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*destiny*
daybrake(シン×ルナマリア)/レン様リク。
 これほどまでにしあわせな時が、今までにあっただろうか。


【daybreak】


 やっぱり一人でいるのと、彼女がいるのとでは部屋の広さが全然違う。部屋の温度も、そして自分の中の心の温度も。ルナマリアの出産から二週間以上が経ち、ようやく彼女が家に帰ってきた。自分一人の時では考えられなかった彼女の明るい声と笑顔に懐かしさを感じると共に、シンは大いなる安堵を得た。
 おれは一体いつからこうなってしまったのだろう。やっぱりルナがいないと駄目だ。
 独りでいる事なんて、十四歳のあの日から過ごしてきて慣れているはずだった。目が覚めた時に、おはようを言う人がいない事も、部屋に帰ってきた時に、おかえりと言ってくれる人がいない事も、シンにとってはあの日からごく当たり前の事で、何の不思議もない事だった。だっておれには何もなく、誰もいないのだから。
 それがいつからだろう。
『おかえり、シン!』
 そう言ってくれるだけでなく、ずっと傍に、隣りにいてくれる。それはヨウランやヴィーノといった友人でなく、レイやメイリンの様な仲間でもなく。
『あたしは好きだよ』
 それは特別な位置にいる存在。それは仲間という位置を抜け出してシンの中の特別となった存在。
それはシンの真っ暗な、夜の様な心に光明をくれた存在。
「アアアァァ〜!!」
「ウゥ……、ワアアァ〜!!!」
「わ……っ!!え、あ……、あれ?」
 突如鼓膜を叩いた泣き声に、シンは現実に引きずり戻された。
「あ!シン起きた?ちょっとどっちか抱いて!!」
「あ、え?あぁ……」
 ――寝てたのか。
 寝起きのぼうっとする頭でシンは赤ん坊を抱き上げた。二週間ほど前に新たな家族となった二つ目、三つ目のシンの光明。
「うぁ……、えっと、その、よ〜し、よし……」
 不器用なりにあやしてみたものの、腕に抱いた黒髪の赤ん坊に泣き止む気配はいっこうにない。
「ほぅらほら、泣き止めよ、シーナぁ〜……」
 左右にゆすっても高くあげても抱きしめても泣き続ける赤ん坊に、シンはほとほとまいってしまった。今まで赤ん坊など触った事ない彼にとっては、(ルナマリアにも言える事だが)新たな家族を迎えたこの二週間、試練とも呼べるものだった。ルナマリアと赤ん坊が帰ってきてから今日まで、抱き方は少しずつ慣れてきたものの泣き止ませられた事は一度としてなかった。
「〜〜〜♪、〜〜♪」
「ア〜……、ウゥ〜……」
 さすがは母と言うべきか、女というべきか。ルナマリアが抱いた赤髪の赤ん坊、コウはほどなくして泣き止み、再びすやすやと寝息を立て始めた。
 ――すげぇ……。
 “コウ”が泣き止むと、まもなく“シーナ”も泣き止み、眠りに入る。シンは腕の中の赤ん坊がおとなしくなったのに気付くと、小さく嘆息した。
「いつもこうだよなぁ……」
「ん?あぁ、そうね。どっちかが泣いたら必ずもう一人も泣くもんね」
「いや、そんなんじゃなくて、シーナってコウが泣き止んだら絶対泣き止むんだよなって話だよ」
「え?あ……、そうかも」
 つまりは、いつもシーナを泣き止ませているのは、コウかルナマリアかという事になる。自分ではなく。静かにそっとシーナをベッドに寝かせると、はあ、ともう一つため息。そんなシンの様子を知ってか知らずか、ルナマリアは唐突にテレビを付けると、明るい笑顔を向けた。
「ほらほら、シン!もうすぐ来年だよっ!」
「あ、もうそんな時間か……」
 時刻はすでに23:50。テレビの中ではひしめき合う人々が今か今かとカウントダウンを待っている様子が見える。
「そうだよ。それなのにシンってば気持ち良さそうに寝ちゃってるんだもの。もう少しで寂しい年明けになるところだったじゃない」
「起こしてくれて助かったって事か……。コウとシーナに感謝しなきゃな」
「ふふ、そうだね」
 シンの向かい側のソファに座っていたルナマリアが嬉しそうに彼の隣りに陣取る。擦れ合う衣服、感じる暖かさ。彼女との距離がゼロになる。
 ふいにとてつもなく彼女に触れたい衝動に駆られ、すぐ傍にある彼女の手を取り握りしめた。彼女の方からもきゅっと握り返してくれる。心と心の距離は、今ゼロになった。
「ルナ……、おれ、こんなんだけど、赤ん坊一人寝かせられないような奴だけど、これからも頑張るから」
「……あたしも。あたしだって分からない事だらけだけど、シンが一緒だったら絶対大丈夫。一緒に頑張ろうね」
 そう言うと二人の距離はさらに縮まる。そしてまさに触れるか触れまいかというその時。
『ワアッッ!!』
 突如テレビの中が湧いた。シンもルナマリアもびっくりして思わず同時にテレビに顔を向ける。そこには、口々に挨拶を交わしながら新年を喜ぶ人々の姿があった。
「……年、開けたみたいね」
「……うん」
 言うと二人してくすくすと笑ってしまった。何がおかしいのかもわからないけど。ベッドを見ると気持ち良さそうに眠っている双子が見える。いつ見ても仲良しさんで微笑ましい限りだ。
 これほどまでにしあわせな時が、今までにあっただろうか。あの時一人ぼっちだったシンはもういない。ルナマリアがいて、コウがいて、シーナがいて。シンの心はもう夜などではない。
「あけましておめでとう、シン。」
「おめでとう、ルナ」
 今その存在を満たされた心で噛みしめた。


【END】





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