[携帯モード] [URL送信]

20
fugitive soldier Athrun

 軍規どころか、上官の命令ですら背くことをしてこなかったアスランである。その行動に、どれほどの決意を要したことだろうか。
 こんなことは間違っている。そして、こんな中にいる俺も、間違っている。だからと言って軍の機密を知ってしまった者の辞職など許すどころか、その機密を持って行方を眩ますなど軍が許すはずがない。
 アスランに待っているのは、もはや処刑という結末のみ。
「そんなこと、あってたまるか……っ!!」
 むざむざと殺されるつもりはない。殺されるくらいならいっそ。脱走するほかにアスランの道はない。
 冷たい雨の降りしきる窓の外へ。アスランは身を躍らせた。


【fugitive soldier Athrun】

(ステージ1 ミーア・キャンベル)

 アスラン脱走の報はすでに基地全体に拡がっていた。施設中に耳触りな警報音が鳴り響き、警備、パイロット、整備士、オペレーターまでも全ての兵士がアスランを視認次第襲いかかってきた。アスランはそれから逃げ、時に撃退し、ひたすらに基地の外を目指した。
 雨に濡れそぼった前髪が顔に貼り付くにも構わずに走り続ける。不意に、誰かにぶつかりそうになる。撃退しようと手刀を振り上げた瞬間、誰かは怯えた瞳でアスランの名を呼んだ。
「ミーア!?」
「アスラン!!」
 ミーアはアスランの懐に思い切り飛び込んだ。アスランがぎょっとなって、引き離しにかかる。ミーアは取り付く縞もなく、わっと泣いた。
「アスラン、嘘よね、あなたが脱走だなんて! お願い、考え直して!!」
「……すまない、ミーア。俺はもう、ここには居られない」
「どうして?! あたし達は、婚約者でしょう!?」
「君は――ラクスじゃない」
 そうきっぱりと告げると、アスランはミーアをそのままに走りだした。だから、彼は全く気付けずにいた。
「ちっ。逃がしたか……。まあいいわ。必ず見つけ出してあたしの前に……」
 そんな彼女の、憎々しげな声に。

(ステージ2 メイリン・ホーク)

 兵士に逃げおおせる為にたまたま新入した部屋で予想外の助けがあった。ルナマリアの妹に遭遇し、コンピュータにハッキング。逃走経路を確保してくれようとしているらしい。
「君を巻き込みたくはない」
「気にしないでください。わたしが勝手にやっていることです。それにあなたの助けになれるのなら、どんなことだってします。だって、だってわたし――」
 短い電子音。基地外への隔壁が開く。同時に別の電子音。格納庫内部の警報機及び監視カメラ、熱センサーの停止。その終了合図。
「わたし、あなたのことが――……っ」
 振り返った瞬間。アスランの姿はもう無かった。少女の怒りに狂った絶叫が響き渡った。

(ステージ3 シン・アスカ&ルナマリア・ホーク)

「シン! お前は間違っている! 自分の頭でよく考えるんだ!!」
「うるさい! あんたは、あんたはいっつもォオーーー!!!」
「そうよ! アスランってばずるいのよ! シンは確かに馬鹿だけど、考える前に行動しちゃうけど、そんなにはっきりと言ってやることないじゃないっ!」
 特殊装甲通しのぶつかる鈍く重い音が雷鳴に負けじと轟く。アスランが操るのは旧世代と言える、アスランが乗るには些か性能の低い一般の緑服の兵士が扱うような機体。対してシンが乗るのはつい数時間前にロールアウトされたばかりの新型種。それも以前に彼が扱っていた機体の、全ての性能を飛躍的に向上させ、新たな機能も加わった悪魔的な機体。
「シン! お前は、お前はこんなところで! こんなことをしてほしくないっ!!」
「あんたはそうやって……、また――!!」
「そうよ! そうやってまたするりと逃げちゃうんでしょ! ディオキアの時もそうだった! あたしの誘いなんて無視して自分はラクスさまと! 本当いっつも思わせ振りなんだから!」
 グフのヒートウィップが唸る。デスティニーガンダムの掌部が瞬時に握り、パルマフィオキーナの光がウィップを焼き切る。
 ちなみに、洋上での戦いに参加出来ないルナマリアのザクは、地上にぽつんと残り、回線越しに何やらずっと叫んでいる。
「シィィン!!」
「くっそぉぉお!!」
「アスラン、あたしはずっと、ずっとあなたのことが、好きだったのにぃーっ!!」

「「…………」」

「ル、ルナマリア! 何を言って」
「アスラン……。あんたって人はよくも――」
 シンの、地の底から響くような恐ろしい声。
「よくもルナをやったなーー!!!」
「ちょ、待て! シン!!」
「うおぉあああーー!!!」
「やったって、何をだーーっ!!?」
 ズグリ――。
 機体に何かが刺さり、突き抜けている不吉な振動がアスランを揺さぶる。
 次の瞬間。アスランの操る青い旧型の機体は海の藻屑と消えた。

「ここは……、うぐっ!!?」
「駄目だよアスラン! まだ起きたら」 どうやら自分はまだ生きているらしい。あの状況で死なずに済んだなど、よほどの強運のようだ。そして、心配そうに自分を見下ろしている、顔。何故だかオーブの軍服に身を包んでいる親友の姿。
「キ、ラ……」
 ――何故お前が居るんだ。ここはどこなんだ。
「ここはアークエンジェルだ」
「俺、は……」
 ――どうなった。確かにシンに堕とされたはずだ。
「カガリとキサカさんが、必死になって君を探したんだよ」
「俺……議長……」
 ――議長の思惑を知ってしまった。それで、殺されるのならと思って脱走を――。
「分かってる。分かってるよ、アスラン。もう喋らないで」
 親友がどうして自分の言いたいことを全て解ってくれるのは疑問だったが、今はそれが有り難かった。ひどく久しぶりに心が安らいでゆく。
「分かってるよ。辛かったね」
「キラ……」
「ずっと、女難だったもんね」
「……………え?」
「辛かっただろう。もう大丈夫だよ。君は――」
 何を言い出したのか、理解出来ない。
「やっと、僕の元へ帰ってきたんだからね」
 混乱する思考にもやがかかる。どうなっている。頭も、手足も、体も、何も動かない。瞼さえも落ちてくる。
「ああ、薬がやっと効いてきたみたいだね。さあ、アスラン」
 最後にアスランの瞳が映したものは、
「楽しもうか」
 にっこりと妖しく浮かんだ親友と呼んだ少年の笑みだった。

(最終ステージ キラ・ヤマト)




ここまで読んでくださってありがとうございます。

アスラン脱走をギャグ風味で、ということだったのですが、アスランといえばやはり女難だろうと、アスランには可哀想なことになってしまいました……! シンルナはシン→ルナ感が否めません。

色々と申し訳が立たない駄文ですが、捧げさせてください。リクエスト、ありがとうございました!


[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!