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*destiny*
halberd and shield(シン×ルナマリア)/Jimmy様、10500hitキリリク。
 “運命”でしか、言い表せない出来事がある。

【halberd and shield】

 “運命”という言葉が好きでは無かった。まるでそうなる事が決まっていたかの様な表現のそれは、やる事為す事未来に定められている様で、血の滲む努力なども水泡に帰す様な物言いだ。
 屁理屈を言えば、昨日食事の時に舌を噛んだのも運命。一昨日シャンプーが切れたのも運命。という訳では無いかもしれないが、そんな言葉を信じる程ルナマリアは信心深くないし、“お導き”なんて以ての外だ。
 しかし、この少年と出会えた事は努力や偶然で片付けられる程安くはない。それ程にこの少年との出会いはルナマリアにとって重要で大きい。といっても出会った当時はそんな事露にも思わなかった事が少し悲しいが、今はもし出会ってなかったら、と考えると身の毛もよだつ。

「何考えてるの」
 横からかけられた、気遣う様な声にびくりと身を竦ませ、我に返る。運命について考えてた、なんて恥ずかしい事が当然言える訳が無く、動揺を胸の奥に押隠して彼に向き直った。
「あ、…明日は晴れるかなって…。考えてたの」
 月並みな代台詞を口にしてから自分のボキャブラリーの少なさに頭を抱えたくなる。もたれた無機質な甲板の手摺が冷たく、虚しい。
「…晴れるよ」
「え?」
「今日は月が雲に隠れてないで綺麗に見えるだろ?だから明日は晴れる」
 オーブに居た時の知識だろうか。地球の事をあまり知らないルナマリアには、こういう知識に賢しいシンが大人に見える。月明りに照らされた顔は、月よりも綺麗だと思った。
 白い肌、黒い髪。そして、紅い眸。それら総てがルナマリアを引き付けて止まない。“魅せられる”というのはこういう事を言うのだろう。初めて彼を見た時から抱く感想は変わらず、かつてメイリンが傍らで、怖い、と言っていたのを思い出す。
「おれの顔に何かついてる…?」
 さっきまで眺めていた横顔が急にこちらに向けられたので、ルナマリアは慌てて視線を天上に逃がした。月明りで明るいといっても、紅潮した頬くらいは誤魔化せるだろうと、夜の暗さに感謝しておく。
「あ…っ」
 どちらかの物か解らない呟きが辺りに霧散する。もしかしたら自分の物だったかもしれない。しかし今のルナマリアには自分が声を発したかどうかも解らない程、意識が釘付けになっていた。

 急にルナマリアが、あっと息を飲むから、つられてシンも空を見上げた。
 人の顔をじっと見ていたかと思うと、ふいとそっぽを向いて今度は食入る様に空を見つめている。この少女といると、自分より一つ年上だという事をつくづく忘れがちだ。それを思い出させられるのは、時折姉さん面をして世話を焼いてくる時ぐらいか。
 刹那、まるで今までとなんら変わりない夜空を何かが切り裂いて行くのが見えた。一本、二本。
「…流れ星」
「綺麗…」
 そうか、とシンは思い至る。プラントにも流れ星くらいはあっても、その輝き、美しさは地球の比では無い。かつてオーブで暮していたシンには何の変哲もない現象であってもルナマリアの眸には、いつもの気丈な光が儚げに揺れる程、美しく見えるのだろう。
「あれも、運命…なのかな」
 聞き返してからルナマリアの顔を見れば、彼女は何かまずい事でも思い出したかの様な渋い顔になる。いよいよ訳が分からず、訝しむ様な表情でルナマリアの顔を覗き込むと、彼女は観念したという風に一つ嘆息した。
「あの流れ星も。運命だったのかな。地球に近付いてしまって。燃え尽きる、運命…」
 たどたどしく言葉を選ぶ様にして紡ぎ出す彼女に、ルナって以外とロマンチストなんだな、と胸中でこっそりと感想を抱きつつ、シンはきっぱりと言い放った。
「おれは運命なんて信じない」
 総てこうなる事が決まっていたなんて冗談じゃない。運命であったとしたら、オーブで育った事も、大戦が起った事も、オノゴロで戦闘になった事も、家族が殺される事も総て“運命”という二文字に片付けられてしまう。
 総て、総て。最初から決まっていた事だと言うのか。違う。あの時自分に力があったならそうはさせなかった。未来は自分の手でいくらでも変わる。変えられる。少なくともシンはそう、信じている。
「シンって、結構リアリストよね」
 ふいに投げられた言葉でルナマリアの方を見やると、蒼い眸が淋しそうな光を宿していたので、シンの胸中に雲が刺す。自分はそんなに怖い表情をしていただろうか、と惑い、そんな自身を諫めた。

 何となく予想はついていたが、完全にシンが運命否定派だと判明した今、彼の考えと自分の考えが同じだという事が喜ばしい事なのだと分かる。
 いや、そうなのだと、ルナマリアは無理やりに脳へと理解させようと努める。それは一般で言うと、防衛規制とか、慰めとかいう行為に値するのだろう。しかし、何故今こうやって自分を慰めようとしているのかが解らない。
「…ごめん」
「え…っ、何?」
 済まなさそうな表情で謝ってきたシンの顔を、ルナマリアはきょとんとした表情で見つめる。
「いや、おれ何かしたかなって…。何だかルナが哀しそうに見えたから…」
 謝られる様な事なんてされたっけ。いや、きっとされていない。この胸のもやもやだって、きっと睡眠不足か何かだろう。とりあえず、否定の意を述べようと口を開きかけて、言葉を飲み込んだ。
「あ…」
「ルナは変に思うかもしれないけど」
「おれは運命なんて信じちゃいないけど、ルナと出会えた事だけは運命なんじゃないかって…思ってる」
 耳から入った言葉を脳が理解するのに、やけに時間がかかった。まるで花が時間をかけて開花する様に、ルナマリアの心がゆっくりと晴れてゆく。もやもやの原因が判った途端、こんなにも嬉しくなるなんて、自分はどれだけ子供なのだろう。
 全く同じ事を思ってた、という事は、自分の胸の中にとどめておく事にした。第一自分のガラじゃない、と自分でも思うし、男勝りだの、妹の方が女の子らしいだの、女だてらにパイロットだの、そのくせスカートが短いだのと周りから言い囃されているルナマリア・ホークが「私もあなたと出会えたのは運命だと思います」なんて乙女チックな言葉を口に出来る訳が無い。
 だったらシンならいいのか、と言う話だが、まぁ、そこは…シンだし。失礼な事を考えている事に自覚は無く、少年を見やる。
 月明りや星明りから避ける様にそっぽを向いたシンは、ルナマリアの眼に堪らなく可愛く映る。きっと限界まで頬を紅潮させて、自分に気付かれない様にしているつもりなのだろう。
 ルナマリア自身も、あまりの嬉しさに自然と緩む頬を必死に引き締まらせて、何だか複雑な表情になる。シンが向こうを向いてて本当に良かった。
「…矛盾、してるけどね」
 そう言うと、少し笑って後ろから彼の手をそっと握りしめた。


【END】

【後書き】
ここまで読んで下さってありがとうございます。

インド洋ら辺だと思って下されば幸いです。(死)

運命って聞こえはいいですけど、何だか悲しいと思います。その二文字で割り切ってしまったら、それまで。みたいな。でも、もし最愛の人と出会えたとして、それは運命と言いたいと思う事は、まるで占いの良い結果だけを信じようとする人間のエゴなのでしょうね。

Jimmy様、こんな感じの駄文ですが、捧げさせて頂きます。リクエストありがとうございました!






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