[携帯モード] [URL送信]

20
This is it.(シン×ルナマリア)

【This is it.】


「またなんであんたが料理なんか?」
「う、うるさいな。どうだっていいだろ? てか、いいよ別に手伝わなくたって。座ってろよ」
「だってあんた、見てられないんだもの」
「おまえだってたいして出来ないじゃないか」
「ほっといてよ! ああ、ほら。それ! 焦げちゃうわよ!」
 こんなことならもっと普段から女の子らしいことの一つでもしておけば良かったと、ルナマリアは心から後悔する。でも、まあ、完成したのだから結果オーライというところだろうか。悔んだところで軍以前の少女時代など取り戻せない。今更悩んだところで仕方ない問題で、ルナマリアはいちいち悩んだりしないのだ。ほら。紆余曲折を経て出来た料理は、普通に美味しそうだ。

「うん。普通に美味しい。食べられるものに仕上がって本当良かったわよね。やっぱりあたしが手伝ったおかげっていうか」
 満足感と美味しさとで満面の笑みを浮かべ、料理を口に運ぶ。それとは対照的に、シンはむっつりと口を尖らせた。何か不満に思ったことがあるようだ。
「で? 何か話したいことがあるんでしょ?」
 半ば確信めいたものがあった。明らかにこの状況は異質だ。
 彼の部屋への招待。そして、手料理の振る舞い。きっと何かある。無ければおかしい。その考えが間違っていなかった証拠に、シンの食べる手がぴたりと止まり、赤い瞳を不自然に泳がせた。
「前払い、ってこと? 要件はなんなの?」
 手を止め、シンの顔を覗き込む。よほど後ろめたい内容なのか、彼は口をぱくぱくとさせて、言い淀んでいる。少し焦れったくなりながらも待つ。やがて彼の口から出てきたのは、以外な言葉だった。
「……ルナってさ、ほんと、変なやつだよな」
「はあ?」
 予想だにしない言葉に、目を丸くしてしまう。
「アカデミーの頃だって、ずっと付きまとってきたし。おれ、いくら冷たくしても、ずっと」
「そうだったかしら? けど、なんかあんたって、ほっとけなかったのよねぇ……。レイとはいっつも喧嘩してたし」
「ミネルバに乗った後はおまえの方がほっとけなかった。ルナ、弱いし」
「な――! 失礼ねぇ! いきなりの実戦であんなに戦えるあんたがおかしいのよっ」
「地球に降りてから、ザク大破させるし」
「あれは死ぬかと思ったわ。ほんとに」
「それからも、色んなことあったよな」
「うん」
 シンと出会ってからあった様々な光景が甦る。恐怖、混乱、痛み、そしてその中での安心、嬉しさ。本当に色んなことがあった。今こうして生きて彼と食事をしていることが不思議なくらい、激動の中に自分たちは居た。それを思い出として思い出せるのは、今を生きているから。それもこれも――。
「シンのおかげ、かな。たくさん助けてもらったし、守ってもらった。あんたってば、ほんと強いんだもの」
「ルナ――!」
 突如強くなった彼の語調に顔を上げれば、感情に揺れる赤い瞳があった。不安、というよりは緊張しているような彼の顔。本当にどうしたというのだろう。今日のシンはどこか――。
「なに?」
 安心させるように微笑んで、優しく問いかける。やはり言いにくそうにしながら俯き、しかし顔を上げると、次の瞬間には意を決した表情。
 その口が紡ぎ出した言葉は――。
「結婚、して。ルナ。おれ、ルナのことが好きなんだ」
 きっと馬鹿みたいに口をぽかんと開けてしまっていたに違いない。
「な、な……、な――?」
 言われた言葉を頭の中で反芻する。夢か、幻か。自分自身の妄想か。混乱を極める内心をそのままにシンの顔を凝視する。ひどく真っ赤になった彼の顔。現実だ。今起こっているのは、今言われた言葉は現実のものなのだ。
「あ――、」
「………」
「あんたってば」
「…………」
「なんで本当にそういうこと、いきなり……」
 抱きしめられたのも、キスされたのも、そしてプロポーズまでも。全てが突然で、人の心の準備などお構いなしで。
「駄目、かな……?」
「駄目なわけ、ないっ!!」
 感情のままに立ちあがると、椅子を勢いよく倒してしまった。それでも構うものか。彼を、思い切り抱きしめたかったのだ。
 ぎゅっとしがみつくと、彼の手が自分の背中に回る。湧き上がる嬉しさ。嘘じゃない。夢じゃない。
「ありがとう、シン」
 生きていることをこれほど喜んだことがあっただろうか。きっと自分は、この日の為に生きていたのだ。全てのことには理由がある。こじつけだろうが、そうに違いない。そう考えると、この料理も彼の挙動も。なんだか全てが嬉しくて、可笑しくて、ルナマリアは心から幸せそうに笑う。
「あんただって、相当変よ?」
「知ってるよ」
 耳元で聴こえたシンの声も穏やかで嬉しそうなことに気付く。この幸せを少したりとも逃すまいと、しばらくルナマリアはシンから離れようとはしなかった。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

ルナマリアへのプロポーズ時には、可愛すぎるほどシンが恥ずかしがってたらいい。

駄文ですが、捧げさせていただきます。リクエスト、ありがとうございました!



[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!