[携帯モード] [URL送信]

*destiny*
black & red(シン×ルナマリア)
議長の服って、結構なんでもありなんですね」
「そうみたいだね。……でも、今回はちょっと、色々、頼んだから」
「頼んだ、って、何を」
「いや、なんでもない。そういえば彼女は、ずっとあの格好なの?」
「はあ、まあ……そうですけど。おれの知る限り」
「君は気にならないの?」
「別に。あいつがどんな格好してようと、おれには関係ないですから」
「あんなに無防備なのに?」
「…………」
「お待たせしました。立入許可、降りました。……なんですか? 二人してじろじろ見て」
「なんでもないよ。じゃあ、行こうか」
「あたし、議長呼んできます」

【black & red】

「ねえ、キラさんと珍しく何話してたの?」
前を行く国家要人を目の端で盗み見ながら、ルナマリアはそっと同僚に囁いた。プラント最高評議会議長、ラクス・クライン。昔の議長の、娘にして、絶大な人気を誇る歌姫ーーなんて、ルナマリアにしてみればよくわからない人物だ。その隣を歩くのが、ザフトの白服を着ながら、オーブ軍の准将でもある、などという更に訳のわからない人物。
「何って……ルナには関係ない」
嘘だと直感で察する。
「関係あるでしょ。さっきあたしの事見てたじゃない」
前方で歓声が上がる。国民的大スターのまさかの基地視察に、無骨な軍施設が不釣り合いな活気に沸いている。本来ならばそのような大物を、自分達が先に立って案内しなければならないのだが(実際そういった命令は下っている)、白服の二足の草鞋の人自体、要人と親密な仲であるらしいし、案内の仕方も自分達より美味いだろうと、後ろから付いていくだけとしている。当の大スターは大人数の輪に囲まれ、慣れた様子で大物オーラ満開のスマイルを放っている。そういった場のひと払いも自分達の役目だが、そのうち”輪”の上官が戻るよう促すに違いない。
「っていうか、シンがあの人と喋ってること自体驚きなんだけど。あんたも丸くなったってことよね」
人垣を眺めていた赤い目が、心外だというようにルナマリアを睨んだ。
「そんなんじゃない! じゃあ、聞くけど、……お、おまえはなんで軍服のズボン、穿かずにそんなスカートなんて穿いてるんだよっ」
言われた言葉を飲み込むのに時間を要した。なんで、突然、今更、スカートの話になる。
言ったきりシンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。人垣が散らばる。白服とピンクの髪は再び歩き出した。向こうにも、こちらがさらさら案内する気が無いことに対して、何とも思っていないようだ。しかし一応命令だし任務ではあるので、付き合うより他にない。自分から妙な質問をしたくせにシンは軍靴を鳴らして足早に二人の後を追いかけてしまうので、ルナマリアも慌ててその背中を追った。
ーーなんで? 言われてみれば、なんでだっけ。
歩きながらルナマリアの思考は遡る。

思い続けていると、いつしかそれが自分の中で当たり前の事象に変化している。だから、女である自分が男ばかりのパイロット科でどれほど馬鹿にされようと、パイロットになることを当たり前だと思って過ごしてきた。勝気だと言われると、そうかもしれない。妹が頼りないから、というのもあるのかも知れない。士官学校で妹が頼りにしているのが自分だけだし、元より妹を守れるのも自分しかいない。子供の頃から何かとルナマリアの背中に隠れがちな妹だ。相対したものを正面切って迎え撃つ場面が多かったのも、この性格を形成することになった要因の一つなのだと思う。
だから、思った。
男ばかりのパイロット科で、今期の候補生の内三名しかエリートと認定されない中に、ほとんどの男共を蹴落として、女である自分が堂々と入ったことに、心の底から”ざまあみろ”と。
緑の軍服を手にしている大半の中で、自分が‘‘赤い軍服”を受け取るのは、当然のことだったのだ。
とはいえ。
「可愛くない」
そう思ってしまう自分はやはりただの女の子だ。妹のことをミーハーだなんて言えた義理じゃない。だとしても、あのシホ・ハーネンフースのように女でありながら、あそこまで格好良くこの服を着こなせる自信もない。どうしたものかと考える。いつも自分の満足いくように行動してきた。それに反発されようと、揶揄されようと。大事なのは、自分の気持ちだ。
要は、自分に似合うように気こなせば良い。
姿見の前でスラックスだけ脱いで気付く。上着の丈が、赤服と緑服とで長さが違う。ワンピースの様に、赤服は長い。何故だか知らないが。そこまで考えて、妙案に思い至った。上着も脱ぎ、アンダーシャツと短パンだけ身に付けたままになると、赤軍服を腕に抱え、自室を飛び出した。

後日受け取った赤軍服に、見繕っておいたスカートを身につけると、姿見の中でルナマリアは満足気な笑みを浮かべた。とてもしっくりきた。これでこの服を毎日着ることで生じる不安要素は無くなった。
しかしその分、自分への視線が増えた。
まず、同期が変な顔をした。その次に誰かと通りすがる度に複雑な目で見られた。それから、上官にこっぴどく叱られた。
それでも切ってしまったものは仕方が無いし、また新しい軍服を注文するのも煩わしいし、何よりあの丈がやはり自分に合うとはどうしても思えなかったので、素知らぬ顔で毎日を過ごしていると、やがて好奇の目も非難の声も少しずつおさまっていった。喉元過ぎれば、というやつだろうか。
それはルナマリアにとって過ごしやすい環境になったということだが、何しろ軍というものは何故だか女より男の方が人口が多い。特にルナマリアの職種であるモビルスーツパイロット、というものにおいては、殊更。”そう言った目”で見られることは、はなから気にしてなどいない。そして、その頃に確か、自分専用のモビルスーツが充てがわれた。同時に”ミニスカザフトレッド”の噂と上官からの小言が段々と廃れていくにつれて、ルナマリアもそれどころじゃなくなってくる。自分の担当する機体がガンダムでなかったのは不服だったが、それに乗っての、来るべき実戦の為に、頭に叩き込むことは山程あったからだ。

当初から気にしていたつもりなど、毛頭なかったのが、久々にそんなことを思い出したのは、同僚の”あんな顔”を見たからだ。格納庫特有の風圧や気圧の変化に伴う強風も、すっかり忘れてしまっていた、というか、意識の範疇になかった。だから、ザクウォーリアのコックピットから出た時に、遥か下方にいた同僚が、こちらを見上げて顔を真っ赤にしていたのも、初めは何故だかわからなかった。

「あー……、わかった」
唐突に降って湧いた解答に、思わずそう呟くと、前を行くシンが怪訝そうに振り返った。その表情に、ルナマリアはきっぱりと伝えてやった。
「シンの、ラッキースケベ」
「な?!」
なんとも間抜けな声を出し、あの頃と同じような、真っ赤な顔。スカートを摘まんで、あの時のような強風のない代わりに自分で少しだけ持ち上げてみせると、真っ赤な顔がぎくりと引きつった。
ーー単純に、似合った服の自分で居たい、ってのが理由だけど。
「あんたの反応が面白いから、ってのも有りかもね」
そう言って何食わぬ顔でシンの横をすり抜ける。 後ろで聞こえた、何だよそれ! なんて不服申し立てに内心舌を出しつつ、ルナマリアは名ばかりの、”VIPへの案内係”を再開させた。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

シンの原点はラッキースケベだと思ってやまないです。要するに、上からはいてるなんて、ルナマリアさんらしくないと勝手に思ってます。故にレッドは赤面、ブラックはスカートの下、です。


[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!