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*destiny*
the principle of equality(シン→ルナマリア←レイ)/心様11111hitキリリク。
『そういう事なら容赦はしない』
 十分に威嚇を含んだ科白を思い出す。あの時そう言い放った彼は、いつもの彼ではなくて、まるで蛙を睨んだ蛇の様な……アレ?それっておれが蛙って事か?
 用途の間違いよりも大いにずれた箇所にセルフ突っ込みを入れ、そんな場合じゃない、とシンは慌てて頭を振って自身を奮い起こした。
 角からこっそりと様子を窺うその様は、変質者以外の何物でもない事に気付く様子は全く無く、怒りのオーラを身に纏い、全身をわなわなと震わせる。紅く光る双眸はさながら獲物を狙う猛禽の様に殺気立った雰囲気を漂わせていた。

「あれ?シンだ。何してんだろ、あんな所でプルプル震えて」
「ウサギみてーだな…」
 後方を通り過ぎる、整備班所属であり友人でもある二人の会話などまるで聞こえている様子も無く、シンは心底悔しそうな声で低く呻いた。
「くっそぉ…、レイの奴…」

【the principle of equality】

 幼い頃よりシンにとって、欲しい物を手にする事は容易では無かった。厳し過ぎるという訳では無いが、決して甘やかす部類では無かった両親は、彼が「欲しい」と言ったからといって、無償で与える事など無かったし、妹が生まれてからは「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」などと、それこそ耳にタコが出来る程聞かされて育ってきたものだ。
 だからといって素直に諦めるという人種では彼は決して無く、最後の手段に出る事になる。新発売のキットを手に入れた時も、最新のPCを手に入れた時も、はたまた赤服さえ手にした時まで役に立った手段。“努力”だ。
 しかし、今回の“障害”は、金や成績といった努力次第で何とか成るものではない。何せあの男が相手なのだから。戦う前から負け戦だと決まっている様なものだ。
 “二人”が居なくなった今、自分は何をしているのだろうという事にようやく気付き、その場からくるりと踵を返す。副長に呼ばれている事などすっかり忘れ、彼の居ない自室へと向かった。その脳内は“あの時”にトリップする。

「ば…っ、そんな訳無いだろ!訳分かんないよっ!」
 突然の質問に、シンは咄嗟にそう返した。文字通り、顔を火が出そうな程真っ赤にさせて、いかにも動揺してます、といった様子で、目の前の鉄面皮を睨み付けた。
 全力で鼓動を刻む心臓に落ち着けと命令を送る。平静を装う事だけに全神経を集中させた。急に何を言い出すのかと思えば。
 この場に居もしない少女の存在は、シンを爆発させる起爆剤の様な物だ。そして目の前の少年が、起爆スイッチを握っている。そう。これでもう、いつでもおれは吹っ飛べる。……じゃなくて!!
「じゃあ、俺がルナマリアと何をしようが、お前には関係無いな」
「なぁっ…!?な、ナニって…何?!!」
「そんな事をいちいち言えと言うのか?」
 ぴくりとも表情を動かす事なく普段では考えられない様な事をしれっと言ってみせるレイの前に、シンはただでさえ真っ赤な顔をボフンとでも音がしそうな程、更に赤く染上げた。頭は熱で働かず、言葉は意味不明な物にしかならない。
「何だ?やはり、気があるのか」
「だ…ったら、どうだってんだよ!」
 瞬間、レイの目付きが変わった。──様な気がした。冷ややかな、見下す様な…。
「そうか…。そういう事なら容赦はしない」
 そう言って部屋を出て行く彼の背中を見送る。しばらくぽかんと口を開けて立尽くしていたが、段々と頭が冷えてくると、初めてシンは気付いた。頭に血が上ったまま突発的に言い放ってしまったがこれって…。
「ゆ…」
 ──誘導尋問?!!
 自白させられた上に宣戦布告までされ、あのレイが“そういう事”に興味があった事や、ルナマリアを“そういう目”で見ていた事に驚く程、シンの脳はまだ回復しきっておらず、一人になった自室でシンは頭を抱えた。

