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*15*
peaceful our daily life(エステル&リタ)

 それは、あまりに珍しい光景だった。
「どうして分かってくれないんです!?」
「それはあんたの方でしょ!」
 少女達のわめき声に意識と視線が集まる。あら、とか、へえ、とか、珍しいこともあるもんだ、とか、その反応はのんびりとしていて、どこかほのぼのとした様子で少女達のやり取りを片手間に見守ってる。
「もう――リタなんて……知りませんっ!!」
「勝手にしなさいよっ! エステルの……エステルの、馬鹿っ!!」
 その時は全くもって深刻に捉えていなかったこの事象。穏やかに見守るパーティーの面々。各々の浮かべている困ったような笑みが、やがて凍り付くことになるとも知らずに、時は過ぎてゆく。


【peaceful our daily life】


 エステルはまだ怒っていた。リタと喧嘩してから三時間。未だ怒りは冷めない。リタもどうやら怒っているらしく、エステルと目が合うと、ふん、という風に目を逸らした。そのことで燻りかけていた怒りの炎が再び燃え上がる。
 ――リタの、分からず屋……!
 もうそうなったら意地である。相手の行動の一挙一動を意識して、意識するあまり気付かぬうちに視線を送って、それに気付いてまた慌ててそっぽを向く。治癒術なんてかけてやるもんか。ああ、かけてやるもんか。
「ちょ、あれ? エステル?! あーもう! 活身ヒールスタンプっ!」
 謝ったって遅いのだ。治癒なんてしてやるもんか。

 そのリタが、カロルと何か話しているのを見つけた。
 思わず隠れてしまった。
「でも、エステルもあんまりだよね。治癒術ぐらいかけてくれれば……」
 ――!!
 なるほど、向こうはカロルを味方に付けたという訳だ。と、なると、こうしては居られない。エステルは走る。
「リタからも謝った方が良いって」
「冗談でしょ?! 悪いのはあの子よ! こっちの気持ちなんて知らないで……」
 何も知らないブーツの足音が遠ざかってゆく。

「いい加減仲直りした方がいいんでない? リタっちだって悪気があったわけじゃないっしょ?」
「わたしはリタと戦います」
「戦うってそんな……おたくらが喧嘩してんのだけでマンタイクの集中豪雨もんよ? これ以上珍しいこと起きたら……本気で槍でも降ってきちゃうわよ――」
「ホーリーランス!」
「だあぁぁああ?!!」
「治癒が必要です?」
《レイヴンが仲間になりました!》

「オレは誰の味方でもねえよ」
「わたしの味方になってくれます?」
「あのな、エステル。喧嘩してる間は分かんねえだろうが、辛いのは相手も同じなんだぜ。ましてやおまえらは親友同士なんだろうが?」
「わたしの味方になってくれます?」
「だから――」
「これ、下僕(レイヴン)に作らせたクレープなんですけど……」
「行くぜエステル、腹ぁ括れよ!」
《ユーリが用心棒になりました!》

「エステリーゼ様、どうかなさいましたか? まさか、敵ですか!?」
「敵です」
「な――! お任せください、エステリーゼ様! どんな敵だろうと僕が必」
《フレンが家来になりました!》

「ちょっと、用心棒とか家来とか、一体何の話なの……?」
 全く意図の読めていないらしい幼い顔の後ろに、ピンときたらしい賢い少女の顔。すぐにひきつったように口の端を吊り上げ、
「へえ、ふーん。ああ、そう。そういうことね。分かったわ。そっちがその気だったらこっちだって……。ガキんちょ!!」
「え? な、何? なんか嫌な予感しかしないんだけど……」
「あんた、あたしの奴隷にしてあげるわ!」
 カロルは絶句してしまっているが、それはさておき。リタも一人味方を付けたということだ。エステルの顔に不適な笑みが浮かんだ。
「挑む、ところです……!」
「待ってよなんだよ奴隷って! ボクは――」
「うっさい!!」
「いだだだ!! リタちょっとやめて! リーゼント引っ張らないで! ぎゃあああ!!?」
 その後、凛々の明星は二つに分かれることとなる。

「あら、面白そう。遠慮なく闘ってもいいのね?」
「ええ。ボッコボッコにしてもいいわ。おっさんを特に重点的に」
「なんで?! おっさん差別?!」

「ユーリと離れるなんて絶対嫌なのじゃーっ! ――はっ?! これはもしや、二人の愛を引き裂く試練なのかの!! これを乗り越えればムフフ」
「何でもいいけど鼻血出てるわよ」

