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*15*
cloth your eyes(ユリエス)
【cloth your eyes】


 旅に出て嬉しかったことの一つに、服装についてのことがある。
 城に居た頃は、就寝前にメイドによって翌朝の衣装が用意されてあり、それも上等の絹、レースのふんだんにあしらった豪奢なドレス。オーダーメイドなのでもちろん自分の体の線にぴたりと合い、そのデザインも宮廷付けのデザイナーによって自分の雰囲気やイメージに見事にマッチングした、皇族として相応しいもの。
 そんな衣装に身を包んで生活してきた十八年。そんなものとは無縁な旅の生活に慣れると、そんなことすら懐かしい。
 ぼんやりと物思いに耽りながら、エステルはお日様にすっかり乾かされた仲間達の洗濯物を畳む。ベッドの上に並べて、これがリタで、こっちがカロル、と一人でぶつぶつと指差し確認。全てが終わったことを確認して、にっこりと微笑んだ。
 自分の分の乾いた洗濯物を鞄に丁寧にしまう。
「?」
 妙な感触を指に感じて、エステルは怪訝そうに形の良い眉をひそめた。
 球状の装飾。つやつやとしたマント。たっぷりとした袖口の上衣。円を基調としたベルト。厳かなデザインの制帽。ヒールの付いた青いブーツ。そして、伸縮性の良さを感じる黒の内服。
 こんな衣装、自分は持っていただろうか。ピンク色の頭を可愛らしく捻って考える。
 そう。
 旅に出て嬉しかったことの一つは、今まで着たことのないデザインの服をたくさん入手出来たこと、だ。
 皇族たるもの、高貴な身分の者は必要以上に人前で肌を露出しない。それは鉄則であり、ドレスの丈はヒールの履き物を履いた足まで覆い隠し、背中の大きく開いたデザインのものはそれだけで“大胆”と云わしめた。
 しかし、エステルが今までの旅で入手した服の数々。そのデザイン。それ様々。
 オリエンタルな給仕服。
 安心感を与えるコ・メディカル。
 ショートパンツ。ミニスカート。胸元の大きく開いたものや、演劇に出演した際に使用した衣装まで。
「あ……!」
 手にしている衣装。それに確かな覚えがあった。
「闘技場の……」
 譲り受けた時に試着をするのがパーティーの中での暗黙の了解になっていたはずだったが、その時はエステル自身がひどく疲れていて見送りになっていたのだった。
「そのまま忘れてたんですね……」
 貰って一度も着ていない服。そのまま鞄の奥底に戻すにはあまりにも惜しい。
 ドアを見つめた。足音はない。誰かが戻ってくる気配はない。部屋に、一人。
 そこからは迅速だった。
 白い法衣を脱ぎ捨て、ピンクの内服に手をかける。ブーツもボトムも脱ぎ、コルセットも外した。下着だけになったあられもない姿。闘技場で貰った黒い服を着ようとして――、
「え……?」
 はたと手が止まる。
「これ、どうやって着れば良いんです……?」
 トップとボトムが繋がっている。しかしよく見ると背中部分にファスナーが付いている。開けた。そこから足を入れる。ストッキングを履くように、布地を手繰りよせて手繰りよせて、体を収めてゆく。
 着た。全身をストッキングの中に収めたような、妙な感覚。コルセットとはまた違った締め付け。
「それから……」
 腰でベルトを巻いて、ブーツを履いて、上衣を羽織って、マントを付けて――、
「最後に帽子を……」
 被った。
「出来た……!」
 くるりとその場で一回転。服の、デザインによる締め付けとはまた違った何かで、心がきゅっと引き締まるような気がした。
 新しい服を着た時特有の嬉しさがエステルを包む。と、なると次に思うのは――、
 ――誰かに見てもらいたい……!
 誰も来ないようにと祈りながら着替えていたのに、今では早く戻ってきて欲しいと思ってしまう。なんて調子の良い話。
 ベッドに腰かけた。
 足をぶらぶらとさせる。
 ドアの方を見る。誰も入ってこない。
 脱いだ服をきちんと畳む。
 コレクター図鑑の内容の整理をする。
 明日の料理当番の献立を考えてみた。誰も、帰ってこない。
 エステルは今、あまりにも一人だった。
