*destiny*
call(シン×ルナマリア)
もっと呼んであたしの名前を
あたしが必要とされてるみたいで
──幸せなんだもの──
【call】
その瞬間はとても鈍く感じた。まるでスローモーションがかかった様な感じだった。
“自分”に。
「ルナァッ!!!」
五、六歩の距離がとても長く感じる。
──手の届く距離なのに…!!
凶弾が容赦なく彼女に襲いかかる。自分の目の前で。
──何が“コーディネイター”だ
──何が軍に入って力を手に入れた、だ
──おれはこんなにも無力じゃないか
──目の前の女の子さえ、守ることの出来ない──
「ぅああぁあっっ!!」
シンは絶叫を上げながら銃を構える。
その瞬間、彼の中で何かが弾けた。突然世界が反転し、今度は自分以外の物にスローモーションがかかった様に感じる。彼の中の空間認識力、把握力が爆発的に上がり、周りのもの全ての動きが手に取る様に解る。
シンは恐るべき動きで、彼女に凶弾を浴びせた人間を行動不能にし、さらに死角に当たる場所に潜んでいた全ての敵までも葬り去った。
まだ銃口から細い煙を立上ぼらせているそれを放り出し、シンはルナマリアに駆け寄った。
「ルナ、ルナッ!!」
ぐったりとした身体を抱き起こす。呼び掛けにも反応がない。
ふと頭に添えた手に生暖い物を感じる。手を見ると、そこには彼女の血液がべっとりと付着していた。
──っ!!?
シンは泣き出しそうになりながらも軍用の応急器具を取出し、負傷箇所を手当てにかかる。
彼女を襲った銃弾はこめかみのあたりをかすめ、皮膚を裂いていた。彼女自身が辛うじて躱したのか、それとも敵が外してくれたのか。ともかく、彼女の命に別状は無かったが、今の彼には冷静になる心の余裕が無かった。
あたしを呼ぶ声が聞こえる。
誰?
何て悲しそうな声。
泣かないで
泣かないで。
あたしは
──あたしは……─
もやのかかった意識が段々とはっきりとしてきた。自分に何が起こったのかをようやく理解した時、それまで忘れていた痛みが蘇る。
「…ぅ…、」
頭部を襲う激痛に小さく声が洩れた。
うっすらと瞼を開けると、最初に彼女の眸に映ったのは彼の悲痛に歪む表情だった。
「シ……ン…?」
彼がはっとして顔をあげた。見開かれた真紅の眸から、ぽろぽろと涙が溢れる。
「ルナ…ッ…!」
シンは横たわる彼女に、半ばしがみつく様な感じで抱き着いた。
「ルナ、ルナッ!、良かった…!おれっ…」
倒れた際に打ちつけたのだろうか。身体中が痛い。しかし、ルナマリアは悲鳴を上げる腕を持ち上げ、激しく泣きじゃくる彼の髪を優しく撫でた。
彼女の蒼の眸からも涙が一筋流れ落ちる。
「シン、泣かないで…?あたしなら…、ほら。大丈夫だから…」
優しく、優しく撫で続けた。
しばらくして、彼がようやく落ち着いてくると、涙で濡れたお互いの視線が交差する。
そのままシンは、地面に横たわったままの彼女の唇に自らの唇を重ねた。
「んっ…!?」
驚きと恥ずかしさにルナマリアは唇を震わせる。しかし、すぐに彼女は彼に全てを委ねた。
「ん…」
ルナマリアは重い腕を上げ、シンの後頭部に触れた。深く、甘く、口付けを交す。
ようやく唇を離した時、羞恥心と照れで頬を紅く染めながら、二人して少し笑った。目の端から涙が伝い落ちる。
ルナマリアが痛みに表情を歪めながら身を起こす。シンが彼女を手伝い、自分の膝の間に座らせてやる。後ろからそっと抱き締めた。
「シン…?」
「ルナ…、おれ、ルナが死んじゃうんじゃないかって思った…」
「大袈裟なんだから…」
少し苦笑して、しかし、優しい口調で言った。
自分を抱き締める手に力が込められるのを感じ、ルナマリアははっとする。シンの手が震えている。それだけ彼を不安にさせたのだと思うと、申し訳無い気持ちで胸がいっぱいになった。
「シン…、あたしね、大袈裟かもしれないけど、シンがあたしの名前を呼んでくれたから帰って来れたんだよ…?」
「…え?」
「意識の底でシンの声が聞こえたの。…泣きそうな声が」
シンはルナマリアの肩に顔をうずめ、彼女の言葉を聞く。
「ね、あたしの名前。もう一回呼んで…?」
シンは、彼女を強く、もう二度と離すまいという風に抱き締めながら、
呼ぶ。
「ルナ。ルナマリア…。」
心から幸福感を感じながら、ルナマリアは彼女を抱き締めるシンの手に自分のそれを重ねる。
「ありがとう…。」
シン、
あたしは……
貴方があたしの名前を呼んでくれる限り
あたしを必要としてくれる限り、あたしはどこだっていけるから
お願い
貴方のその声で、あたしを“呼んで”ね?
今はただ、彼女を包む彼の温もりに、その身を預けた。
【END】
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