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content(フレン×エステル)
【content】
おかしなものだと、フレンは思う。
以前の自分自身の境遇だと、到底考えられないような状況だ。
「フレン。お茶が入りました」
慌ててフレンは立ちあがる。手伝おうとするフレンを、エステリーゼはやんわりと断った。やってしまった。目を通すべき書類が多すぎて、少しそちらに集中すると、すぐにこれだ。といっても、その集中もすでに切れかけてきていたのだが、少し休憩を入れて頭を落ち着かせることにする。礼を述べ、茶をいただく。美味いと口にすると、エステリーゼは嬉しそうににっこりと微笑んだ。本当におかしなものだと、つくづく思う。騎士団長の代理、という肩書きを戴いているとは言え、平民出身である自分などと、次期皇帝候補である高貴な姫君とが同じ部屋の中で茶をいただいているなど。よくよく考えれば分不相応だし、あまりにも釣り合わないことだ。城を出て、外の世界を知って、今まで知る由もなかった世間を知って、年頃の少女らしい一面が垣間見られるようになったとは言っても、フレンの対面に座り、背を綺麗に伸ばして優雅に茶を召し上がっているこの方は、この国の、皇帝候補であるお方なのだ。
そんな人とこうしていられるようになったのは、そもそもどうしてだっただろうか?
「フレン」
「……え? あ、はい。なんでしょうか」
「どうしたんです? さっきからぼんやりとして。どこか具合でも悪いんですか?」
心配そうな瞳が、フレンを見つめている。
慌てて笑みを浮かべ、取り繕った。
「申し訳ありません。大丈夫ですよ」
「本当、です?」
「本当ですよ」
しばらく怪訝そうな瞳を向けていたが、やがてそれも微笑みに変わり、
「なら、良かったです」
そう言った。
その、自分だけに向けられた優しい笑みに、思わずどきりとしてしまう。
言葉は勝手に口から外へと飛び出していた。
「……どうして、そんなに良くしてくださるのですか?」
「――え?」
「貴女は、城に居らっしゃった頃から、どうして僕などに、そんなに良くしてくださるのですか?」
素直な問いだった。エステリーゼの気持ちを、改めて口に出させるだなんて、失礼なことだという自覚もあった。だけど、素直に知りたかった。気持ちが一方通行ではないことを確認し、安心感を得たいと思うのは、それほど悪いことではないはずだ。
自分のエステリーゼへの想いに嘘はない。だから、エステリーゼがどっちに転ぶ答えを口にしようと、全て受け入れるつもりだった。
「えっと、あの。それは、ですね……」
フレンは静かに待った。ただエステリーゼのことを、じっと見つめていた。
「……フレンはその、嫌、です? こうして一緒にお茶をいただいたり、その……わたしと一緒に、居る……時間は」
質問の答えになるものは帰ってこない。だけど、辛抱強く待ってみる。
「いいえ。貴女との時間は僕にとって何物にも代えがたい、大切な時間です。でも、だからこそ、僕は疑問に思うのです。何故、僕なのかと」
「………」
とうとう口ごもってしまった。そのあまりに恐縮しきった様子に段々と申し訳なくなってくる。
「……すみません。困らせてしまいましたね」
「……大、切だから、です」
「?」
「貴方のことが、大切だから、です。フレン」
顔を真っ赤にしてそう言いきってくれた。
もう、それだけで胸がいっぱいになってしまった。
立ちあがり、エステリーゼの座る椅子の背に近づくと、後ろからそっと抱きしめた。
この方は。本当にこの方は。
一途で。一生懸命で。健気で。
そうして自分のそばに居てくれる。
ああ、どうすればいい。
「エステリーゼ、様……っ」
今自分はどうしようもないくらいに、
「フレン」
彼女が愛おしい。
細い肩を抱きしめ、肩口に顔を埋める。華奢な肩が反応する。エステリーゼの腕がのろのろと上がり、フレンの腕に触れる。彼女からのレスポンス。何もかもが愛おしい。気持ちを抑えることが出来ない。
「フ、フレン……?」
「申し訳ありません、エステリーゼ様。僕は……、しばらく――、いえ、ずっと、貴女を抱きしめていたい」
そう言って一層力を込めた。
肩口に触れていた鼻先は、エステリーゼの首筋へ。細くて、そしてあたたかい。さらりとしたピンク色の髪は、とても良い香りがした。
少女が小さく呻き声をあげた。その、恥じらう様子も、段々と体温が上がっていくのも、全ての表情が、全ての動きが、愛らしかった。
しかし、その表情をよく見てみると、とても困惑している。
「今日のフレン、なんだか……いつもと違う、感じがします……」
「はは、そうですか」
ただ、今この時が幸せ過ぎて、恥じらう少女を解放してやることを、フレンはしなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
時には甘えられて姫はあたふたしてたらいいですね。
駄文ですが、捧げさせてください。リクエストありがとうございました!
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