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*destiny*
reason(シン×ルナマリア)
【reason】


「うっそぉ……、何で?」
 “これ”が何故そうなったのか、ルナマリアには全くもって分からない。頭が混乱する中、何をする訳でもなく、呆然と彼女はその場に立ち尽くす。
 ただ混乱する頭でも唯一分かっていたのは、
 ──スコアが消えた!!
 という事。ひたすらその言葉がルナマリアの脳内でリフレインする。これがいつも通りのスコアなら、また別の機械で再チャレンジすればいいだけの事だ。しかし今回ばかりはそうやって解決出来る問題ではなかった。
 ──よりによって、今消える?!
 史上稀に見る高スコアだったのだ。
 ルナマリアは決して射撃が得意とは言えなかった。それは上司からも指摘されていたし、自分でも重々分かっていた。だからこうやって射撃のシミュレーションを行っても、赤服を着ている割には平均ラインより少し上をうろちょろするようなスコアしか出せなかった。
 それがどういう訳か今日は怖いくらいに当たる当たる。ルナマリアの放つ弾はターゲットに吸い込まれる様にして一直線に進み、その穴を穿ったのだった。
 自己ベストを更新出来るかもしれない、これでレイとシンに思いっきり自慢出来る、様々な想いが交錯した“最後の”弾丸がターゲットに当たった瞬間に、それは消えた。消えて動かなくなった。
 ──何でなのよぅ……。
 しばらくその場で項垂れていたルナマリアだったが、突如として脳裏に浮かんだのは“諦め”ではなかった。
 ──まだ結果が機械の中に残っているかもしれない。
 スコアが消えた事に対する理不尽な怒りと、急げば結果を取り戻せるかもしれないという焦りは、ルナマリアにある事を思い付かせた。
 軍靴の踵をカツカツと鳴り響かせながら先ほどまで使用していた機械へと近づくと、彼女はとんでもない暴挙に出た。

 シンは初め、射撃の訓練など毛頭するつもりなかった。以前に調査した施設の報告書を書くなどという限りなくダルい事を、オフにも関わらず三時間ぶっ通しで書ききって体力的にも精神的にも限界だった。
 ──眠む……。
 早くベッドにダイブしたい……。専ら気持ちに足を動かされるがまま、射撃訓練場の前を通り過ぎようとしたその時に、シンは聞いた。
 ガンガンガンッッ!!!
「──っ?!!」
 今にも閉じようとしていた瞼は開かれざるを得なかった。
 それは明らかに銃声ではなく。よく聞くと、“このっ”だの、“おかしいわね”だの、所々声が聞こえてくる。それもシンのよく知る少女の声でだ。
「何やってんだ、ルナッ!!?」
 勢いよく訓練場に飛び込んだシンが目にしたのは、スコアマシンに踵落としを食らわそうと高々と脚を振り上げたまま振り返った、ルナマリアの姿だった。
「あら、シン。あんた今日オフじゃなかったの?」
 脚を上げたポーズのまま、何でもない様にサラリとそう言ってのけた。

「何もそんなに大袈裟にため息吐かなくてもいいじゃないっ!」
 事情を聞いたシンのあからさまなため息に、ルナマリアは少し顔を赤く染めて口を尖らせた。
「普通蹴るか?」
「何か衝撃を与えたら治るって……」
「いつの時代の話だよ」
「だって本当にスコアシート欲しかったんだもの」
 手の中で拳銃を手持ちぶさた気味に弄びながら段々と声を細めていくルナマリアが何だか少し気の毒に思えてきて、シンは小さく息を吐いた。
「そんなに良い成績だったのかよ?」
「そうよ。ベスト更新出来たかもしれなかったのよ」
 もしルナマリアがそこで言葉を切っていたらシンも、“また頑張れよ”などと適当なことを言ってその場を終わらせる事が出来ただろう。しかし彼女の口から出たのは、
「あんたの記録だって抜いてたかもしんないのよ」
 当然の如く、そこでシンの顔色が変わった。

「分かってるだろうな」
 三番機を立ち上げたシンがゴーグルを装着しながらルナマリアに問う。隣の四番機で同じように着々と準備を進めながら、ルナマリアが当然と言わんばかりに答えた。
「そっちこそ覚悟は出来てるんでしょうね。今日のあたしは一味違うわよ」
「……どうなっても知らないからな」
 言うと二人は同時に拳銃を目の高さに構える。開始を報せるアラームが鳴ると、二人は撃った。

「こんなはずじゃあなかったのに……」
 本日二回目となるルナマリアの沈痛な声が訓練場に響いた。元々運などに頼った事こそが間違いで、スコアを左右するのはやはり自分の力でしかないのだと、彼女は遅まきながら痛感した。
 結果は火を見るより明らかだった。勝敗を分けたのはずばり実力だ。実力が全く同じでない限り、実力下位の者より実力の勝っている者が単純に、勝つ。普通に隣でスコア分析を見ながら嬉しそうに頬を染めている(自己ベストを更新でもしたのだろう)シンを、ルナマリアは恨めしそうな目で見つめた。分析結果を見終えたらしいシンが振り返って言う。
「約束。忘れてないだろうな?」
 至極億劫そうに嘆息する。“負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く。”そんな約束しなければ良かった。誰だ、言い出したのは。……自分だっけ。
「食券百枚でも、報告書の代書きでも何でもいいなさいよ」
 半ばやけくそで言った彼女だったが、目の前の少年が面食らったように立ち尽くすのを見て、目を丸くした。一体どうしたというのだろう。
「えっと……、そんなんじゃなくて、おれ、欲しいものがあるんだけど」
 たどたどしく言葉を紡ぐ彼の顔は何だか、赤い。
「何なの?あんまり高いのはやめてよ?」
「だからそうじゃなくてっ、おれが欲しいのは──」
「──っ?!!」
「“これ”なんだけど」
 あろうことか突然シンに顎をすくい上げられ、ルナマリアは目を白黒させた。“これ”とは、やはり“これ”の事だろうか。
「あ、っと……、し、シン……?」
 依然シンの手に顎をすくわれ少し上を向かされたまま、彼を見る。拗ねた様な赤い目が、こちらを見ていた。
「……今さらやめるとかナシだからな」
「う……。わ、かってるわよ……」
「じゃあ目、瞑れよ」
 何だかこちらまで恥ずかしくなってくる。ああ、今あたしのほっぺ赤いんだろうな。ゆっくりと目を閉じると、ルナマリアの胸に一つ疑問が浮かんだ。
 ──何でこんな事になったんだっけ……。
 しかしそんな疑問も、彼の唇が触れた瞬間に何だかどうでもよくなってきて、シンの軍服を掴むと共に胸中で呟いたのだった。
 ──ま、いっか……。



 ここまで読んで下さってありがとうございます。
 ルナマリアは機械が壊れると絶対に叩いて治そうとするタイプだと思うのは私だけでしょうか。(そうだよ)






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あきゅろす。
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