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*destiny*
sweet and bitter(シン×ルナマリア)/バレンタイン話。はや様、9500hitキリリク。
 こんなあたしが一番きらい。

【sweet and bitter】

 後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。
 沸き上がる様々な思いにルナマリアの脳内がパンクしそうになる。しかし、それらの思いが共通して彼女に与える感情は、“苛立ち”ただ一つだった。
 この銃に入ってるのが鉛玉なんかじゃなくてゴム弾だったら、あのニヤけた横面(ルナマリアビジョン)に遠慮無く二、三発お見舞い出来るのに。空恐ろしい事を考えている事に自覚も無く、自然と両手は銃を握り締めていた。
 後から悔やんでもどうにもならない事は、誰もが理解出来ている。しかし、何故そうなったかの原因をつい探ってしまうのが人間である。
 ──こんな事ならついて来るんじゃなかった。
 集中するべき本来の仕事をそっちのけにして、ルナマリアの思考は逆上る。

「シンが行くならあたしも行くから」
 男だから信頼性があるとか、女だから務まらないとか、そういう考え方が基本的にルナマリアは嫌いだった。
 大体、休暇を一緒に過ごそうと思っていた大切な人に仕事が入ってしまったら、誰だって行かないで欲しい、とか、追いかけたい、などといった気持ちに刈られるだろう。しかもその任務の内容とは──。
「護衛任務?」
「うん。護衛…ってか、まぁボディガードみたいなもんなんだけど…」
 だからそれって護衛じゃない、と、相変わらずの恋人の可愛らしさに胸中でこっそりと苦笑しながら、ふと思い付いたある事に顔を綻ばせ、提案した。自分もついて行く、と。
 危ないとか、心配だとか、散々シンに言われたけど、押し切った。シンが自分の身を案じてくれるのは素直に嬉しかったが、“か弱い女には無理だ”と言われている様な気がして、それがルナマリアの負けん気に火を点ける結果となった。
 それだけなら良かった。今日がただの、いつもと変わらない“普通の日”なら。
 妹から、今日が“特別な日”なんだという事を、聞きさえしなかったのなら。

 ──そういえば今日ってあの日だっけ……。
 眼前に差し出された黄色の可愛らしい包みによって、一旦フリーズしたシンの脳が、のろのろと回転を始めた。視線を包みに固定させたままぼんやりと、今の状況から繰り出される様々な疑問に、一つずつ答えを当てはめてゆく。
「あ…、い、いらなかったら誰かにやってもいいから」
 下方からおずおずと掛けられた声に、シンはようやく我に返った。今まで妹が母親から習いながら作ったチョコやらクッキーやらを微笑ましい思いで食べてきたシンにとって、この日がこんなに照れ臭い日だという事を初めて認識させられた。
 “そういう事”に興味なさそうな少女が、先程までの閣議での威風堂々とした態度などからはうって変わり、至極恥ずかしそうに差し出してくる“それ”を。
「あ、いや、ありがと…ございます…」
 無意識に受け取っていた。

 ──もらっちゃうの?!
 かちりとハンマーを起こしてしまい、あわてて安全装置を入れる。気を抜いたら発砲してしまいそうだ。
 ──そりゃそうよね。国家元首からの贈り物なんて断ったら戦争ものだわよね。
 半ばやけくそ気味な考え方で防衛規制を働かせる。しかし、いくらそうやって自分を納得させようと、彼が自分以外の女の子からプレゼントを受け取った事実は決して変わる事は無い。
 ──もうやだ…、帰りたい。
 各国の代表が帰り出そうが、まだ自分達の任務は続いている訳で。当然そんな事は許されない。もちろん、持ち場を離れて彼を彼女から引き剥がす事も。
 今、ピンクの長い髪を揺らしながらまた一人、少女が二人の元に近付いてゆく。ルナマリアの苦難はどうやらまだ続く様であった。

