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*destiny*
with anxiety(タリア×アーサー)
無茶しないなんて出来る筈がない。
これが私の環境であり。
私の職場なのだから。

【with anxiety】

「ふぅ…」
 斜め下から聞こえてきた溜め息に、アーサー・トライン副長はぎくりと背を竦ませた。
 また自分が何かミスをやらかしてしまったのだろうか?!頭をフル回転させて、思い当たるものを探してみるが、何も思い当たらない。いや、最近はごたごた続きだったし、戦闘も割と多かったから…
──気が滅入っていらっしゃるのかもしれない。
 溜め息の原因が後者であることを精一杯祈りながら、おずおずとアーサーは問う。
「あのぅ…、どうかなさいましたか?」
 現在、自分達が搭乗している艦、戦艦“ミネルバ”の艦長であるタリア・グラディスは、掛けられた声に顔を上げた。
「え?あぁ…、ごめんなさい。何でもないわ」
 そう言うと、再びデスク上の書類に目を落とした。頬杖をつき、もう一度、ふぅと溜め息を吐く。
 いつもの毅然とした彼女らしからぬ雰囲気に少し違和感を覚えたが、大して気にもせずドアへと進む。
「それでは失礼致します。」
敬礼をし、部屋を出ようと後ろを向いた瞬間──
──ドサッ…
「えっ…?」
 驚いて振り返ると、椅子からずり落ちたタリアが、気を失って倒れていた。
「えぇっ!艦長っ!?」
起こった事態が把握出来ずに、アーサーはうろたえた声を上げる。
すぐにタリアに駆け寄ると、彼女を揺さぶり、声を掛ける。が、彼女からの反応は無い。その表情は血の気が失せ、白い。唇は……橙色のルージュでよく分からないが、とにかくやばいということだけは解る。
デスク上の内線を引っ掴み、医務室へ繋ぐ。
「─〜〜!!」
 コール音だけがいつまでも続き、一向に誰も出ない。焦った彼は、ついに最後の手段に出る。内線を放り出すと、ぐったりしているタリアを抱き抱え、部屋を飛び出した。
 無我夢中で廊下を走る。腕の中のタリアの顔色が、どんどん悪くなっていっている気がする。焦りだけがアーサーをつき動かしていた。
「先生っ!!艦長がっ…!」
 勢い良く医務室に駆け込む。──が、室内は誰もおらず、も抜けの空であった。
「一体どこに行ったんだ?!」
 空いているベッドにタリアを寝かせる。軍医を探そうと一旦部屋を出ようとするが、今のアーサーにはタリアを残してそこから去ることは出来なかった。
──応急処置だけでも……
 アーサーはまず、タリアの頭の下の枕を抜き取った。それを足下に持ってゆき、ふくらはぎの下に敷き、頭を低くさせる。
──思い出せ。落ち着け。思い出せ…!
 士官学校時代に習った応急救護のマニュアルを記憶の彼方から引っ張り戻す。
 次に彼はタリアの軍服に手を掛けた。
──み…見てませんよ!見てませんからね!!
誰にする訳でもない言い訳を心の中で呟きながら、襟元のホックを外し、軍服をはだけさせる。
そして、最後の仕上げが残っていた。
頬が熱い。紅潮しているのが判る。覚悟を決めると、アーサーはタリアの首の下から手を回す。そのまま肩を抱いて、彼女の上半身を少し持ち上げた。
「しっ、失礼しますっ!!!」
 右手でタリアの背中にあるホックを一気に外した。
 ゆっくりと彼女の頭を降ろすと、アーサーはその場にへなへなとへたりこんだ。刹那──
─プシュッ─
 入口のドアが開き、軍医が入ってきた。ベッドの上に寝かされた人物と、床に座り込んだ彼を交互に見つめ、目を白黒させる。
「先生ぇ…」
 アーサーは恨むような気持ちで、そう言った。

 額にひやりとしたものを感じる。
 冷涼な心地よさを感じながら、タリアはうっすらと目を開けた。
 ぼやけていた視界がはっきりしてくると、自分の傍らでこっくりこっくりと船をこぐ人物が目に入る。
「アーサー…?」
 突然の声にアーサーはこれ以上に無い程びくついた。
「す、すみません!寝てませんっ!!」
 きょろきょろと回りを見渡す。そんな彼を見て、何故だかタリアは安堵感を覚え、くすりと笑った。
「あ…、艦長。お気付きになられましたか」
「私、倒れたのね」
「貧血だと、先生はおっしゃってました」
「そう…」
 額に手を乗せようとして、そこにあるタオルに気がついた。貧血になってもおかしくはない。最近はあまりの忙しさに、ろくに食事も取れなかったのだ。
「今日一日はゆっくりと休んで下さい。」
 アーサーの気遣いは嬉しく思う。しかし、自分は“ミネルバ”の艦長なのだ。艦長たる自分が寝込んでいては、この艦で共に戦ってくれているクルーに示しがつかない。
「そういう訳にもいかないわ。もう大丈夫よ」
 そう告げ、身体を起こす。額のタオルがずり落ちた。
「駄目ですよっ」
アーサーは咄嗟にタリアの肩を掴み、制する。
「悪化したらどうするんですかっ!」
確かに一理ある。今は体調を治すことが先決かもしれない。タリアは諦めて横になった。
 それにしても……
──アーサーにお説教されるなんて、私も相当疲れてるみたいね。
 心の中で自分を揶揄しながら、タリアはふと疑問に思う。
「ずっと、ついててくれたのかしら…?」
 タリアの言葉にアーサーは少しだけ頬を赤らめた。応急処置の際に彼女にしたことを思いだす。
「はぃ…」
「そう。悪いわね」
 そう言うと、タリアは柔らかく微笑んだ。
 自分に向けられた笑顔に、アーサーの心臓が跳ねる。
「と…っ、とにかく!後の事は自分に任せて、今日のところはゆっくりと休んで下さい!」
 動揺を懸命に押し隠しながら、そう言うと、タリアはきっぱりと返す。
「そうね。貴方に任せておくのが心配だから、早く治す様に努めるわ」
 その言葉に、何故だか少しの安堵感を覚え、
「艦長ぉ…」
 いつもどおりの情けない声を医務室に響かせた。


【END】





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