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*destiny*
3seconds(シン×ルナマリア)/相互記念SS。
 “今が幸せなら、それでいい”


 肩が触れるか触れまいかという距離。すぐ近くにある顔。隣ですやすやと寝息をたてる彼女の寝顔があまりにも無垢で、無防備で。微笑ましいやら情けないやら、おれの心の中は今日も彼女という存在に引っ掻き回される。


【3 seconds】


 戦闘後というものはどうにも落ち着かない。まだ“敵”へと向けた本能的なものを抑えきれない攻撃的なおれと、平穏に戻って来たことに安堵するおれ。その二つの気持ちの中でせめぎ合う本当のおれ自身。この“境”の中にいるのは存外気分の悪いものではなかった。そうやって少しずつおれはおれを取り戻す。おれへと戻ってゆく。

 ──……。
 意識を取り戻した。──ものの、脳の回転はまだ遅く、シンは焦点の定まらない視線でゆっくりと辺りを見渡した。
 ──レクルーム。
 ──そうだった。帰ってきて、そのまま……。
 寝てしまったらしい。“ここ”で寝るなんてよほど疲れていたのだろう。欠伸を噛み殺す。部屋へと戻って本格的に寝ようと立ち上がりかけたその時──。
「……ん……」
「──!?」
 横で同じ椅子にもたれ眠る少女の存在にシンはここへきて初めて気が付いた。赤い髪、ショートカット、整った顔立ち──。
「ル、ナ……?」
 名を呼ぶと聞こえているのかいないのか、僅かに少女がその眉を寄せた。思わず反射的にシンは自分の口を塞いだ。
 ──何でルナがここにいるんだ?
 混乱する頭を鎮めようと深く息を吸えば、何かやたら良い香りが漂ってきて、シンの内心は余計に混乱を窮めた。
「むぅ……」
 椅子に寄り掛かりながら寝ていたルナマリアが突如寝苦しそうに呻いたと思えば、ごそごそと動き出した。どうやら寝やすい箇所を探しているようだ。
 何回か体勢を変えて、彼女はようやくシンの肩口へと落ち着いたようだった。シンの体に寄り掛かり、彼の肩と首の間にルナマリアの頭がジャストフィットした。その瞬間からシンはぴくりとも動けなくなった。
 鼻先にふわりと彼女の赤い髪。胸元にはあたたかく柔らかい彼女の小さな肩。ああ、心地好すぎて死にそうだ。
 理性を手放さないようにと彼は必死に耐えながら、首は動かさずにちらりとルナマリアを見やる。眠気は完全に吹き飛んでいた。

 どのくらいの間、そうしていただろう。それはとても長い時間だった様な気もするし、もしかしたらほんの僅かな時間だったのかもしれない。ただ幸運だったのは、相変わらずレクルームには彼ら二人しかいないという事だった。
 シンは飽きもせずにルナマリアの寝顔を眺め続けていた。
 ──本当によく寝てるな。
 呼吸に合わせて胸が上下する様子が見られるものの、このままずっと眠ったままでもしかしたら目を覚まさないんじゃないか、などと馬鹿な心配が彼の脳裏に過った。
 シンは静かに右手を上げると、自分の左肩を枕にして眠るルナマリアの鼻をそっと摘まんだ。
 突如酸素の通り道を塞がれた彼女はそのまま何もない様に眠っていたが、それから数秒が経った後口をぱくっと開き、口呼吸に切り替えた。
 ──まだ寝るのかよ……。
 半ば呆れながらも、口を半開きにさせたまま眠り続ける彼女が可笑しくて、シンはくつくつと笑った。
 鼻を摘まんだ手を離さないまま今の彼女の唯一の酸素の通り道を、今度は自らの口で塞いだ。
 一秒、二秒、三秒……。徐々に彼女の顔が赤く染まり、苦しそうに呻きだす。そして──。
「〜〜〜!!!」
 何だか彼女の顔が青ざめてきたので、慌てて彼女から顔と手を離した。
「っぷはあっ!!!」
 起きるなりぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す彼女に、シンは恐る恐る声をかける。
「おはよう、ルナ……?」
「あ、シン……、あたし今、宙で、溺れそうに、なる夢、見ちゃった。怖かった、ほんとに……」
 途切れ途切れに言葉を紡ぐルナマリアを少し後ろめたい気持ちで見つめながら、何となく“ごめん”と呟いた。すると彼女は不思議そうに“は?”とだけ言って、もう一度シンの肩に寄り掛かった。
「ちょっ……、ルナ?」
「ごめん、もう一眠りするわ」
「な、ちょっと待てよ!てか、何でルナがおれの横で寝てんだよ」
「ごめん。あんたの可愛い寝顔見てたら何だかあたしもうとうとってきちゃって」
「何だよ、それ……」
 気にかかっていた大元の疑問もよく分からない理由であっさりと返されてしまい、それでも彼女の体温が心地好くて“自分の部屋で寝ろ”とは言えずにシンはむっつりと押し黙った。
「“ここ”の方が寝心地がいいのよ」
 そう言って再び静かになった彼女を横目で見ながら、小さく息を吐いた。
 色んな意味で、もうどうにでもなれ、なんて投げやりな気持ちになると、彼も静かに目を閉じた。


【END】




【後書き】

 ここまで読んで下さってありがとうございます。
 帰投後、レクルームで寝こけるシンを見つけたルナマリアが隣でシンにいろいろちょっかいを出してるうちに自分も眠たくなって……みたいなアレでお願いします。(何が)
 シンとルナマリアはお互いにちょっかい出し合いながらじゃれてるといいと思います。
 川上葵さま、この様な駄文で大変申し訳ありませんが、ラブラブな二人のつもりで捧げさせて下さいませ…!(死)





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あきゅろす。
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