「ちょ――、何よ犬っころ! そんな目でこっち見るんじゃないわよ!!」

 エステルとリタが喧嘩してから一週間。抱き込まれた(巻き込まれた)凛々の明星の面々も、いい加減うんざりしていた。パティは意気揚々と出来立ての鍋焼うどんを振る舞おうとするも、
「あう、ユーリはエステルチームなのじゃ……。うちの料理を食べてもらえんのじゃ……」
「ジュディスちゃんの豚の角煮、食ーべーたーいぃー!! 一口だけでも……」
「うっさい!!」
「いだだだ!! リタっちちょっとやめて! ちょんまげ引っ張らないで! ぎゃあああ!!?」
 いつも通りの賑やかしさの中にしかし楽しさなど無く。誰もが黙々と各チームの飯にありつく。誰とも無く溜め息が零れた。
「ごっそさん。オレちっと散歩に行ってくるわ」
「あら、私もご一緒しようかしら」
「ボクもちょっと走って来ようかなぁ〜。食べすぎちゃった。あれ、ラピードも?」
「おっさん! うちらもゆくぞ! 食後の運動なのじゃ!」
「やれやれ……。年寄りは休んでたいんだけどねぇー」
「みんな、どうしたんだい? 分かった。それじゃあ僕はここに残って荷物の番を――」
「おまえも来るんだよ!!!」

 訪れる沈黙。
 仲間達が場を設けてくれたのは明白だった。少女の間に流れる気まずい雰囲気。ぱちりと一瞬目が合った。何か言いかけたリタが気まずそうに目を逸らした。ズキリとエステルの胸が痛んだ。
 もう限界だった。
 喧嘩していても相手を見てしまうのは意識している証拠。そして、意識してしまうのは、そんな相手のことが大好きだという証拠。
 ――っ!!
「あの……っ!!」「……あの、さ」
 全く同じタイミング。それから、二人同時に目を丸くする。
「な、なに?」
「あの……、リタ……、わたし……。いつまでも、つまらない意地を張って……」
「そ、そんなの! あああたしだって子供みたいなことしたと……思ってる。その――」
「「ごめん」なさい」
 そして二人、全く同時に謝罪の言葉。一瞬きょとんとなる大きな瞳。見つめあう。それから、同時に吹き出した。
 笑った。ひとしきり笑った。
 実に一週間ぶりの笑顔だった。胸につかえていたものが、綺麗になくなった。なんとも清々しい、それでいて心からほっとした気分だった。
 やっぱりリタと喧嘩するなんて、これ以上は耐えられない。エステルの大好きな、友達。ずっと、大切にしたい親友。
 丁度一週間も前とは全くうってかわった雰囲気の二人を見守るは、被害者の面々。ふう、とか、やれやれ、とか、一様に呆れたような、しかし安堵の表情。嵐のような、一週間。もうこんなことはこりごりだ。
「やはりリタ姐とエステルに喧嘩など似合わんの!」
「そうね。二人とも、すごく幸せそうな顔しているもの」
「うん、やっぱりあの二人はああでなきゃ駄目だよ!」
「喧嘩するのも若いやつの特権ってやつさね。青春だねぇ〜」
「ま、仲直りしたのは何より、って訳だが……そもそも何であいつら喧嘩してたんだ?」

「やっぱりリタの意見に従います。そっちの方だって、良いかも知れませんし……」
「あたしもあんたの言うことに興味が沸いてきたし、それでいいわ」
「いいえ、リタの言う通りにしてください」
「分かった。じゃあ次はエステルの方にするから」
「はい!」

「………? なんの話だろう?」
「まったく会話の内容が読めんのじゃ……」
 顔面に疑問符を浮かべた仲間達が見守る中、渦中の少女は実に清々しい笑顔で言い切った。
「じゃあ、今日の目玉焼にかけるものはバルサミコ酢、というわけで、決定ですっ!」
「……………は?」
「明日はシーザードレッシングね!」
「つまり、なに……?」
「つまり、目玉焼きに何をかけるかで揉めていた、そういうことかしら?」
「………ど、」
「どうでも――」
「エステリーゼ様っ!! バルサミコ酢はプリンかショートケーキにかけるべきだと思います!!」
「そっちかよ!!!」

「ふふ、今日も平和ね」
「ワフゥ……」




ここまで読んで下さってありがとうございます。

エステルとリタの喧嘩……するとしたらきっとお互いの身を気遣って意見の食い違いとかで喧嘩になる、とかなんでしょうね^^今回はギャグ寄り、ということで、喧嘩の理由もギャグ寄りとなりました。それにしても壊れすぎ……!

大変お待たせしたうえに、このようなふざけた駄文で申し訳ありません……!リクエストありがとうございました!


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