「おーい、お前たち!シンを見なかったか?」
 後ろから掛けられた声にレイ達は足を止めた。声だけで近付いて来ているのが誰なのかが分かる。隣りでルナマリアが「げっ」と呻いたのが聞こえた。振り返り、二人して敬礼をする。やはり副長だ。
「見ていませんが」
「シンがどうかしたんですか?」
「いやな、仕事を手伝わせようと思って呼付けておいたんだが、この様子じゃ、忘れてるな、あいつ」
 シンらしいわね、とでも言いたげにルナマリアが肩を竦めてみせた。レイはある事を確定し覚悟を決める。丁度休憩中だし断る程の用事等も特に無い。
「仕方ない、メイリンに呼んでもらうか。確か…オンだったな。それまでは…」
 予想通りの展開に、やはり予想通りルナマリアは力一杯顔をしかめた。
 疎らに人気の漂う艦内を滑る様に進む。曲り角で必要以上にスピードを落さねばならないのが無重力の不便な所だ。焦るというよりは煩わしさを顔に滲ませ、目的の場所へとシンは急ぐ。
 ふいに次の曲り角から現れた人影にぶつかりそうになり、慌ててシンは半身を捻る。反射神経と全身のバネを最大限に活用し、とりあえず衝突だけは免れた。そのまま慣性に従い通り過ぎようとするが、その人物がただでは擦違えない人物であると判明すると咄嗟に壁を掴んで止どまった。いや、もしこのまま彼が行ってしまったとしても、“彼女”がそうはさせなかっただろう。
「シン!!」
「ルナ…、あ、ごめん。ちょっと急いでて」
「ふぅん。何処に行こうとしてたの?そんなに急いで。もしかしなくても副長の所かしら」
「な、何でそれ……ぅ、わ!!」
 いきなり軍服の首の辺りを乱暴に掴まれると、そのままぐいと引寄せられ、彼女の顔が信じられない程近くなる。形の良い唇から洩れる吐息はくすぐったく、鼻と鼻が擦れそうでシンの心臓はまた全力で走り出した。
「冗談じゃないわよ!何であたし達があんたの仕事の尻拭いをしなきゃなんない訳!?」
 物凄い剣幕でまくしたてられるが、その内容は悲しくもシンの耳を右から左へ抜けてゆく。相変わらず宝石の様に綺麗なサファイアの眸とか、額にさわさわと触れる柔らかな、炎の様に赤い髪とか、すうっと伸びた高い鼻とか。総てがシンをおかしくさせた。ほのかに漂う甘い香りはシンの脳を麻痺させる。
 腕がこの少女を思いっ切り掻き抱きたいと悲鳴を上げているのに、そうさせないのは彼に残された最後の理性だった。しかし、それにもそろそろ限界が近付いている。
「ちょっとぉ、聞いてんの?!」
「ルナ…」
 駄目だ。もうどうにでもなれば良い。自分の理性にあっさりと別れを告げると、脳が発する命令通りに腕を広げた。その瞬間。
「ルナマリア」
「あ…、レイ」
 急に首元から手を離され肩透かしを食らったかの様にへなへなと力が抜け、シンはゆっくりと腕を下ろす。ルナマリアの肩越しから、レイがちらりとこちらを見た様な気がした。
「うっそぉ!いいの?ホントにありがとうっ、レイ!」
 少女の至極嬉しそうな声に意識を取られる。その横顔を見てシンは愕然となった。
 見えてしまった。最近どうしようもない程に気になっている少女のとびきりの笑顔が。これがもし彼以外に向けられた物なら、素直にシンの表情に笑みが浮かんだかもしれない。ましてや自分に向けられた物なら重力の少ないこの床でなくても10pは浮いてしまっていただろう。
 ──何であんな可愛い顔してんだよ…。
 どこからどう見てもお似合いに見える美男美女にシンは何だか凄く居心地が悪くなって吐き気を覚える。床を突抜けるのではないかと思う程沈んでいった気持ちは、激しい怒りを纏いながら浮上する。
「じゃ、行こっか、レイ」
「な…、どこ行くんだよ!!」
 そんな事は二人の勝手だというのに、思わず叫んでしまった。
「お前には関係ないだろう」
「ドックよ」
 あっさりと行き先を告げるルナマリアに、レイが顔をしかめたのが見える。ドックという事は、なるほど。ザク関係か。これが「今から自室へ行く」なんて言われたら暴れ回っていたかもしれない。少しだけ安堵を覚えたものの、やはりこの二人を“二人きり”にしたくなくて、その場凌ぎの科白を口にした。
「おれは…、ルナに話があるんだよ!」
「後にしろ。大体お前は副長に呼ばれているだろう」
「そんなのは…後から行く!おれは、今ルナと話したいんだよっ!!」
「…いい加減にしろ」

