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*destiny*
garland(シン&ルナマリア)

【garland】


 やけに部屋が静かだと思った。と言っても部屋の中に自分一人だけ、という訳ではない。部屋にいるのは、二人だ。シンとそして、ルナマリア。ただ、自分も向こうもー言も発しない。変な静寂が場を占めていた。ホテルの一室――午後十時五分。珍しく宿舎ではなく、そんな場所に、軍服ではなく私服を纏い、二人だけで居るのには理由がある。
 シンは壁に背を預ける形でベッドに腰を下ろし、ちらりとルナマリアを盗み見た。
 ルナマリアは、この部屋にもう一つあるシングルベッドに寝そべり、端末を開いてワールドウェブを閲覧していた。ちなみにシンの視線に気付いた様子はない。
 そんな光景。
 何だかこの場面だけを切り取って見てみると、士官学校時代を思い出す。かつての自分たちも、試験が近付くとこうして、一つの部屋に集まり、PCを開いて勉強していたものだった。
 しかし、あの頃とは事態も状況も全く異なる。あの頃の自分に果たして想像出来ただろうか。数年後、またこうして一つの部屋でルナマリアと一緒に居ることを。

 自分と、ルナマリアが、ホテルの一室にて、結婚式の前夜を過ごしているということを。

「――っ!!」
 そんなことを考えてシンは一人で勝手に困惑した。心臓が変に早いリズムで拍動している。
 思えば、“結婚する”ということは、どういうことなのだろう。
 ずっと一緒に住む、ということなのか。子孫を作る、ということなのか。ルナマリアのファミリーネームが自分と同じになるということなのか。
 分からない。その全てが当てはまって、しかしどれもが的外れな気がして仕方ない。
 分からない。分からないのにどうして結婚するのか。そして、既婚者はどうして結婚出来ているのか。
 一人でただ悶々と考えている。父さんと母さんはどうして結婚したのだろう。結婚する前に、こんな気持ちになったりしたのだろうか。思わず溜め息を吐いてしまう。頭を抱えたくなってきた。
「どうしたの? 頭でも痛いの?」
 いつの間にか端末を閉じ、ルナマリアがシンを心配そうに見ていた。
「いや。大丈夫」
「大丈夫って……、あんたねー」
 ルナマリアが腰を上げ、シンのそばに寄ってくる。
「明日は大事な結婚式なんだからね。風邪なんかひかないでよ」
 隣に座るルナマリアの表情は、小言の時の見慣れた怒りと呆れのない交ぜになった顔。
「結婚、か。なあ、ルナ。結婚って、そんなに大事なのか?」
 ルナマリアの目が丸くなった。まるで、“何よ今更”とでも言いたげに。それでも自分には分からないのだ。結婚をする前と、した後とで何が一体変わるのか。それを素直に教えて欲しかった。ルナマリアが、自分との結婚についてどう思っているのかを。
 そもそも、自分はルナマリアとずっと一緒に居られればそれで良かったのだ。極端に言えば、暮らす場所がたとえ軍の宿舎でだって。自分には、ルナマリアさえ居れば良い。それを話したら、“結婚”と言う選択肢を出してきたのはルナマリアだったのだ。
「シン」
 隣に座るルナマリアが、至近距離からそっとシンを見上げた。その端正で整った顔に、シンの胸がどきりと高鳴った。キスをされるのかと思って、思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。
 しかし、その唇は予想外の動きをした。
「結婚、やめる?」
「…………え?」
 今度はシンの目が丸くなった。目を開けてルナマリアを見る。ルナマリアは真っ直ぐにシンを見上げて、
「結婚。やめる? シン」
 繰り返した。
 ――………え?
 シンは今度は胸中で疑問を繰り返す。
 分からない。
 言われた言葉の意味が理解出来ない。
 どういうことだ。ルナマリアから“結婚”という選択肢を出してきて、その後シンはプロポーズというものをして、二人でそうすることに決めて、そして自分達は確か明日――。
 結婚するんだったか?
 しないのだったか?
「え? えっ? うそ、ちょっと、シン?!」
 視界がぼやけた。なんだか訳もわからずに込み上げてきて、勝手に溢れた。
「やだ、うそだってば! 本気に……、あーもう! 泣かないでよ!」
「な――!? 誰が泣いてるんだよっ!?」
 ごしごしと袖で目元を乱暴に擦った。確かに泣いていた。喉は熱いし鼻だってぐずぐずだし、明らかに泣いている。だけど、どうして泣いている? 何が悲しくて泣いている。
「ごめん」
 ルナマリアの細い腕が首に回される。されるがままになりながら、しかし抵抗もせずにシンは仏頂面になる。
 そう。ルナマリアが変なことを言ったから、全て悪いのだ。
「ごめんってば。結婚やめるなんて嘘だから。ね?」
「……そんな嘘、吐くなよぉ……」
「うん。だから、ほんとにごめん」
 ルナマリアがシンを抱きしめる。シンもルナマリアを抱きしめた。シングルベッドの上で身を寄せ合う。ルナマリアの匂い。体温。吐息。僅かに動いた時の肌の触れ合いさえ、愛おしい。ずっと一緒に居たい。これからも。自分自身に誓い、ルナマリアに願ったこと。もう言葉に出さなくても、シンがルナマリアを抱きしめることで、気持ちは鮮明に伝わっていた。
「シン」
 シンの頭の後ろから声がする。固く抱きしめあったまま、二人は動かない。
「ん?」
「やっぱり大事。結婚」
「うん……」
 それは痛感した。何しろ泣いてしまったのだから。
「あたしは、シンとずっと一緒に居る」
「……うん」
「でもそれ以上に、あんたと家族になりたいの」
「ルナ――」
「シンと家族になりたい」
 やっと分かったような気がした。
 結婚するということ。家族になるということ。目の前の愛しさだけじゃない。これから先の、彼女の未来をも貰い、人生をかけて大切にすること。もしかすると、“結婚”とはそういうものなのではないのだろうか。
「だから、明日からよろしくね。シン」
 そう言って、シンから体を離してにっこりと笑う。
 その笑顔を見て、なんだか肩の力が抜けた。
 ――そんなに難しく考える必要はないんじゃないか。
 ルナマリアが好き。それはこれからも変わらない。だから家族になる。
 きっと自分の両親も、そうやってまずお互いと家族になり、“自分達の家族”を作り上げていったのだから。
「うん、おれも」
「シン……」
「おれもルナと、家族を作りたい……!」
「……へ? え? あ、作――?」
 “も”と言っておきながら、全く検討違いなことを言ってしまったことにこれっぽっちも気付く様子もなく、ただシンは顔を真っ赤にしておろおろとなるルナマリアを不思議そうに見つめた。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

結婚式前夜、なシンルナ。シンは結婚とに頓着しないようなイメージ。ルナマリアは結構先まで見据えていそうなイメージ。この二人の結婚生活というものが想像付きにくいんですが、幸せなシンルナを、何より望んでいます。

それよりなにより。リアルシンルナ! 結婚おめでとうございますー!!^^



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