「カガリさん、シンさん。丁度良い所でお会いしましたわ」
 ほわりと優しく微笑む桜色の髪の少女の姿に、シンは、この人がプラントの代表なら二度と戦争なんて起きないだろうな、と心から感じずにはいられなかった。まあそれは、この金髪の人一倍お人好しな少女にも言えたことだが。
「ラクス、それ…」
「ええ。お二人に差上げようと思って、わたくし持って参りましたのよ」
 特上の笑顔と共に差し出されたのは、また可愛いくラッピングされたピンクの包み、二つ。
「マシュマロですわ。どうか後で召し上がって下さいな」
 礼を述べ包みを受け取りながら、ラクスの言葉にかなりの違和感を覚え、シンは自分の知識を疑う。
「ちょっと待て!ラクス。お前、何か勘違いしてないか?」
「はい?今日はバレンタインデーでしょう?」
「そうだけど、これって…」
「ですから、今日は“大切な方にマシュマロをプレゼントする日”なのでしょう?」
 カガリの突っ込みに微塵も動じる素振りを見せずに、何か問題でも?と、逆に小首を傾げてみせる。どうやら間違って認識している様だ。平和その物を模したかの様な二人のやり取りに、思わず苦笑が漏れてしまった。
「あら?マシュマロではなくて、下着…でしたかしら…?」
「違うって!今日は“女が男にチョコレートをやる日”だぞ!」
 “チョコをやる”って。その考え方もどうかと思うが…。二つの包みを交互に見下ろしながら、ふと脳裏に赤い髪の少女を思い浮かべる。
「ルナマリアさんの分もありますのよ。どちらにいらっしゃいますの?」
 その時、腰に提げた無線から、機械音が短く鳴った。

 もう限界だと思った。これ以上は見ていられなかった。女の子に囲まれている彼も、女の子に笑い掛ける彼も、女の子からプレゼントをもらう彼も。何もかもがルナマリアを苛つかせる。傷口をえぐられる様な、じくじくした痛みを胸に感じる。
 あまりの痛みに気がどうにかなってしまいそうだ。呼吸も苦しくなってきた。服の胸の辺りを掴む。早くここから姿を消したい。でも帰れない。公事と私事の狭間でルナマリアは苦しむ。
 その時、腰に固定した無線から機械音が聞こえた。
 耳から聞こえてくる待ち侘びた言葉にルナマリアは了解の返事も忘れ、逃げる様にその場から駆け出した。

「ルナ?」
 シンはきょろきょろと辺りを窺う。無線で任務終了を告げられ、やっと帰れるというのに。目当ての少女はどこにもいない。
 ある可能性を思い付き、試しに無線で軍へ連絡を取ってみる。やはり。可能性を裏付ける出来事にシンは理不尽さを感じ、顔をしかめた。
 くるりと踵を返し、すっかり誰も居なくなった会場を後にする。胸中で相棒の少女を罵る。
 ──何で勝手に帰ったりするんだよ。
 ──ルナ…ッ!!──

 手に握ったアルミ缶は、彼の心情を素直に受けてぐしゃりと潰れた。その拍子に少し飛び出した“中身”で手を濡らしてしまい、シンは舌打ちをする。
 結局あれから何をしても彼の中の苛々はおさまらなかった。食事を摂っても、シャワーを浴びても、雑誌を読んでも、だ。いつもなら彼の気分を向上させてくれるこれらの行為も、今日ばかりはその効果を発揮しなかった。
 少し濡れてしまった手を、軍服の裾にごしごしと擦りつける。いつも隣りにいる彼女が今ここに居たらきっと五月蠅く注意するのだろうな、と思うと少し、ほんの少しだけ後ろめたい気持ちに駆られた。しかし、すぐにそんな気持ちは消え失せ再発する苛立ちにむっつりと顔をしかめる。
 自分からついて来たいと言ったくせに、どうして勝手にさっさと帰ってしまうのだ。子供みたいな理由で怒っている事にも気付かず、目的の場所へと向かって歩き出した。

 彼女にとって最高の日となる筈だった今日は、最低な日になってしまった。何が悲しくて自分の恋人が他の女の子から贈り物をもらっている所を見なければならないのだ。大体少しくらいシンも気を遣ってくれてもいいではないか。
 すっかりパターン化した、箱から口への手の往復を止め、“最後の一つ”を口には含まずに元に戻した。ふう、と甘い香りのする溜息を吐く。
 彼がそんなに気の回る人間でない事は十分に理解している。だから余計に腹が立つ。
「ばか…」
 今だ胸中を支配する子供じみた感情に嫌気がさしてくる。デスクに突っ伏し、顔を埋める内にうとうとと襲ってくる今朝のツケに、ルナマリアは素直に身をまかせた。
 もうどうでもいい。まどろみがルナマリアを呼び寄せ、もう少しで眠りの淵に落ちようというその刹那。
「ルナ!居るんだろ?開けるぞ?」
 電子音の後に聞こえて来たのはルナマリアの悩みの種。今一番会いたくない少年の声だった。
 
