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*destiny*
distance(シン×ルナマリア)
始めて触れた彼女の手はとても滑らかで
それでいて、とても小さくて……
──おれは──

【distance】

「ルナマリア!よく狙え!!」
「…っ!分かってるわよぉっ!!」
 トリガーを引く手が焦りで震える。理解している。頭では理解しているのだ。
 ザクウォーリアのメインカメラが接近する影を捕える。
「ええぇいっ!!!」
 接近する地球軍モビルアーマーに向かってルナマリア・ホークは腰に構えたオルトロスを放つ。──が、躱されてしまい、堕とすことが出来ない。
「くっ…!!」
 更にモビルアーマーはミネルバへと接近をはかる。焦りに押し潰されそうになりながら、ルナマリアはビームライフルを構える。
「このぉぉ!!堕ちなさいよぉっ!!!」
 敵は、まるでルナマリアを嘲笑うかの様に攻撃を安々と躱してゆく。
 怒りと焦りが全身を支配する。もう、敵は目の前に迫っていた。
 敵モビルアーマーの、マシンガンの銃口がザクウォーリアの眼前で輝き…
「はぁっ、はぁっ……」
 身体の震えが止まらなかった。ザクウォーリアのコックピットの中で、ルナマリアは目を見開き、今、自分に死が訪れようとしていたことにただ恐怖を感じていた。

 機体が収容され、格納庫は整備スタッフが行き交い、まるで戦場の様に賑わっている。いつもの雰囲気をいつもの様に感じながら、シン・アスカはレイ・ザ・バレルと共に格納庫を後にしようとしていた。
 すると、視線の先に馴染みのある深朱の髪が見えた。
「シン、先に行っていてくれ。少しルナマリアと話したいことがある」
「あぁ、わかった」
 何の疑問も持たぬまま、レイの背中を見送った。

「シン、ちょっと待って!」
 食事の後、自室に戻ろうとしていたシンを、ルナマリアが呼び止めた。
「何、ルナ?」
 ルナマリアは周囲に注意しながらシンの耳元でひそひそと囁く。
「射撃訓練。付き合ってくれない?」
ガンッ!!ガンッ!!
 ルナマリアの射撃の様子を見ながら、シンはさっきから疑問に思っていたことを口にした。
「何で、さっきはあんなこそこそしてたんだよ?」
 ルナマリアは次の弾倉を装填しながら彼の問いに答える。
「ちょっとね…。レイに見つかりたくなかったのよ」
「レイに?…って、お前が訓練するとこを?」
 一旦、拳銃を台に置き、ゴーグルを外しながらルナマリアはシンに向き直った。
「あの後、レイにお説教されちゃって…。お前の腕では戦闘に出る意味が無い、とか、命を無駄にしかねない、とか」
 レイは、その分析力の高さゆえ、彼の言う事は全て理にかなっており、的を射ている。彼の説教は今に始まった訳ではないが、ルナマリアはその度に軽く流していたのに。
 シンはルナマリアにちょっとした違和感を感じた。
「…レイがあの時モビルアーマー堕としてくれなきゃ、あたし…、死んでた……」
 ルナマリアの深朱の頭が俯く。
 自分がインパルスで前に出ていた間に、ミネルバ付近でそんなことがあったなんて知らなかった。
「ルナ……」
「だからねっ、レイを見返してやりたいのよ!!実際、射撃ももっと上手にならないとダメだし」
 顔をあげてぱっと微笑む。ルナマリアの努力家なところは嫌いじゃない。彼女はいつもこうやって影で努力を重ねてきたのだろうと思うと、改めて彼女が赤服であることを実感させられる。

