*destiny*
shine(シン×ルナマリア)
おれの目の前でちらちらと揺れる深朱の光は、
とても懐かしい様な光で、
おれはそれが何なのか思い出せなくて、でも…──
【shine】
「ぅわあっ…!」
ミネルバ内。レクルームへと向かうシンの足を、嬉しそうな少女の声が止めた。甲板の方からだ。
好奇心に釣られ甲板へと出ると、まず視界に飛び込んできたのは、眩しいくらいの、白。その中で一際映える赤が一つ。
後、思い出したかの様に遅い来る寒さ。
「…寒っ…」
「あっ!シン!!」
人影に気付いて声をかけてきたのは、いつもの落ち着いた深朱の髪を、照り返しによって鮮やかに輝かせているシンの同僚、ルナマリア・ホークだ。
「ね、すごいでしょ。雪!!」
「あ、うん」
シンが返事を返すと、ルナマリアは怒った様に頬をぷっと膨らませてみせる。
「何?その反応。あ、そっか、シンはオーブにいたから雪は初めてじゃないのよね」
シンの暮していたオーブ連合首長国は赤道付近の南国だ。彼とて雪は珍しいものに他ならなかった。ただ──
──目の前でそんなにはしゃがれたら…
「ぅぷ…っ?!」
顔面に痛冷たい感覚を覚え、“それ”が飛んで来た方を見やる。
「あはははっ!ぼーっとしてるからよ!」
次の“弾”を作成にかかる。
「やったな…!」
シンは躍起になって足下の雪をわし掴んだ。その瞬間、顔面にもう一発、被弾する。
「何でこんな時だけ…っ」
固めた雪玉を、ルナマリアに向かって放る。
「コントロールいいんだよっ!」
「きゃあっ!」
雪玉が咄嗟に上げた右手に当たって弾け、ルナマリアは嬉しそうな悲鳴を上げた。
白銀の中に舞う赤い光を、夢中になって目で追う。
シンを包むこの気持ちは、まだ平和だった祖国で妹と一緒になって遊んだ、あの懐かしい気持ち。
しかし、その事にシンは気付かなかった。ただ、この訳の分からない懐かしさに心地良さを感じ、ひたすら、雪玉を作っては投げ付ける。
その姿は、軍の一兵士ではなく、只の少年に戻っていた。
「はっ…、はぁ…っ、ルナ、ちょっと…」
「…はぁっ、は…、何?もうへばっちゃったの…っ?」
そういうルナマリアも肩で息をしている。
雪を踏み分けながら、シンの元へと歩み寄る。軍靴に踏み締められた雪が、ギュッ、ギュッと小気味良い音を奏でた。頬を紅潮させて息を整える、シンの頭を見てルナマリアは笑ってしまう。
「シン!髪っ、雪まみれ。真っ白だよ?」
そう言って手を伸ばし、彼の頭の雪を払う。自分に向けて伸ばされた手に、少しどきりとした。
「はいっ、取れたわよ」
「ルナだって、真っ白だよ」
「えっ、うそ?」
急いで雪を払おうと、ルナマリアが両手を自身の頭に持って行くより早く、シンの右手が彼女の深朱の髪に伸ばされた。
「…っ」
髪に触れると、ルナマリアは少しだけ身を竦ませた。びっくりした様に上目遣いで見上げてくる。
頭の雪を軽く払ってやると、真っ赤になった痛々しい彼女の手を取り、両手で包み込んだ。
──冷た…。
「シン…?」
「うわーっ、寒いと思ったら雪だよ〜っ!」
馴染みのある声が聞こえ、シンは急いで手を離した。
「あ…」
違う意味で紅潮した顔をルナマリアに見られない様に、ふいとそっぽを向いた。
「あれぇ、シンと、お姉ちゃん?!何やってんの、こんなとこ…」
「“ユキガッセン”しよーぜ!“ユキガッセン”!!」
急に騒がしくなった。相変わらずの三人を見て、シンも、ルナマリアも、思わず苦笑してしまう。
ヴィーノが犬の様にはしゃぎながら、すでに雪玉を作っている。ヨウランも、やれやれといった面持ちだが少し嬉しそうでもあった。
「メイリンはしないの?“雪合戦”。」
ルナマリアが妹に声をかけてやると、彼女は冗談、といった表情を向けた。服が汚れちゃうもの、とは言ったものの、戻ろうとしないところを見ると、彼女も満更ではない様だ。
「わっ…!」
雪玉がまたもシンの顔面に投げ付けられる。
「ははっ!当たった!シン!!」
ヴィーノが嬉しそうに歓声をあげた。
「まーぬけっ」
ヨウランの挑発が飛ぶ。
「MSパイロットをなめんなよっ?!」
「そーよっ!パイロットを甘く見ない事ねっ」
「もぉっ、みんな子供なんだからっ!」
懐かしい心地良さが甦る。誰もが幼い頃持っていたこの気持ち。この感じ。
おれたちはいつの間に忘れてしまったのだろう。
一面の白が、少年たちを明るく照らす。白銀の中、躍る様々な色の光が、束の間の幻の様に色鮮やかに輝いていた。
【END】
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