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*destiny*
a sunbeam/(シン×ルナマリア)/捏造戦後話。レン様9999hitキリリク。
 ──君と一緒なら…──

【a sunbeam】

 あの頃、少しでも強くなろうと必死にこなしていた厳しいトレーニングやらシミュレーションやらの服務訓練規定に、昔(といっても半年程度しか経っていないが)程の情熱はもう感じられなくなっていた。ただ、訓練中は何も考えなくて済む。その事だけに没頭する事が出来る。それだけの事だ。
 いつからこんな風に現実逃避をする様になったのかと、シンは胸中で自身を揶揄した。
 達成感も満足感も得られない訓練が終了し、シンはパイロットロッカーへ足を踏み入れる。そこで、スーツを腰の辺りまで脱いだ赤い髪の少女を目の当たりにし、慌てて謝罪の言葉を告げその場を後にしようと背を向けた。
「待ってシン!」
 ふいに後ろから掛けられた声に少しびくつき、足を止める。次の瞬間に来るだろう鉄拳に備えて奥歯を少し噛み締めた。早鐘の様な鼓動は、もはや着替えを目撃した所為か、制裁に怯えている所為なのか、見当が付かない。しかし、返ってきたのは拳でも蹴りでも罵りの言葉でもなく、彼の予想の範疇を超えたものだった。

 先程からまるで代わり映えのしない地味な景色にいい加減嫌気がさし、ルナマリアは隣りの少年の顔を見つめる。風に流れる綺麗な黒髪とか、自分を引き付けてやまない紅い眸とか。癒し効果のあるとされる深緑よりも、この少年の方がよほど癒される、とルナマリアは思う。
 すると、視界の中の少年はこちらの視線が痛くなったのか、うろたえた様な気恥ずかしそうな表情で、何だよ、とだけ言った。もちろん視線は前方に固定させたまま。
「さっきから同じ景色ばっかなんだもの」
「だからってそんなじろじろ見るなよ。それに仕方無いだろ?」
 仕方無い。自分達が乗っているのが軍用ジープである以上“こういう場所”以外を走ると否応にも目立ってしまう事は十分理解している。だからと言って、小一時間も同じ景色はもういい加減うんざりだ。それに時間もあまり無いし。文字通り穴が空く程シンを見つめていると、前方が急にぱっと開けたのがわかった。

 遠く海が見渡せる小高い崖の上にジープを停め、シンは深く息を吸い込んだ。昼間のきらきらした海とは異なり夕方の海は、何というかこちらを呼んでいる様な、吸寄せられる雰囲気が漂っている。ちゃぷちゃぷと崖に打寄せる波を見下ろし、体を震わせた。ここから落ちたら苦しまずにあの世に行けそうだ。
 大好きな緑や海の匂いを吸ってもシンの心は晴れない。夕方で薄暗い上に、所々切れ間を覗かせるあの重苦しい雲のせいだろうか。久し振りの外の空気を満喫しながら気持ち良さそうに伸びをするルナマリアを横目に、ぺたんとその場に腰を降ろした。
「どうしたのよ、元気無いじゃない。折角誘ってあげたっていうのに」
 心配させている事に罪の意識を感じつつ、あ、いや、とだけ返す。当然世話焼きの気があるルナマリアはそんなシンを放っておく筈も無く、隣りに腰を降ろしすと、ずいっと彼に詰め寄り紅い眸を除き込んだ。
「何があったの。お姉ちゃんに言ってみなさい」
「誰が“お姉ちゃん”だよっ!」
 時々されるこの“弟扱い”が嫌いだ。“仲間、同僚”の域を脱した今でもこれなのだから勘弁して欲しい。思わず強く言い返してしまうが、今はその事じゃない。不機嫌さが眉間に残ったまま、シンは切り出した。
「訓練が…最近だるいな、と思って。あれ、まだやる意味あんのかな…」
「何言ってるのよ」
 心外といった表情のルナマリアに説教をされると、“三人で居た時”にその役割を担っていた金髪の少年を思い出す。理に適った、有無を言わせない彼のそれに比べれば、ルナマリアの説教などガミガミとうるさいだけだ。
 彼を懐かしいと感じる事が本当に居ないのだという事を、解っている所にうるさく繰返し言われている様で、少し苛立った。

 軍人の務めだとか、いざという時の為にとか、綺麗事を並びたててみたところでルナマリアにはシンの気持ちが解っていた。あの頃、自分とは違った、強い動悸がシンにはあった。平和を心から願うその裏には、いつも何かに対する復讐の炎が燻っていた様に思う。
 あの大戦が終わって思う事は、自分は何をやっているのだろう、自分がしている事に意味はあるのだろうか、という事。同じだ。自分も彼と。ただその答えが見つからぬまま、毎日を繰り返している。
 海のずっと遠く。水平線をぼんやりと眺めているシンに、ルナマリアは唐突に声を掛けた。
「ね、脱走しちゃおうか!」

