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*destiny*
help(シン×ルナマリア)/カイラ様リク。
【help】


 勝ち気な彼女の事だ。きっと何もない様な顔でどこかを歩いているのだろう。たかが人混みではぐれたぐらいでメソメソするような人間では決してない。というか、そんな彼女など到底想像出来ない。シンは別段、心配などしていなかった。
「あ……っ、すいません」
 肩がぶつかった。相手に謝りながら喧騒の中を人と人の間をすり抜ける様にしてシンは早足で歩く。ふいに後ろがざわりとなった。視線を向けてみれば、柄の悪い男同士、“この野郎”だの、“ぶっ殺す”だの言い合っている。肩がぶつかったとか何かだろう。
 瞬間に浮かぶのは不吉な光景。いや、ないない。大丈夫だ、……多分。それに何かに巻き込まれていたとしても、彼女はあれで一応軍人だ。拳銃はさすがに携帯していないにしても、ザフト仕込みの軍格闘術もある。あんな、顔が怖いだけの一般人に彼女が負けるはずなど絶対にない。それに実際に喰らった経験のある人間にしか言えない事だが、彼女の回し蹴りは死ぬほど痛いのだ。あの脚はあらゆる意味で凶器だと、シンは思う。
 と、自分を必死に宥めて、安心させている自分がいる事にシンはようやく気付く。動揺を隠す事が出来ていなかった。想像出来うる様々な不吉な光景を頭から追いやりながら、シンは歩を早める。もはやスピードは競歩並みから駆け足へと知らず変わっていた。早く、早く。会いたい。
 ルナ……!!
「そこのお兄さん!お急ぎでなければ、お一つどうです?」
 脱力を誘う様な中年男の威勢の良い声が聞こえた。自分に言ったのだろうか。だとしたらどこに目を付けているのだろう。明らかに急いでるだろうが。おれは。
 振り返った店の前に、先ほどの声の主と思われる男と見覚えのある服の女。よく知る赤いショートカット。
「って……、え?ルナ?!」
「あ!シン!!」
 酷く可愛らしい顔で、ずっと探し求めていた彼女はそう言った。

「いやぁ、来てくれて助かったわよ」
「よく言うよ」
 文字通りの三白眼でルナマリアを睨む。彼女は飄々とした顔で肩を竦めてみせた。
「だってお金取られるだなんて思ってなかったんだもの。あたしオーブのお金なんて持ってないし」
「だからって食い過ぎなんだよ」
「知らないわよ。あのおじさんがどんどん勧めてきたのが悪いのよ」
 あの時の彼女の笑顔を、素直に可愛いだなんて思った自分が馬鹿だったのだと分かると、シンは深々と溜め息を吐いた。あの笑顔の真意を彼は分かっていなかった。
『あ!シン!!』
 その後に続く言葉は、“どこにいたの”でも、“探したんだから”でもなく、
『ちょうど良いところに!』
 だった。
「ったく、人がどれだけ心配したと思ってんだよ」
 再び喧騒の中を二人で歩き出す。今度ははぐれないように、手をつなぎながら。つないだ手から感じる彼女の温もりを愛しく思いながらも、まだ怒っている事を表情で主張してみた。ものの、ルナマリアからの反応はない。
「おい、聞いてるのかよ!ルナ!」
「あっ!あれ!シンあれ何?!」
「う、っわ……!!?」
 構わずルナマリアが進行方向からずれた場所へと走り出した。すると、彼女と手のつながれたシンも自然と走らざるを得ない状況になる。人混みをかき分け二人、走り出す。繋いだ彼女の手だけを頼りにして。
「“お正月”って楽しいね」
「正確には“その為の買い出し”で、“正月”は明日なんだけど」
「何でもいいわよ、楽しければ」
 少々聞き捨てならない様な気がしないでもないが、一緒に色々と廻った時の彼女があまりに楽しそうだったし、実際自分も楽しかったので、シンは目を瞑る事にした。
「プラントにはこんなのないから、すごく新鮮っていうか」
 まだ興奮冷め遣らぬ様子でそう言う彼女をシンは見つめる。一口かじっただけの林檎飴を手に嬉しそうに話す彼女は、こうして見るととても軍人になど見えない。
 彼女がオーブの事を何も知らないように、自分達の知らない楽しい何かがまだまだ世界にはたくさんあるのだろう。それを知らない事で少し人生を損しているのかもしれない。そう思うと少しだけ悔しくなった。口を突いて出たのは自分でも思いもかけない言葉。
「ルナ」
「なに?」
「もう一つだけ。教えてあげたい事があるんだけど」

「“ハツモウデ”?」
「いや、“お参り”。“初詣”は明日のニューイヤーズデイの日だけだから」
 ひっそりとした空間。神秘的な雰囲気を漂わせるそこに二人はいた。胸の前で掌を合わせて“祈りのポーズ”。目を閉じて神殿の中にいるだろう名も知らない神へ願いを捧げる。
「………」
 そっと目を開けた。隣りを見やると、シンを真似て静かに祈るルナマリアがいる。終わったのか目を開けるとシンを見、微笑んだ。
「終わった……?」
「……終わった」
「やっぱり、オーブって楽しいね。シンが羨ましいかも……」
 愛しい気持ちを忘れようとした事も、いっそのこと憎んだ事も、全て忘れて討ち滅ぼそうとした事も、今となっては考えられない事の様に思う。何故ならやっぱりこの国は美しくて、愛しくて。彼女に伝えたい事がたくさんあるから。
「そんなに気に入ったなら、ここに住んでみたら」
「……えっと……、プロポーズだったら全然オッケーなんだけど……?」 
「……っ!!?あ、えと……」
 半ば本気で言ってみたにしても、こうあっさりと真顔で返されてしまうとこちらとしても何て言って良いのか分からず、シンはそこにいるだろう名も知らない神へと思わず助けを求めてしまった。


【END】






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