*destiny*
powerless(アスラン×カガリ)
どんなに触れても
どんなに抱き締めても
君は
どこか遠い処へ行ってしまった様で──
【powerless】
思わず見とれてしまっていた。長い睫、あどけない面持ち。
まだ幼さを残す少女の寝顔を、アスラン・ザラは飽きることなく眺めていた。
──そろそろ起こさないとな…。
頭ではそう思っていても、もう少し見ていたいという本心が、それを邪魔する。
窓から差込む木漏れ日を受けて、彼女の金の髪が白く輝く。目にかかった一束を退けてやろうと、金髪にそっと触れた。いつもの不揃いな髪が、触ってみるとさらさらであることに気付く。
アスランの翡翠の眸が、愛しいものを見るかの様に優しくなった。
金髪を絡ませていた手を滑らせ、頬に触れる。
──ふに──
柔らかい彼女の頬を少し摘んだ。
「…ん……」
彼女が少し反応する。アスランは急いで手を引っ込めた。頬が熱い。
「アスラン…?」
寝ぼけ眼を擦りながらカガリ・ユラ・アスハが目を覚ました。
「──!!」
急にがばっと上体を起こした。書類の幾枚かがひらひらと床に落ちる。
「あ…、わ、私は何分寝ていた?!」
「さぁ…。俺も今入ってきたばかりだったから…」
「あ〜〜!しまった!!!何で寝てしまったんだ、私はっ?!」
頭をぐしゃぐしゃと掻く。デスク上の書類の山が、彼女の仕事がまるで片付いていないことを物語っていた。彼女はただの十八の少女ではない。彼女の暮す国、オーブ連合主張国の代表であり、国家元首なのだ。
出来れば手伝ってやりたいところだが、この仕事はアスランの手に負える物ではない。MSの操縦なら得意なのだが。
アスランはやり切れない思いを抱く。
「カガリ、大丈夫か?」
カガリがアスランを見上げる。
「このところ会議も遅くまで続いているみたいだし…。その…」
自分はいつもカガリを心配する事しか出来ない。しかしそれも、上手く言葉を紡ぐ事が出来ない。いつもカガリに纏わりつくあの紫の髪の男の様に。
「アスラン…」
アスランの不器用な優しさに、胸がいっぱいになる。仕事など総て放り出して、アスランだけを想いながら生きていきたい。
込み上げる思いを押しとどめながら、今はアスランの気持ちだけを受け取る。
「ありがとう。私なら大丈夫だ。それよりお前も気をつけろよ?今は民間人のアレックスだけど、元ザフトの脱走兵なんだから」
彼女の言いたいのは、正体がバレない様に──ということだろう。逆に心配されてしまった。
その時、部屋の扉がノックされた。
「カガリ様」
扉を隔てた先から聞こえた声に、今行くと答え、アスランを見やる。
「それじゃ…、行ってくる。」
どこか無理をした笑顔を作り、扉へ向かう。
やり切れない思いが、アスランの中から溢れ出す。
擦れ違う際、カガリの腕を掴み、引寄せ、抱き締めた。
「ア、アスラン…」
「カガリ…、俺は、何もしてやれない…」
苦しそうに言うアスランに、カガリは被りを降ってみせる。
「私は、お前が居てくれるだけで…いいから…」
彼の背中に腕を回した。
──いや、お前が居てくれないと、駄目なんだ。
「お前は私の随員だろ?しっかりと守ってくれよ。」
アスランを見上げ、そう茶化す様に言うと、微笑んだ。
カガリの言葉が心にじんわりと染み渡る。
「あぁ…。」
もう一度ぎゅっと彼女を抱き締めると、少しだけ、微笑った。
【END】
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