 突然のルナマリアの一言に頭があまり働かずに、シンは視線を海に固定させたまま、そうだね、と答えた。すると、ルナマリアは興奮した様子で更に身を乗り出し、続ける。
「でしょ!軍人なんかしなくても、何とかやっていけるわよ。あたし、シンとだったら何にでも頑張れる気がする!」
 何だか恥ずかしい事を言われている様な気もするが、半ばそれでも良いとシンは思った。たとえ軍から追われる身になろうと、彼女を絶対に守りきる自信はあるし。
 ゆるゆるとルナマリアの方を向くと、何故だか彼女は俯いて、自嘲じみた笑いを浮かべた。
「…なんてね。冗談よ。やだ、本気にしちゃった?」
「…まさか」
「そうよね。メイリン残して行く訳にもいかないもんね」
 刹那、シンは後頭部を鈍器で殴られたかの様な衝撃を受けた。僅かでも自分の事しか考えていなかった自分にどうしようもない程の羞恥が込み上げて来る。
 守っている。彼女は。たとえ誰の後ろ盾があろうと、一度脱走した兵を周りが快く受け入れてくれる筈が無い。それがアスランの様な周りから一目置かれるエースパイロットならまだしも、彼女は一MS管制の通信士に過ぎない。だからといって離れて暮らすなど出来ない。只一人の妹を守る事も、ルナマリアにとって重要な役割だった。それがシンには痛い程理解出来る。
 途端、自分の傍らで淋しそうな憂いを帯びた眸を見せるこの少女を抱き締めたい衝動に駆られた。
 しかしそれは彼女の為にではない。急に不安で堪らなくなった自分を安心させる為にだ。少女を抱き締める事で得られる安心感やぬくもりが、今どうしようもなく欲しかった。どこまでも自分本意な欲求に愚かしさを覚える。
 震える手を理性と自制心で抑え、今は地に置かれたルナマリアの手に自分のそれをそっと重ねた。すると、彼女が肩にもたれる様にすり寄ってくる。
 いつからだろう。こんな風に感じる様になったのは。自分は彼女がいなくちゃ駄目なんだ、と思う様になったのは。

「冷えてきちゃったね。そろそろ戻ろっか」
 いつまでそうしていただろう。二人無言で寄添う様にして海を眺めていたら、ルナマリアが口を開き、強制的に現実へと引き戻される。しかし、名残惜しいのだろうか。ルナマリアは離れる素振りを見せない。
 ふいに海風が額を撫でると、ある物がシンの脳裏をよぎった。
「桜…」
「え…?」
「淡いピンク色の、小さい花を咲かせる木があるんだ」
 黙ってこちらを見上げてくる。唐突さに驚いたのだろう。自分でも何故今それを思い出したのか、解らない。
「それが凄く綺麗で…。いつかオーブに行けるようになったら、ルナに見せてあげるよ」
「いつかって、オーブならもういつでも行けるじゃない」
 そうじゃない。誰かにはからってもらって誰かの力で行くのではなくて。
「おれがルナを連れて行きたいんだ」
 きょとんとこちらを見上げていたかと思いきや、急にぷっと吹き出した彼女を見て、シンは憮然とした表情になる。
「…何で笑うんだよ」
「だって、急にそんな真面目な顔になるんだもの」
「悪いかよ」
 口内でぶつぶつと呟くと、見上げる蒼い眸がふっと優しくなる。再び海の向こうを向いて、楽しみにしてる、と呟いた。
 先の見えない毎日は、まるで雲に覆われたあの空の様だ。しかし、どんな空も雲の切れ間から光が差してやがて綺麗な青空を見せる様に、この気持ちもいつか晴れるだろう事を信じて、シンは雲の向こうにある筈の夕日を見つめた。


【END】

【後書き】
ここまで読んで下さってありがとうございます。

お花見デートけてーい(は?)

多分まだ軍人やってるだろうな、と思い、そんな戦後のザフト兵二人をお届けです。それにしても、さすがに地球にはいねーだろ、という突っ込みは栓を抜いた浴槽の湯のごとく流していただけると幸いです。桜を出したのは、出会いと別れの季節を象徴したというか、新しい兆しの花だからです。(言い訳やめれ)

レンさま、この様な駄文で申し訳ありませんが、どうか捧げさせて下さいませ!リクエストありがとうございました!






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