*destiny*
fear(シン×ルナマリア)
いつも気丈って訳じゃない。
今日は何となく変。
──貴方の言葉が欲しくなる──
【fear】
『コンディション“レッド”発令、コンディション“レッド”発令。パイロットは搭乗機にて待機して下さい』
聞き慣れたアナウンスが艦内に流れる。アラートにて待機していたミネルバパイロットの少年たちは足早にエレベータに乗り込んだ。
「護衛艦は俺とルナマリアが叩く。お前は真ん中をやれ。分かったな、シン」
エレベータのドアが開くと、そう言ってレイ・ザ・バレルは彼の愛機へと向かった。
「あぁ、分かってる」
シン・アスカはその背中に力強く返す。
「気をつけてね、シン」
ルナマリア・ホークがシンの身を案じる。シンはそっと彼女を抱き寄せた。
「うん、ルナも気をつけて」
少年と少女は互いの搭乗機体へと向かっていった。
今日も、殺し合いへと彼らは飛び立ってゆく。
軍に入るということは戦争に参加するということ。戦争など起きないと、思っていた訳じゃないけど、休戦状態は長く続かなくて、やはり戦争は始まってしまった。
黒煙が幾筋も立上ぼる薄曇りの空を、デスティニーが舞う。四時の方向に敵モビルスーツが二機。
シンはビームライフルを撃ち、敵モビルスーツを、串刺しにする。
レイの操るレジェンドの背部の円盤部分から突き出た八基の砲塔がそれぞれ違った方向へぐるりと回転し、四方四機のモビルアーマーを消し去った。
ルナマリアの駆るソードインパルスの後方から一機のモビルスーツが忍び寄る。
ライフルを構えた瞬間に、腕部ごとビームブーメランに持っていかれる。それを認識した頃には、死角から躍り出たもう一つによって、機体を真っ二つにされていた。
今までに一体何人の人を殺してきたのだろう?
今のこの瞬間も敵軍の命をその手にかけながら、ルナマリアはのろのろと考える。
最近では吐き気さえあまり感じなくなった。そんな自分に少し嫌悪感を覚えながら
──だって仕方ないのよね、これが戦争なんだもの。
また一機堕とす。
──殺らなきゃ、殺られるもの──
──何だろ。今日は気分が悪いな…
アラートで、ルナマリアはパイロットスーツに身を包み、一人椅子に沈み込んでいた。
──シュッ──
ふいにドアが開き、漆黒の髪の少年がブリーフィングルームへ入ってくる。
「あれ、レイは?」
「まだみたい」
「ふーん」
少年──シンは、視線はルナマリアに向けずにそう返し、窓へと歩み寄った。
最近は戦闘続きだ。この間は地球軍だったが、今日はオーブ。
──何が来ようと、全部おれが叩き切ってやる…!
シンは静かな闘志をふつふつと燃やす。その時──
──!?
ふと彼は、背中に柔らかいものを感じた。
「ル…、ルナ?」
背中越しに見やると、ルナマリアがシンにすがる様に抱き付いている。
自分の腰に、彼女のほっそりとした腕がまわる。
「…っ」
頬が熱くなるのを感じながら、どうしていいかも分らず、ただおろおろと戸惑う。
「…シン、あたしのこと、どう思ってる?」
「えっ…?」
ルナマリアにちょっとした違和感を感じて、彼女に向き直り、その肩を掴む。
「ルナ?どうしたんだよ。今日のお前、ちょっと変だぞ?」
ルナマリアは自嘲気味に呟いた。
「…そうね、今日のあたし、ちょっと変かも」
──ほんとに変…。何故だか無性にあんたの言葉が欲しいのよ。
シンが心配そうな表情でルナマリアの顔を覗き込んだ。
「ね、お願い。教えて…?」
シンは戸惑った。ルナマリアは大切な存在だ。そりゃどちらから共なくそんなこと言わなかったけど、言わなくてもお互い分かってると思ったのに。
──キスも始めてじゃないわけだし…。
それよりも今シンが気になるのは、今の彼女は消えてしまうのではないかと思う程
──儚い──
シンは彼女の存在を確かめる様に、強く抱き締める。
「あっ…」
シンの体温が伝わってくる。彼の力強さが流れ込んでくる。
──ルナをどう思ってるかなんて…
──決まってる。
「…好き。好きだよ、ルナ。」
彼女の耳元で囁いた。
──ありがとう。その言葉を待ってた。
ルナマリアもシンの背中へ腕をまわす。
「こうしてると安心する…」
自分の中のからっぽな心が満たされる。彼への思いであふれてく。
「ルナは…?」
「ん?」
「おれのこと。」
──可愛い。そんなこと言わなくても分かってるでしょ?
「好きよ、シン」
肌の温もりを感じる。心が満たされる。安心出来る。
そのまま、どちらからともなく二人は唇を重ねた──
『コンディション“レッド”発令、コンディション“レッド”発令。パイロットは搭乗機にて…』
アラートのドアが開き、レイが入ってきたと同時に、アナウンスが流れた。そのまま少年たちは弾かれた様にエレベータに乗り込む。
少女は気付かなかった。今日、彼女を支配していた感情。それは本来抱くのが普通の感情。
少年たちもまた気付かなかった。それはとうの昔に忘れてしまった感情。
──“恐怖”だということに──
「シン・アスカ、デスティニー行きます!」
──今日も彼らは戦場へと飛び立ってゆく。──
【END】
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