ガンッ!!ガンッ!!
 シンはルナマリアの射撃の腕に改めて舌を巻いた。
「……ルナ、今で弾倉何個目?的に弾痕があんまり付いてないんだけど…」
 ルナマリアは憤慨して言い返した。
「なっ、何よぉ!何が言いたいのよっ!!」
──多分、本人も解りきってるはずだけど…あえて答える。
「どうやって撃てばそんなに外れるんだよ?」
ガンッ!!
「ち…、ちょっとコントロールが悪いだけよっ!!」
──いや、それが致命傷なんだけど…。
 溜め息を一つ吐き、背を預けていた壁から離れ、ルナマリアの傍らへ移動する。この間の屋外での射撃訓練を思い出した。
「確かルナ、この間アスランさんに、手首を捻るクセがあるって言われてなかったっけ?見てたけど、捻ってるよ」
「そんなの分かってるわよっ!」
 頭では分かっているつもりだが、クセというものは、そう簡単に治るものではない。
ガンッ!!
 弾はルナマリアが狙う箇所、つまり中心から大幅にずれ、外円をかすめる。
──〜〜っ!!
 肩がずれる。手首を捻る。指に余計な力が入る。
 自分も射撃はそんなに得意とは言えないが、ルナマリアの射撃に業を煮やし、ついにしびれが切れた。
「─っ!だからっ、こうだってばっ!!」
「きゃっ…!」
「何でそこで手首を捻るんだよ?余計な力が入りすぎなんだよっ」
「………」
 ルナマリアからの反応が無い。俯いているその耳は、なんだか、赤い。
 少し冷静になってみると自分のしたことに、とてつもない羞恥が込み上げてきた。
──!!??
 急いでその手をルナマリアから離し、謝罪する。
「ごっ…、ごめん、ルナ!おれ…」
 心臓が早鐘の様なリズムを刻んでいる。頬がちょっと熱い。
──お、怒ったかな…?
 ちらとルナマリアを見やると、彼女は俯いたまま、顔を上げようとしない。シンがおろおろと困惑していると、ルナマリアが小さく呟くのが聞こえた。
「─に、──よ…」
 よく聞こえない。
「え…?」
 ルナマリアは焦れったそうに、少し怒った様に言った。
「べ…、別にいいよって言ったの!そうやってくれた方が……よく…解るかもしれないし……」
 顔は上げないままだったけど、照れながらそう言ったルナは、いつものルナと違ってて
──なんだか可愛くて──
「ルナ、顔上げて」
 シンは先程と同じ様に、しかし先程とは全く違った気持ちで、ルナマリアの背後から抱き付く様な形で、彼女の拳銃を握る手を優しく包み込んだ。
「あ…」
 少しルナマリアが身じろぎした。
「肩を真っ直ぐ伸ばして。」
「こ、こう…?」
「もっと、力抜いて。」
 ルナマリアの深朱の髪が、自分の漆黒の髪と重なる。
 甘い、シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
 心臓が全速力で鼓動を刻む。ばくばくと耳にうるさいくらいだ。
──何でこんなにどきどきするんだ?
──ルナにおれの心臓の音、聞こえてないだろうか?

──シンにあたしの心臓の音、聞こえてないかな…
 背中に、手に、シンの温もりを感じる。
 低い声が耳元で聞こえる。
──なんだかシンじゃないみたい──

ガンッ!!

「あっ…!」
「やったな、ルナッ!!」
 二人の放った弾は、的の中心を貫いていた。

「今日はありがとね、シン」
 ルナマリアは自室の前で立ち止まり、シンに礼を述べた。
 少し照れくさい気持ちを懸命に押し隠して、シンは彼女を茶化す様に返す。
「べっ、別にいいよ、こんくらい。それよりも今日の感じ、忘れるなよ?」
「分かってる。でも、これでまたレイに何か言われたらシンのせいだからねっ?」
「なっ…、何でそうなるんだよっ!」
「うそよ」
 悪戯っぽく微笑む。
 シンは肩をすくめて、自室に戻ろうと踵を返した。
「じゃあな」
「シン」
 その背に声が掛けられる。振り返ると、彼女は少し照れながら
「…また、付き合ってね」
 そう言って部屋に消えた。

 シンは自室へと歩きながら、ふと自分の手を見る。
 あの時の感触がまだ残っていた。やわらかくて温かい、小さな手。ほっそりとした肩。
 いつも同じ目線で話していたルナが、今日はとても小さく見えた。
──まるで、守ってあげたくなるような──
 アカデミーの頃からの、仲間程度としか思ってなかったルナマリアとの距離が、少し縮んだ様な気がした。


【END】






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