 何だか大変な事になってきた、とルナマリアは、ぽかんとその様子を見つめる。周りの人間の視線がこちらに注がれているのに気が付くと、大声で(主にシンが)自分の名前が連呼されている事が恥ずかしく思えてきて、慌てて二人に割って入った。
「ちょっと!やめてよ二人とも!こんな所でみっともない!」
 以前睨み合ったままの二人は、龍と虎…というよりは犬同士の喧嘩みたいだ。何となくシンが、う〜…と唸っている様な気もする。溜息を一つ吐くと腰に手を当て言い募った。
「シンもそんなに唸らないの!話なら聞くから!レイ、悪いけど、先行ってて」
 無表情を崩さず返事も返さずにレイが背を向け遠ざかってゆく。付き合いは決して短くないのに、相変わらずの判り難さにルナマリアは眉根を寄せた。残る問題は──。
「で、何なの?話って」
 改めてそう言われると、シンはあたふたとうろたえる。後先考えずに言ってしまったその場凌ぎの言葉を、今は少しだけ後悔した。
 レイがさっさとどこかへ行ってしまうと、好奇の視線を注いでいた周りの兵士がぱらぱらと散ってゆく。中には「何だつまんねぇ」といった言葉まで聞こえてきた。いたたまれなくなって、シンはルナマリアの腕を掴むと、物陰へと連込んだ。
「…った!何?何なのっ?!」
 逃げる様に隠れ込みそこで腕を離すと今度は華奢な肩をがっしりと掴み、真剣な眼差しで彼女の顔を覗き込んだ。
「ルナってレイの事…、す…、好き…なの?」
「へ?」
 ルナマリアのきょとんとした顔がシンを見つめる。何かを考え込む様に視線を彷徨わせた後、彼女はにっこり笑って口を開いた。
「うん、好きかな」
 刹那、頭上からスパナでも落ちてきたかの様な衝撃を、シンは受けた。そうか。そうだったんだ。何だよそれって。突如目の前が真っ暗になり膝がかくかくと笑っていた。

「あ、シンだ。何やってんだ?てか、ルナも一緒だ」
「何か落込んでるみてーだな。ホント分りやすいヤツ」

 はたから友人に見られてるとも知らずに、シンは絶望の淵を彷徨っていた。何だよ。そういう事かよ。つまりおれはピエロって事かよ。
「でも、シンも好きだよ?」
「えっ?」

「あ、喜んでる」
「犬みてーだな」

 聞こえた言葉に耳を疑った。今確かおれを好きって。でもそれじゃ二股…。待てよ、いっその事レイを……。物騒な事を考える脳は段々と回転数を上げてゆき、今最高値を迎えた。ルナマリアの次の言葉に再度フリーズする事になるとも知らずに。
「それに、メイリンも好きでしょ」
「…はっ…?」
「ヴィーノにヨウランに…、艦長もだし、副長は…、ムカつくけど、まぁ好き。っていうか、この艦の人は基本的にみんな好きっ!」

「あ、固まった」
「ホント見てて飽きねーな、アイツは」

「話ってそれだけ?じゃ、あたしもう行くね」

「行くか…」
「大丈夫かな、アイツ」

 誰も居なくなり、その場に取り残されたシンは、まるで棒倒しの棒の様に、しかしスローがかった動きで、ばったりと倒れた。


【END】

【後書き】
ここまで読んで下さってありがとうございます。

とどまる所を知らないクラッシャーぶりです。何でシリィが書くと、こんなにキャラがあほになるんだろう…。こんなに愛でいっぱいなのに!(死)初めの方でシンが見ていた光景は、ルナマリアとレイがレクルームで仲良く休憩…みたいな感じでお願いします。(は)それから一応、アスランが複隊する前という事で。

心様、この様な駄文で申し訳ないです。ちゃんと取り合っている様に見えますでしょうか?(聞くな)少しでも楽しんで頂けたら幸いです。リクエストありがとうございました!






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