[携帯モード] [URL送信]

20
condensed color(シン×ルナマリア)

【condensed color】


 その瞬間、シンが本当に穏やかに笑ったので、ルナマリアの心臓が大きく跳ねた。それから、頬が熱くなる。
「どうしたの」
 慌てて取り繕った笑みを浮かべて、ルナマリアはそう言った。まだ、心臓がどきどきとしている。
 このところ、本当に時々でしかないが、シンは時折今見せたような穏やかな笑顔を見せることがある。
 先の大戦から二年。
 あまりに傷付き過ぎた彼の心が、少しづつ癒えようとしている。ようやく彼は、彼を縛るあらゆるものから解き放たれようとしている。時の力。人間というものは得てしてそういう力に素直だ。その彼にわずかながらも笑顔を取り戻させようとしているものが、“時間”などという形のないものだなんて、ルナマリアはどうにも複雑な心境になる。
 ――その役目が、あたしじゃないなんて、ね。
 ずっと寄り添っていたつもりだった。
 軍が大幅に部隊編成されて、上層部が一新されても、シンと隊が離れてしまっても、軍を辞めることはせずにシンと少しでも一緒に居られることを望んだ。だから、こうしてオフの時間にしか会えなくても、ルナマリアはシンとの時間を大切にした。それでもルナマリアと共にいる時のシンは、どこかぼんやりとしていて、笑顔など見せることなどなかったのだ。
 ――思えばシンってば前からそうだったかも……。
 もともと笑うということをあまりしなかったようにも思う。ルナマリアが、士官学校時代に彼と始めて出会ってから、今に至るまで。もしかすると、その頃からすでに心は傷ついたというのもあるのかも知れないが。
 ということはつまり。
 ――あたしは、シンの新しい一面を見てる、ってこと?
 そう考えると、少しだけ嬉しくなってきた。単純なのかもしれないが、今、その事実が心から嬉しいのだ。
「ルナ」
「ん、なに?」
「どうしたんだよ。今日のお前、なんだか変だぞ?」
「そう? そんなことないけど」
「どこがだよ。さっきからぼーっとしてさ。どこか具合でも悪いんじゃないのか?」
 そう言ってシンはルナマリアの顔を覗き込む。真っ直ぐな赤い瞳。吸い込まれそうなほど美しい赤。彼と始めて出会ってからそれは変わらない。代わりに彼の顔は幼さを残していた少年のそれから、端正なまま青年のものへと変じようとしている。
 そんな彼に間近で見つめられて、ルナマリアの心臓はまた暴れ出す。気付けば、無意識にその唇に自分の唇を重ねていた。
「……っ!?」
 シンの目が驚きに見開かれて、それからその顔が真っ赤に染まる。
「いきなり何を――」
「嫌、だった?」
 悪戯っぽく微笑むと、彼は気まずそうに視線を逸らした。
「嫌とか、そういう問題じゃ……」
 そうして恥ずかしそうにしている様子がなんとも可愛らしくて、ルナマリアは心地よい苦しさでいっぱいになる。
 ――自分だって何の前触れもなく、あたしのこと抱きしめたりキスしたりするくせに。
 そっぽを向く彼の両頬をそっと包むと、こちらを向かせた。恥ずかしそうな、混乱したような赤い瞳がルナマリアを見つめた。もう一度、重ねる。シンの頬から手を離して彼の首へと腕を回す。首元に抱きつくような姿勢。彼の腕がゆっくりと上がり、ルナマリアの背中へと添えられた。軍服の上からでも分かるほど、あたたかい手だった。
 そうして二人、優しく優しく口付けあった。

 始めて出会った頃から、自分は彼のどれほどを知ってきたのだろう。あの、自分以外のすべてを憎んでいたかのような憎悪の瞳と、いつも不機嫌そうにしていた表情。それからルナマリアは彼の幾多のことを知ってきたのだろう。あまりに色々なことがあり過ぎた。稚拙なひとくくりのまとめにしか過ぎない表現だけれど、その“いろいろ”の中には悲しいも、辛いも、酷いも、憎いも、可哀想も、嬉しいも、楽しいも、そして、好きも。あらゆる彼への感情が詰まっているのだろう。
「シン」
「何?」
「大好き。ずっと」
 そう言って彼の胸に顔を押し付けると、それに呼応するように彼がルナマリアを抱きしめる手にぎゅっと力を込めた。切ないほどの幸福感に包まれながら、ルナマリアは一層、シンの温もりを求めた。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

ゆっくりと傷を癒しながら愛を育んでいったらいい。シンの少年のような可愛さも、青年になろうとしているかっこよさもその全てにルナマリアが惚れ込んでたらいい。

駄文ですが、捧げさせてください。リクエスト、ありがとうございました!



[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!