 なんだか少し寂しくなってきて、立ち上がりドアの方へ向かうと、そーっと開けた。賑やかな声がした。隙間から覗いてみると、黒ずくめの服を着た背の高い青年が、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
「ユーリっ!」
 予想外に明るい声が出た。
 声に気付いた青年が、こちらを見た。
「よう、遅くなっちまった――、……っ?!」
 紫紺色の瞳が丸くなる。
 いざ見られてみると、そんな明らかに“良い意味”ではない彼の態度。少し不安になってきて、もじもじと萎縮してしまう。
「あ……、変、でしょうか? 闘技場で貰ってから一度も着ていなかったものですから……」
「いや、変――ってことはねえけど……」
「本当です……?」
「ん、ああ」
 何故か、目を合わせようとはしてくれない。
「あの……っ、わたし、外に出てきますね、みんなに――」
「ちょい待った!!」
 手首を掴まれた。びっくりして青年を見上げる。やっぱり、目が泳いでいる。
 ばたん、と扉が閉まった。再びの静寂。喧騒が扉の外へ去っていった。部屋の中に二人きり。
「あの、ユーリ……?」
「変じゃねえけど、……やばいんじゃねえか?」
 今度はきょとんと、エステルの瞳が丸くなる。言われている意味がわからない。今一度、自分の服を足の先まで見下ろして、ユーリを見る。
「やばい、です?」
 ユーリは目を合わさない。ずっと、そっぽを向いたままだ。なんだか釈然としなくて、ユーリの視線の先へと回り込んだ。無理矢理目を合わせる。
「!!」
「やばい、って、どこがです?」
「どこが、って……」
 ユーリの視線が下りていく。
 首、胸元、お腹、腿、脚……。
「〜〜〜ッッ!!!」
 まるで流れる血の音が聴こえそうなほどの勢いで、ユーリの首から顔にかけて、真っ赤に染まってゆく。
「あの、ユ――、」
「とにかくだ! それ、もうやめとけ! じゃねえと……保たねえって……」
「え?」
「なんでもねえよ。とりあえずもう着替えな。あいつらが戻ってくるまでにな」
 言ってすぐに出ていってしまった。ぽつんと一人。訳がわからない。せっかく新しい服を着たというのに。一体何が“やばい”というのだろう。なんだか悲しくなってきて、それでも似合っていなかったのだろうと結論付けて、また服を脱ぎ始めた。
 音が聴こえた。何かがずり落ちて、とん、とぶつかる音だった。
「エステル」
 ユーリの声だった。
 びくりとして、手を止めた。内服を上半身まで脱いだところだった。どうやら、外で扉にもたれているらしかった。
「その、なんだ。……服、良いと思うぜ」
 手を止めて、聞き入る。
「けど……、他の奴らの前では着ないでくれねーか……?」
「それって、どういう意味です?」
「そのままの意味、だよ。オレの前でだけで着てくれ。……頼むから」
 なんだかよくわからないが、悪い気はしなかった。だから、
「はい……っ!」
 そう、返事をしておいた。予想外に嬉しそうな声が出た。
 城にいた頃からしてみれば、考えもつかない。だけど、新しい服が着られることはやっぱり嬉しい。また着ようと思う。言われた通り、ユーリの前でだけで。
 その時まで、不思議な青と黒の服を、大切に鞄の奥底に仕舞い込んだ。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

あの服はほんとに目のやり場に困る、というか、あの服来たクロエやエステルと普通に接せれるなんてもう何とも思っていないとしか思えません。むっつりエローウェルさんには意識しまくってほしい。もちろん、自分の前で、というのは一人だけで堪能したい、とかじゃなく、他の奴らに見せたくないからです(はいはい)。

着てる当の本人は、すごいフィット感だなー、としか思ってあないと思います^^だから、余計にエローウェルさんをやきもきさせたらいいんですよ。

駄文ですが、どうか捧げさせてください……!リクエスト、ありがとうございました^^



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