に大きな声で抗議した金髪の少女に、目を丸くした。
「え……っ、あ、ごめんなさい……」
 両拳を握り締めて猛然と抗議した少女は、すぐに二人の驚いた様な視線に気付き、居心地悪そうに謝った。握ったままの拳は、へろへろと力無く下がる。
「あれをシスコンと言わないなら一体何て言うのかなぁ〜?ん?」
 意地悪そうににやにやと笑いながら茶髪の少女がずいと金髪の少女に詰め寄った。
 詰め寄られた金髪の少女は、「あ」とか「う」とか言うだけで二の句が告げなかった。黒髪の少女が真剣そのものの表情でこちらを見つめているのが、視界の隅に映った。
 シスコンなんて言わせたくない。自分にとって彼はただの兄ではない。ただの妹なんかでいたくない。
「兄と妹の関係などではないと?」
 顔を真っ赤にして今にも泣きそうになっている金髪の少女が、少しだけ可哀相に思えてきた。自分の恋敵なのに。助け船を出そうと、黒髪の少女が口を開きかけたその時。
「本気で恋した事、ある?」
 確かにそう言ったと思う。金髪の少女の発言よりも、茶髪の少女の反応の方が凄まじくて、しっかりと頭に入らなかった。
「ひぇ?!あ、あたし!?!」
 大袈裟にのけ反って、茶髪の少女がうろたえた声を上げた。
「そう。今までに本気で誰かを好きになった事、ある?」
「あー、えっと……、ほら!だから最初の方は結構本気だったって……」
「そういうのとかじゃなくて」
 目を泳がせながら、手をぱたぱたさせ、いかにも動揺している様子の茶髪の少女に、金髪の少女が容赦なく言い募る。
 “そういうの”とはアレだろう。ミーハーな乙女が、出会って間もない異性に、外見だけを見て抱く様な気持ち。それと一緒だ。多分。
 それにしても、つくづく嘘がつけない性格だなぁ、と茶髪の少女のうろたえっぷりを見て黒髪の少女は思う。しかし、声には出さない。
「あぅ……」
 ごまかすなと、眼がそう言っている気がする。元々強い瞳の娘だとは思っていたが、眼力に何か特別な力でも働いているのではないかと感じてしまう。眼で殺すというのは、こういう事なんじゃないかと、茶髪の少女は思った。
 口元を引きつらせると、観念したかの様に一つ大きな息を吐いた。
「学校行ってた時だったかなー」
「え?」
「何が?」
 茶髪の少女の発言の意味が分からずに、二人の少女が眉根を寄せる。その後に続く、“初恋”という言葉に、一気に意識が引き寄せられる。
「どんな人だったの?」
「何してる人なんだ?」
 あんた達ねぇ……と、茶髪の少女は内心思い、半眼で彼女達を見た。
 何で。いつの間に自分の暴露大会になっているのだ。あまり自分の事を多くは語りたがらない茶髪の少女だが、まぁこの二人だし(色々な意味で)たまにはいいか、とも思える様になった。そして、それが何故だか嬉しい。
「その人はね、あたしの旅の業の師匠、ううん。人生の師匠だったんだ」
「人生の、師匠……」
「あたしの人生を変えてくれた人。くだらない、生きてる価値のない世界からあたしの手を引っ張り上げて、助け出してくれた人」
「………」
 普段の軽い調子からは想像もつかない様な茶髪の少女の表情を、二人は初めて見た。
 哀しそうな様子でも、憤りを感じている様子でもなく、全くの、無表情。
 茶髪の少女から表情が、消えた。
「でね、その人がどんな人なのかと言いますと!」
 急にがらりと調子を変えていつもの様子に戻った茶髪の少女に二人してびくつきながら、次の言葉を待つ。
 茶髪の少女はもったいぶるかの様に沈黙。
「それは……」
「それは?」
「その人は……」
「その人は?」
 ずいっと、二人が身を乗り出す。ごくりと、誰かの喉が鳴った。
「バカだったの」
「……は?」
「え……?」
「だーかーら、バカだったんだってば。もー本当にバカ。世界一のバカだったね、ありゃ」
「………」
 散々もったいぶるので、一体どんな人物なのかと思えば。この少女の趣味はバカな男なのかという疑問を思い抱くという事はなく、ただ渇いた笑いを二人は浮かべた。
「……でも、そんなバカでも、多分ししょーの事好きだったんだな、あたし」
 いちいち過去形で話すのが気になる。茶髪の少女の普段見せない哀しげな顔も、同じ様に。それは金髪の少女も思っていたらしく、怪訝そうな、浮かない様な顔をしていた。
 うすうす察しはついている。黒髪の少女が代表して聞いた。
「だった、というのは……、その人は……」
「うん。もう居ない」
「………」
 何度目かの静寂が辺りを満たす。いつもおちゃらけた、ムードメーカーのこの少女に、そんな悲恋があったなんて知らなかった。少し、この少女に対する考えが変わった、かもしれない。
「なぁんてね!そんな話、本当にあったら泣けちゃうよねー」
「な、に?」
「はい?」
 そして何度目かの間抜けな声が通路に響いた。
「あは、面白かった?」
「さっきの話は……」
「……うそ?」
 あははと脳天気に笑う少女に怒りが沸いてくる。やっぱりいつもの彼女だ。呆れた目付きで茶髪の少女を見やる。金髪の少女も眉間に皺を寄せていた。
「何だか楽しそうだな」
 銀髪の少年は、通路の出口から中へ入ってきた。三人の少女達を呼びに来たのだ。本当にそれだけだった。
「お兄ちゃん!もう、びっくりさせないで!!」
「ば、馬鹿!いきなり入ってくる奴があるか!」
「ほんっとにデリカシーないよねー」
 飯が出来たから呼びに来ただけなのに女三人から一斉に叩かれ、理不尽な思いを抱く。
「俺、そんなに悪い事したか?」
 自分に向けられた厳しい視線に居心地の悪さを感じつつも、少しだけ悲しくなって彼はその場に立ち尽くした。


【END】




【後書き】
 ここまで読んで下さってありがとうございます。
 スヴェンさん好きでした。あんな人いてたらいいですよね〜(悦)実はこっそり好きだったりします、セネノマ。キャラクエのノーマ編はかなり興奮してました……!無理してる女の子って大好きです。






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あきゅろす。
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