 聞こえた拒否の返答に眉根を寄せるが、もしかして着替えの最中だっただろうか、と思い至り、再度部屋内に呼び掛けると、思いもかけない言葉がシンの耳を叩いた。
「そういう訳じゃないけど…、今はやだ。会いたくない」
 耳を疑った。自分が一体何をしたというのだ。どちらかといえば、ルナマリアの方が悪いのではないのか。
「何だよ、何怒ってんだよ!てか…っ、何で勝手に帰ったりしたんだよっ」
 思いのままに彼女を追及する。もはや一度火の付いたシンの勢いは止まらなかった。元来彼はそういう少年だ。思った事を、思ったまま口にする。だから周りに敵を作り易い。
「ルナの方から付いて来たいって言ったのに、訳分かんないよっ。おれが何かしたってのかよ!!」
「したわよっ!!」
「はぁ?」
 全く身に覚えが無い。悲鳴の様な彼女の声を聞いても何かを思い出す訳でもなく、逆に疑問が募るばかりだった。
「あんた今日、アスハ代表とラクス様からプレゼント貰って嬉しそうにしてたじゃないっ!」
 ようやく謎が解けた。彼女が怒っていた訳を知ると、何故か自分の中の怒りは一瞬で霧散し、笑みさえも零れた。声からはすっかり先程のトーンは落ち、扉越しに俯いているだろうルナマリアに向かって出来るだけ優しく声を掛ける。
「ルナ、入るよ?」
「やだっ!来ないでって言ってんのが分かんないの?!」
 彼女がロックを掛けるより早く、シンの指が素早くタッチキー上で踊る。認識の印に短く電子音が鳴り、扉が開かれた。

「ばかみたいって思ってんでしょ」
 蒼の瞳をきっと上げてシンを睨み付ける。恥ずかしくて泣きたい気分だが、しっかりと紅い瞳を捕まえて離さない。それが彼女にとっての最後のプライドだ。
「もうやだ。嫌い、あんたなんか」
 言い訳しないあんたが嫌い。何も言わないあんたが嫌い。優しい眸のあんたが嫌い。
 でも──。
「こんなあたしが一番嫌い…!」
 眼前の少女の可愛いらしさを再認識した時にはもう、抑制の効かない彼の感情が一気に溢れ出し、その細い身体を掻き抱いていた。
「おれにはルナだけだから」
 理解している。だからこそ嬉しい。妬いてくれた事が。ただ、少しくらいは信用してくれてもいいのではと思ったが、今回の事を招いたのはどうやら自分の責任らしい。今はあえて言わない事にした。
「ほんとばか…。あたし」
 本人も理解しているようだ。目の縁に溜った悔し涙(恐らく)が頬を伝うと、すかさずシンは指ですくってやる。
 そういえばと、今回の事態の元凶を思い出し、疑問に思った事をなにげなしにルナマリアにぶつけてみた。
「ルナはくれないの?おれに」
 問うと、腕の中の少女の眸が焦った物に変わる。そういえば今日の彼女はいつもと違う甘い香りがする。何だろう。

 何回目かしれない後悔がルナマリアを襲った。こんな事になるんだったら──!このフレーズも何回目だ。本来彼にあげる筈だったチョコレートは、先程自分がたいらげてしまった。世間一般で“やけ食い”と呼ばれる行為によって。
 彼の腕をすり抜けると、食べ散らかした残骸へと駆け寄る。不審に思ったのか、彼がこちらに近付いて来ると、急いで空の箱やら包みやらをゴミ箱に押し込み、残っていた最後の一つを摘んだ。
「何、どうしたの?ル…っ?!」
 これで許してくれるとは思えないけど、とりあえずシンの口にねじ込んでおいた。
「っ…、チョコレート…?」
「ごめん、それで最後なの」
 済まなそうに謝ってくる。なるほど。味と先程の匂いから察して彼女が食べてしまったという事が容易に理解出来た。
「一個じゃ足りないんだけど…」
 自分の食べ物を取られたという気持ちがルナマリアに無理な注文をふっかけると、予想外の“もの”が返ってくる。
「そんなに欲しいならあげるわよ」
「どこに…んっ?!」
 口を口で塞がれた事によって二の句が告げられなくなり、更に抱き付かれた勢いが強く、支え切れずにベッドへと二人して倒れこんだ。
 感触は甘く、口内はビターテイストで少し苦く。あの頃からは考えも付かない今回の贈り物に、シンはこっそりと頬を赤らめた。

【END】

【後書き】
ここまで読んで下さってありがとうございます。

えー、シンルナシンだと思う方は挙手をお願いします。(逝)
シンは女心とか解っていなさそうですよね。(何)感情ストレート一直線という感じがします。(阿曽)そんなイノセンスな彼が大好きです。(聞いてねぇ)

はやさま、こんな駄文でつくづくすみません(土下座)捧げさせていただきます!リクエストありがとうございました!

【END】






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